下の子が生まれると、とたんに上の子はお兄ちゃん・お姉ちゃんになります。上の子だってまだ幼いのに、親はどうしても手のかかる下の子に時間をとられ、上の子には「しっかりしてほしい」と思ってしまう傾向があるようです。それが悪いわけではありませんが、上の子にとっては理不尽に感じることもあります。その傾向が強くなりすぎ、親子関係になんらかの問題を引き起こすことを、俗に「上の子かわいくない症候群」と呼びます。自分にもその傾向があると気づいたらどうすればいいのでしょう? 今回はその対策について発達心理学者の岩立京子さんにうかがいました。

【前編から続く】

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■「上の子かわいくない症候群」に陥りやすい最大の要因はワンオペ育児

「上の子かわいくない症候群」に陥りやすい要因を、「ホルモンバランスの変化で不安定になるから」とする意見もあるようです。確かにその可能性もありますが、私は親子をとりまく環境的な部分が大きいのではないかと考えています。

 もしもご自身が「子育てがつらい」「子どもをかわいく思えない」「怒ってばかりいる自分がイヤだ」と感じているのであれば、以下のような状況になっていないか振り返ってみてください。

(1)子育ての負担を自分だけで背負っていると感じる。

(2) 夫(妻)に支えてもらっている実感がない。

(3) 食事や睡眠が十分にとれていない。

(4) 掃除や片づけが滞り、気になっていても時間がなくて対処できない。

(5)ストレスを発散できる場所がない。

(6)人に相談することができないで抱え込んでしまうタイプだ。

 上記のような状況は、いわゆる「ワンオペ育児」の状態といえるでしょう。子育て世代は仕事上でも多忙な時期。父親が家にいない時間が長い人も多いことでしょう。

 であれば、それ以外に頼る人を探してみることも必要です。

 おばあちゃん・おじいちゃん、親戚などで手伝ってもらえる人はいませんか? 親子で遊んだり、つらい気持ちを共有できたりするママ友・パパ友はいませんか? 少しの間子どもを見てもらって気分転換できれば、それだけでもずいぶん状況は変わってきます。

 あるいは子育て支援センターや児童館、図書館など地域の施設に足を運ぶのもいいと思います。ママ自身のリラックスにはならないかもしれませんが、専門家がそばにいてくれることも安心材料になります。

 ワンオペ育児になってしまうと、子どもに対して自分でも「え?」と思うようなひどい言葉をぶつけてしまうことがあるものです。自分の感情をコントロールできにくくなっているときには、親子の間に他者を入れることでコントロールしていきましょう。

 最大の要因であるワンオペ育児に風穴を開けていく、それが最初の突破口になるはずです。 

■上の子の気持ちに寄り添ってみる。「この子はどうしてほしいんだろう」

 親自身の環境を改善する努力をしつつ、上の子との関係性についても見直しをしていきたいものです。

 その第一歩は、上の子の気持ちへの共感です。

 上の子は何歳ですか? 2歳でも3歳でも5歳でも、あるいは10歳でも、子どもは子ども。まだ小さくて、弱い生き物です。一人では生きられない子どもにとって、親はかけがえのない大切な人。どんなに反発したとしても、唯一無二の存在なのです。心から愛しているのです。

 その人に無視されたり、拒絶されたり、下の子に向けるような笑顔をもらえなかったりしたときに、どれだけつらいか。

 自分自身がそれだけ重要な存在なのだということを、どうかいま一度思い起こしてほしいと思います。

「かわいくない」という感情が生まれるのは当たり前のことだと、前回お話ししました。でもそれは、子どもを傷つけていいという意味ではありません。 

「上の子かわいくない症候群」に陥っている場合、上の子に問題行動が見られることが少なくありません。親はますます「かわいくない」と思ってしまうのですが、そこでいったん踏みとどまってください。かわいくないと思わせる行動は、「ママ、こっちを見て」「もっとかわいがって」「いま、とってもとってもつらいんだよ」と、そういうメッセージです。

 言葉にならないその気持ちに寄り添い、あたたかなまなざしを向け、会話を増やし、喜ばせてあげる、そうやって関係を修復していただきたいと私は思います。自分一人でできないときには、専門家に相談してみましょう。

■「ぼくと赤ちゃん、どっちがかわいい?」と聞かれたらなんて答える?

