ランチ後に眠気が襲われ、午後の仕事に身が入らないという人も少なくないだろう。仕事のパフォーマンス向上には昼寝が最適だ。そこには日本人ならではの事情もある。AERA 2021年12月6日号から。

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 部屋に入ると、アロマの柔らかな香りに包まれた。足元のダウンライトの光が優しく揺らいでいる。手ごろな枕を手にしてデスクに突っ伏すと、すぐにあたりが暗くなった。初めはゆったりとした波の音だった“背景音”は、気付くと心地よい“ノイズ音”に変わっている。いつしか眠ってしまっていた──。

 そして15分後。軽やかな音楽と朝日のような明るい光で意識を引き戻された。眠っていたのは、ほんのわずかな時間。それでも、頭の靄(もや)がすっきりと晴れ渡ってくるようだった。

 ここは、東京・日本橋に本社を構える寝具メーカー・西川の仮眠室「ちょっと寝ルーム」。正午から午後3時、1回15分の入れ替え制で社員たちが「昼寝」する。コロナ禍で出社人数が減ったため、仮眠室の利用も少なくなったが、それでも1日20人ほどの社員がこの部屋で昼寝するという。

 また、在宅勤務をする社員に対しても、短時間の昼寝を推奨している。

約9割がストレス減少

 同社の研究機関・日本睡眠科学研究所で睡眠や生体リズムの研究を担う安藤翠さんは言う。

「仕事のパフォーマンス向上やミスの予防のため、昼過ぎに短時間の仮眠を推奨しています」

 実際、短時間の昼寝を継続して取り入れた社員のうち、約9割が「ストレス」や「午後の眠気」が減ったと回答した。

 業務時間中に短時間の昼寝を取り入れることは「パワーナップ(積極的仮眠)」とも呼ばれ、数年前から推奨する企業が増え始めた。広島大学の林光緒教授(睡眠科学)も、短時間の昼寝の効果をこう説く。

「昼下がりに短い仮眠をすると、その後の脳の覚醒レベルが上がることがわかっています。集中力が高まり、作業時のミスが減ってかかる時間も短縮される。仕事に向き合う意欲も高まります。特に、日本人は慢性的な睡眠不足を抱えて、知らず知らずのうちにパフォーマンスが下がっている人が多い。昼寝の効果は高いと考えられます」

日本人の多くが寝不足

 昼下がりは生体リズムの影響で眠気が強くなる。睡眠不足だと、それに拍車がかかるという。実際、日本人の多くは慢性的な睡眠不足だ。適切な睡眠時間は人によって異なるが、標準的な成人では7時間から8時間程度は必要だと考えられている。

 厚生労働省の「令和元年国民健康・栄養調査」では、20歳以上の73%が1日の平均睡眠時間が7時間未満と回答した。経済協力開発機構(OECD)の「Gender data portal」によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分(2016年)。「7時間の壁」は越えているものの、データのある33カ国で最も短く、トップの南アフリカ(9時間13分)とは約2時間の差があった。

 夜になっても明るく、寝る直前までブルーライトを浴びる生活では、就寝時間は自然と遅くなる。一方、朝8時台から始業という企業も多い。睡眠不足はもはや現代人の宿痾(しゅくあ)ともいえ、昼寝を必要とする人は多い。

 また在宅勤務の浸透は、日常的に昼寝できる人を大きく増やした。寝具メーカーのコアラスリープジャパンが今年3月に行った調査では、「在宅勤務に伴い新たに習慣化した行為」として28.6%の回答者が「昼寝や仮眠」を挙げている。(編集部・川口穣)

※AERA 2021年12月6日号より抜粋