「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

 我が家の次女は、3人きょうだいの唯一の健常児です。

 病気や障害のある子どもの健常の兄弟姉妹を「きょうだい児」と呼ぶことがあり、ここ数年、きょうだい児のケアの重要性についてさまざまな研究が進んでいます。

 子どもに病気や障害が見つかると、パパやママは病児・障害児にかかりきりになり、きょうだいの世話が十分にできなくなったり、きょうだいの寂しさに気づく余裕を持てなかったり、時にはきょうだいがヤングケアラーとして家事や病児のケアを担う場合もあります。

 今回は、きょうだい児である次女のことを書いてみようと思います。

「私にしかできないことがある」と次女

 夏頃から、高1の次女の大学の志望校のオープンキャンパスに行く機会が増えました。親としては、今年はできるだけ多くの大学や学部を見て、本当に自分に合う分野を見つけてほしいと思っていたのですが、次女は私や夫がいないところで学校や塾の担任の先生と面談を重ね、私が「どこに行こうか?」と聞いた時にはすでに医療系の2つの学部に絞っていました。もうひとつの候補だった国際系の学部は「将来の仕事」として考えた時に自分がしたいことから少し外れるとのことです。

「やっぱり、うちの環境でいろいろ知ってしまうと、きょうだいはきょうだいなんだよ。ママはすぐ『ゆうやコウは関係なく考えて?』と言うけど、なんかそれも違うんだよね。留学のポスターより、【4/10はきょうだいの日】のポスターの方が印象に残った時に、自分でもあれ?と思った(笑)。

 私の場合は私もN(NICU=新生児集中治療室)で助けてもらったわけで、海外で働くのは私より向いてる人がいると思うけど、医療系の分野では私にしかできないことがあるような気がするんだよね。だから、もうこれで良くない?」

双子の姉のおでこをなでると

 そんな中、11月中旬から急に医療的ケアが必要な長女の体調が不安定になりました。ある日の明け方に大きなけいれん発作を起こし、その後も10秒ほど呼吸を止める発作が数回続きました。過去にも同じような症状が出た時があり、再発した場合には頓服薬を胃ろうから注入して深く眠らせるようにと言われていたのですが、薬がうまく効かずにウトウトする状態が続き、浅い眠りがまた発作を誘発してしまいました。かかりつけの病院に次の薬を入れるタイミングを相談すると、もう一度薬を使うなら病院で処置をした方が良いとのことで、医療機器があるので受診するなら救急車で良いと言われました。でも、薬のおかげで呼吸を止めることはなくなったので、もう少し自宅でようすを見ることにしました。

(車では運べないけれど、救急車では大げさな場合はどうすれば良いのか?いつも迷います……)

 こんな時でも夫は仕事を休むことができず、いつも通り早朝に出かけていきました。この日はたまたま、次女が通う学校が創立記念日で休校だったため、次女がいてくれて本当に助かりました。私が長女のケアをしている横で、発作による汗で浮いたプロープ(酸素飽和度を計るためのもの)を他の指に付け替え、アラームが鳴るとモニターを見ながら酸素の流量を上げてくれました。そして何より、次女が長女のおでこをなでると、スーッと表情が穏やかになるのです。双子っておもしろいですね。

これはヤングケアラーなのかと考えてしまう

 基本的にワンオペ育児の我が家では、次女が一緒に長女のケアをしてくれるようになったことはとても心強いです。でもそのたびに、「これはヤングケアラーなのか」と考える自分もいます。私の中では、「無理強いをさせないこと」と「学校生活や友達との約束に支障を出さないこと」の2つが手伝いとヤングケアラーの別れ道のように感じていますが、正解がないため、まだまだ迷うことも多くあります。

 今回、この原稿を書くにあたり、エピソードを入れて良いかと次女に聞いてみたところ、「めちゃくちゃかわいく書いてよ?」と笑いながら快諾してくれました。次女が医療従事者を目指してくれるのは、私にとっては素直にうれしいことです。でも同時に、我が家の環境が彼女の人生の選択肢を狭めているかもしれないことや、ヤングケアラーのこともしっかり考えていかなければなりません。

 そして次女には、この先いつでも進路変更が可能であることを、しつこいくらいに伝えていこうと思っています。

 ※AERAオリジナル限定記事