 いまから25年も昔の話ですが、私も「上の子に寂しい思いをさせてしまった」と感じることがありました。長男が6歳のとき、長女が誕生したのです。

 息子は寂しかったのでしょう。毎晩毎晩、布団に入ると「ぼくと赤ちゃん、どっちがかわいい?」と聞くのです。

 私の本心は「どっちも同じくらいかわいい」です。それでも息子は「あなただよ」という言葉を求めているのだと感じました。だから私はいつも「あなたが一番かわいいよ」と答えました。息子はその言葉を聞くと、「ふう」と満足そうなため息をついて眠りに落ちるのです。安心するんですね。 

 同じようなことを上の子に聞かれることがあると思います。そんなときには、「あなたよ」でいいと私は思うのです。だってわが子は、どちらも一番。だったら「あなたが一番」でもいいんです。罪悪感を持つ必要はありません。 

 そして下の子中心になりがちな育児を、少しずつでも上の子中心にシフトしていきましょう。

 私たちは無自覚のうちに「2人の関係」をつくってしまう傾向があります。下の子のお世話をするときも、「あなたは待ってて」とか「うるさい」と上の子を排除してしまいがちです。でも、3人の関係づくりが大切です。上の子に「おむつを持ってきてくれる? ありがとう、助かるなぁ、さすが、お兄ちゃんだね」などと手伝ってもらう場面を増やせたらいいですね。

■上の子が喜ぶことは何かな? 「うれしい」を暮らしの中に

「上の子かわいくない症候群」に陥っているときに、どうすれば「かわいい」と思えるのでしょう。

 私は、上の子を喜ばせてほしいと思います。それはテーマパークに連れていくとか、高価なプレゼントをあげるとかではなく、暮らしの中の小さな「うれしい」を共有することだと思っています。

 暮らしの中の「うれしい」とは、「ねえ、このタオル、ふかふかで気持ちいいよ。触ってごらん」「ほんとだ!」という、ささいな会話です。「今日はあなたの好きなハンバーグだよ」のあとの笑顔です。「赤ちゃんがやっと寝てくれたから2人で絵本を読もうか」と寄り添う時間です。

 子育てのあわただしい時間をやりくりして、上の子と笑い合ってみてください。「かわいいなあ」という気持ちをちゃんと取り戻せると思います。

 子どもが小学生だったら、いっしょに料理を作るとか、アイドルやアニメの話をするのもいいですね。そういう時間が親子の関係を再構築してくれるのだと私は思います。

 イライラしたり、怒りが抑えられなかったりするときもあるでしょう。そういうときには上の子に「今日はママ、頭が痛くて怒っちゃった。少し寝てもいい?」と説明すれば、幼いなりに納得してくれるものです。

 それでも「上の子がかわいいと思えない」という場合には、専門家に相談することをおすすめします。子育て支援センターや、子どもの一時預かりをしているこども園などでもいいかもしれません。もし誰かに相談して、「母親なのに、子どもをかわいいと思えないなんておかしい」などと言われたら、「相談相手を間違えた」と思って仕切り直ししましょう。

 繰り返しますが、子どもをかわいいと思えなくなるのは誰にでもあることです。そして親子関係を修復して「かわいい」を優勢にすることもできるのです。でも対策は早いほうがいい。それだけは覚えておいてほしいですね。

(取材・文/神 素子)

〇岩立京子(いわたて・きょうこ)/東京家政大学子ども学部子ども支援学科教授。専門は発達心理学、幼児教育学。東京学芸大学教育学部幼児教育学分野教授を長年つとめあげて現職。働きながら1男1女を育てた経験からくるアドバイスが共感を呼ぶ。著書に『子どものしつけがわかる本』(主婦の友社)などがある。