胃の痛みや胃もたれを感じるのに検査は「異常なし」……近年、こうした悩みを抱える患者が増えている。いったい何が原因なのか。まだあまり知られていない「機能性ディスペプシア」は、専門の医師に診てもらう必要がある。

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 ディスペプシアとは、上腹部症状のうち、みぞおち付近の痛みや胃もたれ、膨満感、吐き気など胃を中心に感じる、さまざまな症状を表す言葉だ。これらの症状を引き起こす病気には、胃がんなどの重大な病気をはじめ、ピロリ菌による胃炎やアルコールなどが原因で起きる急性胃炎、ストレス性の胃潰瘍、十二指腸潰瘍など、さまざまなものがある。また膵臓がんや膵炎、胆石など、他の臓器の病気でも同じような症状が起きることがある。

 ところが近年、これらの症状で医療機関を受診し検査を受けても、特に異常が見られない人が増えている。何らかの原因で胃や腸の働き(機能)が悪くなって症状が起きていると考えられ、機能性ディスペプシアという病名が付けられている。愛知医科大学病院消化管内科の春日井邦夫医師は、次のように話す。

「機能性ディスペプシアは、胃の働きが悪くなったり感じ方が過敏になったりして起きる病気です。ただ、その症状が本当に機能性ディスペプシアであるかどうかは、がんなど他の病気がないことを確認してはじめて診断できます。医療機関での受診や検査をせず、症状だけで機能性ディスペプシアだと判断するのは、大きな病気を見逃すことにもつながり危険です。症状が気になる場合には、まず医療機関を受診してほしいと思います」

 胃の痛みやもたれなどはありふれた症状だが、長引けば仕事や生活にさまざまな支障が出て、生活の質(QOL)を低下させることにもなる。市販薬を飲んだり暴飲暴食を改めて節制したりしても症状が収まらない場合には、早めの受診が望ましい。

■専門の診療科がある病院で受診を

 機能性ディスペプシアという病気は、まだあまりよく知られておらず、内視鏡検査などをしても特に異常が見られないこともあって、医療機関によっては「異常がありません」で終わってしまうことも少なくない。きちんとした診断を受けるため、受診の際にはネットなどで情報を収集し、消化器系の内科を専門に診る診療科がある施設を選ぶことがポイントだ。

 医療機関では、がんなどの病気を除外するため、まず問診がおこなわれる。必要と判断されれば内視鏡検査や血液検査、ピロリ菌の有無を調べる検査などもおこなうことがある。ピロリ菌は胃がんの原因とも言われ、ピロリ菌関連の胃炎やさまざまな症状を引き起こすため、ピロリ菌がいる場合には薬剤による除菌をすすめられる。

 機能性ディスペプシアの典型的な症状には、みぞおちの痛みや灼熱感(焼けるような感じ)、食後の胃もたれ、食事中の早期膨満感(すぐにおなかがいっぱいになる)などがある。兵庫医科大学病院消化器内科の三輪洋人医師は言う。

「胃の感じ方(知覚)が鋭敏になれば胃の痛みを感じるし、胃の働きが悪くなれば胃が重いと感じます。このような胃の感じ方や働きは、交感神経と副交感神経からなる自律神経によってコントロールされています。仕事、人間関係、気温の変化などさまざまなストレスや、暴飲暴食、睡眠不足などで自律神経のリズムが乱れることによって、いろいろな症状が出てきます」

 治療方法は、薬物治療と生活改善である。

 薬は、まず胃酸の分泌を抑える薬が使用される。胃酸が、胃の働きや知覚に影響を与えていることが考えられるためだ。また、胃の働きを良くする消化管運動機能改善薬や胃の粘膜を保護する薬、漢方薬や抗不安薬などが使用されることもある。

 これらの薬を4〜8週間服用するとともに、食生活を中心とした生活習慣の改善にも取り組む。

 食生活では、高カロリー・高脂肪の食事や食べすぎを避け、規則正しい食事を心がける。睡眠不足など不規則な習慣を改め、生活のリズムを整えることも重要だ。

 また、生活をする上ではさまざまなストレスが避けられないが、できるだけ少なくすることを心がけたい。

「自律神経が関連する機能性ディスペプシアでは、ストレスが大きく影響します。例えば、胃の症状があること自体がストレスになっている患者さんの場合、問診や検査で大きな病気ではないことを確認した上で、原因が胃ではなく自律神経にあることを丁寧に説明すると、それだけで安心して症状が軽減することもあります」(三輪医師)

■支障のない日常生活を目指す

 機能性ディスペプシアでは、服薬の効果が十分に出なかったり、いったん症状が落ち着いてもしばらく経つとまた再発したりすることがある。その場合、薬の種類を変えることも含め、食生活や生活習慣に関しても主治医とよく相談してみることが大切だ。そのためにも受診時には、専門の診療科を選ぶことが重要になる。また、機能性ディスペプシアによる症状と「うまく付き合う」という気持ちを持つと、心に少し余裕が生まれる。

「患者さんには、症状をゼロにしなければ、と考えるのはやめましょう、と話をします。普通に食事や睡眠がとれて、仲間との会話を楽しむなど、日常生活に差し障りがない程度に抑えることを目指すとよいと思います。人間はたいてい、どこかに痛みやかゆみがあり、それを気にするかしないかで日常生活のQOLは大きく変わります。患者さんが不安なく治療に取り組めて、こんなものでいいかな、と思えることが大事です」(春日井医師)

(梶 葉子)

※週刊朝日  2021年10月29日号