男性部下から育休を相談され、「仕事の負担が増える」と思ってしまうと訴える43歳女性。自身の妊活の苦しい過去も思い出し苦しむ相談者に、鴻上尚史が伝えた「相談者がいちばん納得のできる道」とは?

【相談159】男性部下から育休の相談。人員補充はなく、「仕事の負担が増える」とも思ってしまいます(43歳 女性 ひつじ)

 鴻上さんはじめまして。私の悩みを聞いてください。

 私はグループのリーダーに昇進しました。先日、男性部下の奥様の妊娠が判明し、育休を取得したいとの相談がありました。「おめでとう!」と思う気持ちも、育休を取ってほしいという思いもあります。一方で、育休の期間によっては、人員補充されないため「仕事の負担が増える」とも思ってしまいます。

 私は35歳の時に結婚し、年齢的なこともありすぐに妊活しました。体外受精の際には、10日ほど毎日病院に通わなくてはいけない期間があるのですが、仕事が非常に忙しくなった時期があり、その時は治療を中断しました。理由として、忙しいと妊娠しにくいかもしれないと思った事もありますが、忙しい職場に遠慮した部分もありました。その後、数回体外受精をしましたが、妊娠できなかったと分かった時がとても辛く、4年ほどで妊活を終了しました。

 中断したのも、妊活を終了したのも、最終的に自分が決断したということは分かっています。しかしながら、「私は仕事で子どもができなかったのに、他人の子どものために仕事の負担が増える」と考えてしまいます。さらには、「子どもがいないから昇進してしまった」とも思ってしまいます(産休や育休を取得していないため)。

 このモヤモヤした気持ちをどのように考えればポジティブに思えるでしょうか。よろしくお願いします。

【鴻上さんの答え】
 ひつじさん。モヤモヤしますね。それは当然の感情だと思いますよ。それでも、育休を相談されて、「『おめでとう!』と思う気持ち」や、「育休を取ってほしいという思い」を大切にするひつじさんは素敵です。

「忙しい職場に遠慮した部分」もあって、ご自分の妊活を終了したひつじさんですから、単純に「仕事の負担が増える」と反発しても無理はないところなのに、素晴らしいと思います。

 それでね、ひつじさん。

「このモヤモヤした気持ちをどのように考えればポジティブに思える」のかという相談ですが、一番、ひつじさんが納得できる方法は、ひつじさんの考え方や受け止め方を変えるのではなく、会社のシステムそのものを変えようと試みることじゃないかと僕は思います。

 ひつじさんは、「育休の期間によっては、人員補充されない」と書かれているでしょう。だから、「仕事の負担が増える」と思ってしまうと。それが一番のモヤモヤする原因なわけでしょう。

 ですから、「育休の期間にかかわらず、必ず人員補充される体制」を会社に求めることが、昇進したひつじさんが納得できる道じゃないかと僕は思うのです。

 ひつじさん。どうですか? 僕の言っていることは、ひつじさんの会社の現状を無視した、理想論でしょうか?

 でも、誰かがいつかは「個人が負担を我慢する」という流れを止めないといけないんじゃないかと思います。

 今、ひつじさんは、とても重要なタイミングにいると僕は思います。ひつじさんにとっても、会社にとっても、育休を求める男性の部下にとっても、そして、これから産休・育休を取る可能性のあるすべての社員にとっても。

 ここでひつじさんが、気の持ちようで我慢したり、必死にポジティブになろうとしても、間違いなく、また同じ問題が起こるでしょう。そして、会社というシステムが問題になることなく、個人が負担を背負って苦しむことになるのです。

 ここで、「育休の期間にかかわらず、必ず人員補充される体制」を作ることは、社員にとってはもちろんですが、会社にとっても将来的に間違いなく良いことになると僕は思います。社員のことを考えた手厚い福利厚生は、有能な人材をつなぎ留めたり、獲得したりすることの重要な要素ですからね。

 それにね、ひつじさん。

 会社と交渉してみて、100%の改善でなくても、いくばくかの前進が見られたら、それはひつじさんのモヤモヤを減らし、ポジティブになれることだと思うのです。

 その交渉の中で、会社があまりに頑固なら、ひつじさんがモヤモヤしている「私が昇進したのは、産休や育休を取らなかったからですか?」というぶっちゃけた疑問もぶつけてみてはどうでしょうか? それは、会社が社員に負担を押しつけて、ひつじさん個人が我慢する現状に対しての抗議の石つぶてです。

 もし、悲しい予測ですが、どんなに交渉しても会社が1ミリも変わらなかったとしても、ひつじさんの努力は未来につながる、貴重な試みです。後に続く人達がひつじさんの努力を忘れることはないでしょう。

 どうですか、ひつじさん。

 大変ですが、現状を変えようと試みることが、一番、ひつじさんの心を穏やかにすることなんじゃないかと、僕は思います。

 心から応援します。

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