福祉サービスを嫌がる両親をどう説得するか悩む39歳女性。自身もうつ病で療養中という相談者に、鴻上尚史が実父の介護サービスの経験を例に語る「説得できるチャンス」とは?

【相談149】母は要介護5の難病ですが、福祉サービスを嫌がり、困ってます(39歳 女性 まあこ)

 鴻上さん、こんにちは。

 私の母(70歳)は難病で要介護5の寝たきりです。父(75歳)が面倒をみてます。認知症は発症していません。

 両親が頑なに福祉サービスを受け付けてくれなくて困ってます。ケアマネジャーともろくに口をききません。他人が家に入るのをとても嫌がり、デイケア、ショートステイも試しましたが、職員さんたちのアラばかり探し、文句を言って二度と行かないと頑なです。

 父が特にひどくて、「あいつらは人を下に見てる」とか「憐れみを受けたくない」みたいな酷い発言が多いです。肝心の母は、体が動かないから四六時中側に父が居てくれる今の状況にできるだけいたいようです。ただ父も高齢で体が心配です。

 実は私は去年まで同居して手伝っていましたが、15年以上介護と家事と仕事で目まぐるしい毎日だったのでうつ病を発症してしまい、会社を解雇され現在一人暮らしで療養中です。

 自分の体調を回復させ、また仕事を探さないといけないのに、両親のことが心配で苦しくてなかなか精神が安定しません。

 二人を説得して福祉の力を借りることはできないのでしょうか? もうやりたいようにやらせておくしかないのでしょうか?

 兄弟妹は結婚して遠方なので力は借りられません。

 ご意見をお聞かせください。よろしくお願いします。

【鴻上さんの答え】
 まあこさん。大変ですね。昔気質の人には、福祉サービスを受けることをよしとしない、行政の保護を受けることを恥ずかしいと思う人が一定数、いらっしゃいますよね。

 どうしてなんでしょうねえ。自分が本当にダメな人間になった、無用な存在になったと思ってしまうのでしょうか。それとも、「世間様」から後ろ指を指されると思っているのでしょうか。「公助」に頼るのは国民の恥で、「自助」でやり抜くことが正しいと思っているんでしょうか。

 でも、福祉サービスも生活保護のお金も税金で運営されていますが、税金は国が国民にほどこすものではなく、まあこさんの親や国民一人一人が一生懸命働いて、「自分達のために使って欲しい」と思って納めたものなんですよね。「年貢」と「税金」の違いですね。

 だから、それを自分が弱った時に使うのは、当り前のことで、税金の正当な使い道を要求するのは、国民のまっとうな権利ですね。

 でも、頑固なまあこさんの両親、特に父親に言っても通じないんですよねえ。

 僕のアドバイスとしては、とりあえず今は父親の好きなようにさせておくしかないと思います。

 というのは、今、父親は言えば言うだけ頑なに、頑固になるような予感がします。

 まあこさんやケアマネさんが言えば言うほど、かえって意地になって心を閉ざすと思えます。

 でも、75歳が「要介護5」の70歳の面倒を見る「老老介護」ですから、間違いなく近いうちに、父親が負担の重さに悲鳴を上げる時がくると思います。

 早くて1年以内、長くても2、3年のうちには、父親が介護に疲れ果てる時期がくるでしょう。父親が気持ちを変えるとしたら、その時期なんじゃないかと僕は思います。

 といって、完全に疲れ果てると正常な判断力を失ってしまい、取り返しのつかないことになってしまうかもしれませんから、「しんどい。なんとかしたい。どうしたらいいんだ」と迷い始めた時が説得できるチャンスだと思います。

 それまで、まあこさんは黙って父親の状態を見続けるのがいいと思います。定期的に実家に行き、でも、福祉サービスのことはなにも言わず、ただ、両親の状況を観察するのです。

 母親は要介護5でも認知症は発症してないんですよね。母親とはどれぐらいコミュニケイションできますか? やがて、父親が疲れ始めた時に、「お父さんを楽にするために、福祉サービスの世話になるのはどう?」と、父親のいない所で話すことはとても大切だと思います。「自分のせいで夫が疲れ果てていく」という状態を深く受け止めれば、母親の方から「福祉サービス」を受けることを父親に提案する可能性もあります。

 僕の父親は元教師でとても頑固でした。「要介護3」の時に、ある福祉サービスの施設に行った時は、「俺を子供扱いした!」とぷりぷり怒って帰ってきました。それでも、母親の負担になるからと僕は福祉サービスを受けるように何回も言いました。実際に母親は父親の世話で疲れ切っていたのです。でも、母親は昔のタイプですから、ぐっと我慢して自分から福祉サービスを受けて欲しいとは言いませんでした。

 僕は何カ所か、まずデイサービスの施設を調べ、ケアマネさんとも相談して、ショートステイを含めて父親に行ってもらいました。父親は母親の疲弊を実感していたのです。

 父親は3カ所は嫌いましたが、たった1カ所、とても気に入った所ができました。やがて、週に2回から3回、その施設に行くことを本当に楽しみにするようになりました。

 どんな福祉サービスを受けるかの適性と施設そのものとの相性もあると思います。それから、ケアマネさんとの相性もあります。

 今はまあこさんの父親は、言えば言うほど心を閉ざす状態だと思います。ですから、つかず離れず見守りながら、ちょうどいいタイミングで、福祉サービスを提案することをお勧めします。

 それまでは、まだしばらく時間があると思いますから、まあこさんは自分の生活を立て直して、回復する時期にしてはどうでしょうか。今の間に休息して、体調を回復するといいと思います。

 うまくいくことを心から願います。

■本連載の書籍化第3弾!『鴻上尚史のますますほがらか人生相談』が発売中です!