子どもが不登校になったら親は焦るものです。ただ、かつて不登校だったという株式会社ゲムトレ代表取締役社長の小幡和輝さんは、「不登校は決してネガティブじゃない」と言います。「AERA with Kids 20201年春号」では、花まる学習会代表の高濱正伸さんと、小幡さんが対談しました。



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小幡 高濱先生と対談できるなんてうれしいです。ぜひ小学生の親御さんたちに伝えたいんです。不登校イコール終わりじゃないって。

高濱 不登校は、子育て中の親なら誰もが他人事ではない、不安を覚えるテーマだと思う。まずは不登校になった経緯を話してくれますか。

小幡 とにかく集団生活というものに違和感しかなかったんです。幼稚園のおゆうぎ会なんて大嫌いだったし、決められた時間に決められたことしかしてはいけないことに納得がいかなかった。小学校ではそうした縛りがさらにきつくなったので、もうやだってなりました。

高濱 自分の好き嫌いとは関係のないルールで動かなくてはいけないからね。たいていの子どもは、ほかのみんなもやってるし、仕方ないかと受け入れていくのだけれど、それができなかった。

小幡 学校という空間がいやすぎたんです。親にも行きたくない、休みたいってずっと言い続けたけど、聞き入れてもらえなくて。もう毎日バトルですよ。どうして学校に行きたくないんだって聞かれてもうまく話せないし。

高濱 大人はまず理由を聞いちゃうよね。

小幡 なぜ?という質問は子どもには酷です。たとえば僕は給食の牛乳が大嫌いだったけど、それはわがままだと許されない。アレルギーの子は許されるのに。でも、じゃあ牛乳を飲まなくていいなら学校に行くのかといえば、そういうことでは全然ない。言語化できないんです。

高濱 そうなると、学校にも家にも居場所がなくなってしまうよね。

小幡 そうなんです。僕は小2になって親とバトルをくりかえしながら渋々学校に行っていた3カ月間が一番しんどかったです。あれ以上続いていたら、自分はこわれていたかもしれない。ところがちょうどそのころ、クラスのガキ大将に殴られるというわかりやすい理由ができて、学校を休めるようになった(笑)。ある意味ラッキーでした。その後、僕の不登校生活は10年ほど続くんですが、すごくラクになったし、むしろ楽しかった。

高濱 そこなんだよ。君がラッキーだったのは、殴られたからではなく、学校に行かなくても学校以上に充実した生活を送ることができたからなんだよね。

小幡 確かに。近所に5歳上のいとこがいて、その子も同じころ不登校になっていたので、いつも一緒につるんでいました。2人ともゲームとマンガが好きでとにかく毎日ゲーム三昧。ゲーム「信長の野望」で歴史の面白さに目覚め、カードゲーム「遊戯王」に夢中になってゲームショップに通ううちに友だちもできた。そしてゲーム大会を手伝うようにもなりました。高校で起業したイベント会社も、この経験が生きています。

高濱 小幡くんの場合は、学校よりもっと面白い場所がちゃんとあった。そこには友人もいるし、夢中になれることもあった。居場所と夢中、この二つがものすごく大きいんだ。

小幡 不登校イコールひきこもりって勘違いする人が多いんですが、そんなこと全然ないんです。僕は、正しい不登校のやりかたを見つければいいんだと思ってます。学校の役割って知識を身につけることと友だちを作ることの二つだと思うんですよ。ならばこの二つを得られる場がほかにあるならそれでいい。不登校が問題なんじゃなくて、不登校になったあとが大切なんだと。

高濱 そうだよ。そうなんだけど、そんなに甘くないという現実も実際にある。学校以外に安心できる居場所と夢中になれるものがあって、いとこという仲間や友人がいたこと、さらにそうした経験を生かす能力もあったという自分のラッキーさと優秀さを簡単に一般化してはいけないと思う。子どもが学校に行きたくないからといって親などは「いいよ、わかった」とすぐには言えない。やっぱりその子次第だし、状況にもよる。その子のハートをしっかり見て、本質を見極めないとね。そもそもお互いの信頼関係がないと、何を言ってもダメだし。

小幡 そういえば、不登校になってからも学校の先生がうちに定期的に来ていたんですが、学校に来るべきというのが大前提だから、とてもいやでした。でも一人だけ、週に1〜2回「ゲームしよう」って来る女の先生がいたんです。学校に来いとは一言も言わずに僕とトランプだけして帰っていった。その先生のことはすごく信頼してました。実は僕、歴史好きが高じて修学旅行だけは行ったんですが、その先生のおかげもあったかも。せっかくだから修学旅行くらい行こうかなと。

