子どもや孫のために暦年贈与をしたり、妻を思って自宅を夫婦の共有名義にしたり……良かれと思ってやったことが裏目に出ることもあるという。大切な老後資金が悲惨な末路をたどらないために、今すぐ知っておかなければいけないこととは?

>>前編「生前贈与や特例利用で損も!? やってはいけない“老後資金の守り方”」より続く

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 生前贈与を考える前に、人生の最終盤、どのような介護を受けたいのか、どこで最期を迎えたいのか、じっくり考えてから相続対策を考えるようにすると失敗しない。そう話すのは相続実務士で相続支援会社「夢相続」代表の曽根惠子さんだ。

「自宅を残すか、売却してそのお金で高齢者住宅に入るのか、その選択は難しいところ。また自宅を残そうと二世帯住宅を建てたり、アパート経営をしたりするとき、安易に借り入れをして負債を増やしてしまうことはお勧めできません」

 子どもたちが住まないとしても家を残したいと思ったら、好立地であれば賃貸で他人に貸す方法もある。自分たちが高齢者住宅に入った後も放置せず、賃貸すれば評価額減により相続税が減らせて、小規模宅地等の特例も使える。

 思いつきで財産を動かそうとせず、いくつかの選択肢からベストプランを選ぶようにすると失敗を回避できる。

 この春に35年住み続けた一軒家を売却して、賃貸マンションに移り住む決断を下したというのは、社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの井戸美枝さん。

 夫婦2人ここで老後を過ごして、最期はそれぞれ介護施設に入ることを見越しての選択だったという。

「もしこの先、認知症になったら不動産の売却はできなくなりますので、マンションを買うのもやめました。不用品の処分が大変なので、体力のあるうちに移住しようと思いました」(井戸さん、以下同)

 井戸さんは親を看取った後、死後の手続きや実家の片付けに奔走した経験がある。子どもには同じ思いはさせたくないと、自分たちの荷物は極力少なくして、取引のない休眠口座は解約しておくといった“終活”に着手しているという。

■売却手続き大変 購入より賃貸に

 住み替えでやってはいけないのは、住宅ローンを新しく組むこと。

「子どもが独立してから、夫婦2人で一軒家に住むのは広すぎるので、自宅を売却して駅近のマンションに住み替える人も増えていますが、ファミリータイプの物件やタワーマンションとか、高額な物件を購入して再び住宅ローンを組むような住み替えはやってはいけません。私たちも売却した資金でマンションの購入も考えましたが、また売却の手続きが大変なので賃貸にしました」

 夫が定年退職を迎えて間もないときは、体力もあって元気なので、現役時代にやりたかった夢を実現させたいと思うかもしれない。その典型例は「田舎暮らし」。後期高齢者医療制度の対象になる75歳以降は、体力や気力が落ちてくるので、運転免許証の返納をする年齢に差しかかると、田舎暮らしは不便になる。

 徒歩や自転車、公共交通機関が利用できる都心で生活するほうが高齢期は便利なケースもある。

 また、テレビ等で定年退職後に地方に移住して農家レストランを開業した夫婦のエピソードなどを見ることがあるが、「起業はいいことばかりではないので成功例をうのみにするのは危険」と井戸さんは注意を促す。

「改正高年齢者雇用安定法で65歳から70歳まで働く機会を確保することが企業側の努力義務となり、年齢に関係なく働くチャンスが広がってきました。65歳以降、働いて収入を増やそうと、(1)継続または再雇用で同じ会社で働く、(2)別の会社に転職する、(3)起業するという三つの選択肢がありますが、起業で失敗する人もよく見かけます」

 従業員が自分一人しかいないのに、退職金を注ぎ込んで株式会社を設立して事務所を構える。会社登記のコストだけでなく、毎月の事務所の維持費のほか、たとえば経理を税理士にお願いすればランニングコストが重くのしかかる。

「安く借りられる空き家物件が多く、融資が受けやすい今がチャンスですと乗せられても、月々固定費がかかるような仕事はお勧めではありません。喫茶店やパン屋さんを始めたいという人も意外と多いのですが、原材料費や燃料費が高騰しているのでオープンする時期は見極めたい」

■受け取りの判断 損得より生活費

 定年後は社会貢献がしたいと自宅の一室でコミュニティーカフェを始めたいという南関東地方に住む男性(60代半ば)は、新型コロナで事業計画が延期になったが、夢はまだ諦めていない。

「毎月の維持費は抑えられても、コロナで売り上げ確保の見通しが立たないので、まだ踏ん切りがつきません」(男性)

 そして、定年後の働き方とともに気をつけたいのは、年金のもらい方。

 今年4月から年金受給の開始時期は、「60〜70歳の間」から「60〜75歳の間」に拡大した。

 受給年齢を繰り下げるほど年金が増額され、75歳から受給すると、65歳でもらう場合の84%も年金額が増える。65歳で年間約78万円の年金を受け取れる人は、10年受け取りを遅らせると、受給額は約143万円にもなる。

 働き続けて年金を先送りしたほうが、もらえる年金額は増えるのだが、75歳まで待つよりも、70歳までの繰り下げを選択したほうがお得なケースがあるという。

「年金受給の損益分岐点は、もらい始めから11年10カ月程度が目安です。70歳と75歳まで繰り下げたケースを比較すると、1年間で受け取る額は当然75歳のほうが多いのですが、90歳まで生きることを前提としますと、75歳から受け取ると受け取り期間が短くなる分、一生涯で受け取る総額は少なくなります。損得よりも生活費でいくらかかるかで判断したい」(井戸さん)

 さらに、厚生年金に20年以上加入歴がある人が、65歳になったときに配偶者や子どもを養っていると老齢厚生年金に「加給年金」がつく。妻が65歳になったら「振替加算」に切り替わる。

 年の差夫婦であれば、老齢厚生年金を65歳から受け取り、老齢基礎年金を繰り下げる選択肢がベストだが、年の差が数カ月から2、3年しかない夫婦の場合は、加給年金を受け取る期間はすぐに終わるため、老齢厚生年金と老齢基礎年金をともに繰り下げたほうが、年金額が増えることもあるという。

 ほかの経済事情を考えて、両方のケースをシミュレーションしてから決めたほうがいいという。

 長い老後に備えるためにも、不用意に資金を使わないようにしたい。(ライター・村田くみ)

※週刊朝日  2022年5月20日号より抜粋