波乱のなかで開幕した東京オリンピック。今回出場する日本代表は583人にのぼる(男子306人、女子277人。7月15日現在)。2016年リオデジャネイロ大会の出場者は338人だったので、245人増となった。



 それまで過去最高だった1964年東京大会355人(男子294人、女子61人)も、大幅に上回る。女子選手の比率は1964年の17.1%に対して、東京2020では47.5%となっている。柔道、マラソンなどいくつかの競技、そしてアーティスティックスイミングなど、新しい競技に女子選手が多く参加できるようになったからだ。

 日本代表のなかで大学出身者は414人いる(判明分。国内大学に在学中、中退を含む)。全体の7割以上だ。出身大学の内訳はどうなっているだろうか。選手団名簿掲載の日本代表の在籍大学、最終学歴(学部卒<中退>、大学院修了者<中退>)を、大学、高校、所属機関などから調べた(リザーブ、補欠は含まない。追加招集を含む種目がある)。

 ランキング順に、上位校の出身・在学中の出場選手を見てみよう。

 1位は日本体育大の57人。2位をダブルスコアで大きく引き離した。競泳、水球、サッカー、ボクシング、バレーボール、体操、レスリング、セーリング、ハンドボール、自転車、フェンシング、柔道、カヌー、アーチェリー、7人制ラグビーなどさまざまな競技に代表を送り出している。このなかで水球14人(男女合計)がもっとも多い。

 内村航平(体操)は2008年、12年、16年に続いて、東京2020大会に出場となった。村上茉愛(体操)は2大会連続出場となる。阿部一二三と阿部詩(柔道)の兄妹はいすれもオリンピック初出場だが、世界選手権を制しており金メダル候補だ。高橋藍(バレーボール)は2020年に入学し、バレーボール日本代表のなかでは最年少の19歳である。日本体育大の具志堅幸司前学長は1984年大会において体操で金メダリストとなった。

 2位は早稲田大で28人だ。吉田麻也(サッカー)、瀬戸大也(水泳)、藤田慶和(ラグビー)、大迫傑(マラソン)、寺田明日香(陸上)など知名度が高いアスリートがそろう。吉田麻也は2014年、18年サッカーワールドカップ、08年、12年オリンピックに出場しており、今回は主将をつとめる。藤田慶和は15年ラグビーワードカップ日本代表となりトライをあげたが、その後、世界大会での活躍が見られず、捲土重来をはかる。

 早稲田大ではトップアスリート選抜入試を行っており、その出願資格は「出願時点でオリンピックや世界選手権などの国際的レベルの競技大会への出場経験、もしくはそれに相当するレベルの競技能力を有すること」とある。これによって早稲田大は世界で勝てるアスリートを受け入れることができた。同入試を経て日本代表となったのが19年入学の大塚達宣(バレーボール)、畠田瞳(体操)、18年入学の須崎優衣(レスリング)などである。

 3位は日本大26人。日本大でもっとも有名なオリンピック代表は池江璃花子(競泳)だろう。2019年2月、自身のツイッターで白血病であることを公にして療養生活に入った。「2024年パリ大会をめざす」と話しており、20年に東京大会が開かれていたら出場は絶望的な状況だった。だが、21年に延期となり、この間、池江は驚異的な回復を見せる。代表選考を兼ねた大会で優勝し、東京2020大会の代表入りを果たした。

 池江が日本大に入学したのは療養中の19年。その前年、日本大はアメリカンフットボール部の悪質タックル問題で大きく揺れていた。日本大関係者がこんな話をしている。

「アメフト問題がなければ、オリンピックで代表入りするアスリートがもう少し入学していたと思います。日大はこわいというイメージから避けられて、日体大さんに流れたのではないでしょうか。残念です」

 日本大はゴルフ、射撃、セーリング、水泳(飛び込み)など、競技者人口が少ない種目で代表を送り込んでおり、体育会の充実ぶりを示している。

 4位は筑波大24人。1912年のストックホルム大会で、日本人として初めてオリンピックに出場したのは、当時東京高等師範学校の学生だった、金栗四三だ。同校は戦後、東京教育大、筑波大に継承され、アスリート養成の歴史と伝統はいまに伝わっている。

 サッカー女子の熊谷紗希は、2011年ワールドカップドイツ大会で初優勝したときのメンバーで、全試合にフル出場していた。

 自転車競技の與那嶺恵理は、2016年大会に続いて2度目の出場となる。神戸女学院高等学部から筑波大体育専門学群に進み、大学2年のときに自転車競技を始めた。その経緯がおもしろい。こう振り返っている。

「元々自転車を始めたのは、大学のテニス部を辞めたことがきっかけだったんです。体力はあるのにセンスが無くて、先輩の球拾いとかサポートばっかりやっていたんですね。私は体育会系だから競技に出ていないと楽しめなくなって、もういいかなぁって思っちゃったんです。(略)たまたま趣味としてロードバイクに乗っていた伯父さんが『その脚は自転車に向いているから、気分転換にでも乗ってみれば?」と言ってくれました』(サイクリングファンのための情報サイト「シクロワイアード」2013年12月18日)。

 5位は明治大18人。若手、ベテラン、熟練がそろう。平田しおり(射撃)は政治経済学部4年、石田吉平(7人制ラグビー)は文学部3年で、いずれもそれぞれの競技で若手の成長株と言われている。