高濱 そういうことってあるんですよ。まずは信頼関係なんだ。本人がホッとできる場所が1カ所でもあれば大丈夫、なんとかなるんです。

小幡 僕は、ゲームでみんなと対戦してみたらけっこう強いことがわかってすごくうれしかったんです。小学生でも中学生に勝つことができた。実は僕には弟が2人いて、どちらも成績もいいし運動もできるんです。僕ときたら学校には行ってないし運動も苦手。兄弟と比べる必要のないゲームによって、初めて自己肯定感が上がったような気がしました。そういう意味でも自分の居場所を見つけた!と思えた。だからなんにも自信が持てない子は、周囲と違うものをやってみるというのもひとつの手じゃないかな。

高濱 大勢の人がやっているものより、誰もやっていないものを見つけるというのはアリだよね。

小幡 好きなことなら没頭できるし、いくらでも努力できる。たとえ失敗しても続けられます。もちろん、何もその道のプロになれとか、将来の仕事につなげようとかじゃなくてもいいと思う。好きをきわめていく過程で世界は自然と広がっていくし、人とつながることもできる。それが大切なんじゃないかな。

高濱 そうだね。そして親の役割は、子どもが「自分の好き」を見つけられるようにすること。なかなか見つけられないかもしれないけれど、とにかく1回やらせてみる、見せてみる。

小幡 しかも今は、学校でなくてもそういうことができる時代になったんです。不登校は決してネガティブじゃない。

高濱 ネガティブではない。でもラクでもない(笑)。

小幡 はい、不登校は不幸じゃないけど甘くもないです。僕は、不登校になる前もなってからもずっと闘ってきた気がします。田舎に住んでいたせいで人の目もあった。ほかに居場所があったから気にならなかったし無視もできたけど。

高濱 確かに昔の不登校は、今よりもっと大変だったかもしれない。問題児扱いされていたんだろうね。

小幡 そう。昔はいかに登校させるか、だったけど、今では文科省も不登校児に対してさまざまな支援を提供するようになりました。もちろん学校が楽しいならそれにこしたことはない。なぜなら学校ってすごくコストパフォーマンスがいいから(笑)。勉強も運動も友達づくりも1カ所でできて援助も手厚い。効率がいいですよね。僕はゲームしながらフリースクールに行き、バイトしながら定時制高校に通い、起業後に推薦入試で大学生になりました。それはそれでけっこうたいへんだったけど、面白くもありました。今はそういうルート変更も可能だし、学歴といった一般的な評価軸も変わってきたことを知ってほしいです。今や学校がすべてではない、SNSでいくらでもつながれて、世界を広げることができる。

高濱 選択肢が多いのはいいことだね。

小幡 時代は相当変わってきたと思っています。たとえばゲーム=悪も、ひと昔前の価値観じゃないでしょうか。今はほかの人たちと協力しないと勝てないゲームのほうが人気だし、僕自身ゲームを通してコミュニケーションを学びました。僕が立ち上げたゲームの家庭教師「ゲムトレ」も、どうしたらうまくいくかを自分で考えて、ほかの人と協力しあって、勝てば自信もつく。僕は囲碁も好きですが、学べることは変わらないと思います。

高濱 ゲーム漬けはねぇ、やっぱりその子によるという気もするけど。ちなみに不登校時代、読書体験はなかったの?

小幡 うーん、ほぼないですね。ゲーム以外では、テレビのクイズ番組から雑学を、大河ドラマから歴史を、マンガからは決してあきらめない気持ちを学んだと思っています。本は、起業したときにビジネス書を読んだくらいかな(笑)。

高濱 僕も大好きだったマンガがあったけど、そのころは“マンガばっかり読んでないで勉強しなさい”が普通だった。でも今やマンガに対する評価はだいぶ違うよね。これからはゲームで何かをつかむ世代が登場してくるのかもしれないね。

◯小幡和輝さん
ゲムトレ代表取締役社長、#不登校は不幸じゃない発起人。1994年和歌山県生まれ。小学生から約10年間の不登校を経験後、高校3年で起業し、高校生社長となる。以降、SNSのプロモーション企画や地域活性イベントなどを行い、世界経済フォーラムが選ぶ世界の若手リーダー「Global Shapers」に認定される。 2019年には日本初、ゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」を立ち上げた

◯高濱正伸さん
花まる学習会代表。1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学に入学。1990年同大学院修士課程修了後、1993年に「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した、小学校低学年向けの学習教室「花まる学習会」を設立

(構成・文:篠原麻子)

※「AERA with Kids2021年春号」より