「甘えてくる上の子が鬱陶しい」「上の子をお世話するのがイヤ。自分のことを自分でやってほしい」「下の子がかわいくてたまらない。この子と2人だけでいたい」「上の子がわがままで意地悪。なんでこんな子になったの」――。2人以上の子どもがいるママやパパにこのような感情が湧き上がり、なかなか消すことができない状態を「上の子かわいくない症候群」といいます。正式な病名ではなく俗称のようなものですが、このような言葉が生まれていること自体、「きょうだいに平等に愛情を注げていないのではないか」と不安を感じる人の多さを物語っているといえるでしょう。そもそも、なぜ下の子が生まれると、上の子に向ける親の態度や感情が変わってしまうのでしょうか。2人の子育てを経験した発達心理学者の岩立京子さんに聞きました。

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■子どもは幼ければ幼いほど「かわいい」と感じさせる力がある

 最初に言わせていただきたいのは、「自分の生んだ子だから、かわいいと思えて当然」というのは、ある意味「神話」のようなものだということです。

 子どもが言うことを聞かない、いつまでも寝ない、せっかく作っても食べない、何度もおもらしする……そんなときは誰もが困ってしまうし、かわいいと思えないのは当たり前です。逆に、すやすや眠っていると「天使みたい」と思うし、キャッキャと笑顔でいると心から愛おしく感じるものです。

 わが子への「かわいい」「かわいくない」は常に変化し、「かわいくない」が優勢になるのは誰にでもあることです。もちろん私にもありました。自分にあっても当たり前、まずはそう思ってください。

 もうひとつ覚えていてほしいのは、幼い子ほど大人から「かわいい」と思われるような生物学的特徴を持っているのです。それは人間だけでなく動物も同じです。

 幼い子どもは頭頂から顎までの長さが短く、目と目の間が広く、鼻は低く、いわゆる童顔で、体のバランスも頭が大きく、手足が短く、丸みのある身体的特徴を持っていて、大人が自然にかわいいと思うようにできています。動物の赤ちゃんも同じで、かわいいですよね。

 だからこそ、幼い子ほど、親から「かわいい」「お世話してあげなくちゃ」という気持ちを引き出すのです。未熟な状態で生まれた子どもが持つ、生存のための能力といえるでしょう。

 もちろん上の子だってまだまだ幼いのです。他人が見たら「かわいい!」と感じるはずです。でも親にしてみれば、比較対象としてさらに幼くかわいい下の子がいるわけです。上の子はお兄ちゃん・お姉ちゃんに見えてしまい、下の子を優先したくなってしまいます。

 生物学的に、やむを得ない状態であることも知っておいてください。

■「上の子かわいくない」と思うのは、かわいくない行動をさせているのかも

 とはいえ、そのような親の気持ちや行動は上の子にとって耐え難いことであるとも覚えておいてほしいと思います。子どもにとって、親は100%全力で愛してくれて当然の存在なのです。それが下の子の誕生で揺らぐのですから、大変な「危機」です。赤ちゃんがおなかにいる段階ですでに、「これは何か違うぞ」と感じている上の子は多いものです。赤ちゃんが生まれると、なおさらです。

 それでも親子の愛着関係が安定していれば、上の子の関心は親や下の子だけには向きません。保育園や幼稚園の人間関係や、どんどん豊かになる遊びなどに関心が広がる年頃でもあります。下の子の存在を受け入れて発達していくことができるのです。

 でも、そう思えるまでには個人差はあれ時間がかかるものです。親に固執してひどいわがままを言ったり、泣きわめいたり、卒業したはずのミルクを欲しがったり、おもらしをしたり……これを「赤ちゃん返り」といいます。

 また、下の子に強い嫉妬心を持ち、乱暴したり、授乳やおむつ替えのときに割り込んできたりすることもあります。そういうときに親が上の子に心を留めて愛着関係を再構築できるといいのですが、「上の子かわいくない症候群」になってしまっているとそれが難しくなってしまいます。

 ですから、下の子がいるママやパパは、一度「私は『上の子かわいくない症候群』に陥っていないかな?」と振り返ってみる必要があります。そう、誰にだって起こりうることなのですから。

■もしかして「上の子かわいくない症候群」? チェックしたい行動はこれ

「上の子かわいくない症候群」かどうかのサインを、以下にまとめてみました。自分やわが子にこんな傾向がないか、まずはチェックしてみてください。

 もしこの中に「当てはまる」と思う項目があった場合、親子ともにストレスを抱えている可能性があります。「私は『上の子かわいくない症候群』なんだ」と自分を責めるのではなく、原因を探っていき、できるだけ早く状況を改善させるようにしていきましょう。

 時間がたてばたつほど親子関係の修復が難しくなります。子どもが小学生や中学生になっても「上の子がかわいく思えない」という人はいます。それが思春期の非行や引きこもりなどの問題行動の原因になる可能性だってあるのです。

 まずは親側の環境を整えること。そして子どもとの向き合い方を変えることが必要です。それは次回お話ししたいと思います。【後編へ続く】 

(取材・文/神 素子)

〇岩立京子(いわたて・きょうこ)/東京家政大学子ども学部子ども支援学科教授。専門は発達心理学、幼児教育学。東京学芸大学教育学部幼児教育学分野教授を長年つとめあげて現職。働きながら1男1女を育てた経験からくるアドバイスが共感を呼ぶ。著書に『子どものしつけがわかる本』(主婦の友社)などがある。