 水谷隼(卓球)の知名度は全国区であろう。2008年、12年、16年、そして東京2020大会の4大会連続でオリンピック代表となった。2016年大会では団体で銀、シングルスで銅メダルを獲得。日本人で初めてオリンピックのシングルスメダリストとなった。

 馬術では40代の明治大OBが選ばれた。北原広之(49歳)、大岩義明(45歳)、福島大輔(43歳)である。競技者としては熟練の域に達している年齢であろう。北原は9月で50歳を迎え、東京2020大会の代表のなかでは最年長となっている。

 6位は東洋大14人。桐生祥秀(陸上)、萩野公介(競泳)というスターが輩出した。桐生は100メートルで日本人初の9秒台(9秒98)を記録した。萩野は2016年大会において400メートル個人メドレーで金、200メートル個人メドレーでは銀メダルを獲得している。

 2012年大会のボクシングで史上初の金メダリストとなった村田諒太もまだ記憶に新しい。当時は東洋大職員だった。

 池田向希、川野将虎(競歩)は今年卒業した。2人はライバルとして互いをリスペクトし合う仲だった。川野は母校愛が強く、拙著のインタビューでこう話している。

「大学4年の時にオリンピックが東京で開催される。東洋大の学生として出場することにこだわりを持っていました。だから、延期は残念でくやしかった。最初はショックもありましたが、酒井瑞穂コーチから『1年延びたことでさらに進化できる』と言われたことで、何ごともポジティブに考え、頑張ろうと気持ちを切り替えました」(『大学とオリンピック』中公新書ラクレ 20年)。

 同じく6位は法政大14人。2009年に設置したスポーツ健康学部から、金井大旺、坂東悠汰(陸上)、上田綺世(サッカー)、柳澤明希(アーティスティックスイミング)、高橋侑子(トライアスロン)を送り出した。黒川和樹(陸上)は現代福祉学部2年である。

 敷根崇裕と吉田健人(フェンシング)はいずれも東亜学園高校出身。敷根は世界選手権の銅メダリストゆえ東京2020大会でも金メダルに期待がかかる。

 森脇唯人(ボクシング)は地元愛が強い。

「日本代表としてはもちろんですけど、自分は『足立区代表』として、区民の皆さんに勇気を与えられたらと思っています。(中略)お世話になった方々に、結果で恩返しをしたいです。速いテンポで鋭いパンチを打てることが自分の武器なので、ぜひ試合を見てほしい」(東京都足立区ウェブサイト2021年7月8日)。

 8位は近畿大13人。若い選手が多く、7人が現役学生である。難波実夢(競泳)は今年入学したばかりの経営学部1年だ。京極おきな(アーティスティックスイミング)は経営学部2年である。

 水泳が強く10人を数える。内訳は競泳4人、アーティスティックスイミング4人、飛び込みが2人。このうち4人は近畿大学附属高校出身だ。このなかで入江陵介は2012年大会で銀2つ、銅メダルを1つ取っている。なお、近畿大学附属から近畿大水泳部に進んだ選手に、2012年大会の銅メダリスト、寺川綾がいる。

 東京2020大会ではベテランも活躍する。アーチェリーの古川高晴(36歳)は2004年大会から5回連続出場となる。古川は東大阪市を表敬訪問した際、こう話している。

「今までの経験から『メダルを取ってやるぞ』と思うと力んでしまう。普段の国際大会のようにリラックスしてプレーし、自分の持っている力を全部出せるようにがんばります」(ネットニュース「週刊ひがし大阪」21年5月26日)

 同じく8位は中央大13人だ。石川祐希(バレーボール)は在学中から日本代表に選ばれ、もっとも名前が知られている。イタリアのプロチームで活躍していた。中央大学の魅力をこう話している。

「体育系の学生にも理解のある先生が多く、どうしてもスポーツがメインになってしまう中で勉強もしっかりサポートしてもらえるところです。それから学食をはじめとしたキャンパスの施設も充実しています。学食は4階のうどんと2階のパン屋が特に気に入っています」(中央大ウェブサイト2016年7月26日)

 部井久アダム勇樹(ハンドボール)の父はパキスタン人で母は日本人、岡澤セオン(陸上)の父はガーナ人で母は日本人だ。

 池本凪沙(水泳)は今年入学した法学部1年。近畿大附属高校出身だが、近畿大ではなく中央大を選んだ。

 大学が得意とする競技で東京2020大会に代表を輩出したところがいくつかある。

*山梨学院大9人 6人がホッケー
*帝京大6人 5人が空手
*東海学院大4人 4人全員ホッケー
*至学館大4人 4人全員レスリング
*金沢学院大4人 3人はトランポリン
*大東文化大4人 3人がテコンドー
*日本経済大4人 3人がセーリング
 など。

 また、日本の大学出身で海外の代表になったアスリートがいる。何人か紹介しよう。

*オマーン代表、アル・アダウィ イサ(競泳)=中京大
*ラオス代表、シティサーン スックパサイ(柔道)=天理大
*フィリピン代表、渡邊聖未(柔道)=早稲田大
*フィリピン代表、カルロス・ユーロ(体操)=帝京短大
*アメリカ代表、國米櫻(空手)=同志社大出身

 大学のグローバル化はこういうところでも示されている。

<文中敬称略>

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)