「皆さん、避妊にはどんな方法があるか知っていますか?」。明るく、サバサバとした語り口で小・中学校、高校を中心に、年間120回を超える性教育講座をこなす、サッコ先生こと産婦人科医の高橋幸子先生。思春期真っ盛りの中高生たちは、内容によっては「やばい」「まじか!」と照れ笑いをしたり、驚いたりと場内がザワザワする場面もたびたび。しかし、妊娠の話題になると、子どもたちの表情が変わる。サッコ先生の顔を見て、じっと話に聴き入る。

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●「今、もし妊娠したら?」という場面を考えてみよう

 中高生ともなると、好きな人ができて、おつき合いが始まる子どももたくさんいます。おしゃべりしたり、どこかに二人で出かけたりと、そんなときははたから見てもキラキラ輝いて見えますよね。そして、仲が深まってくると、性交という流れに向かうでしょう。それは決して悪いことではありません。でも、その前にライフスキルとして知っておきたいことがたくさんあります。

 講座の途中で、「皆さんの中で、今すぐ妊娠を計画中の人はいますか? 男子なら、もし今、彼女が妊娠をしたら、育てることはできそうですか?」と必ずたずねます。「そんなこと考えてるわけないじゃん」「そもそも相手がいないし」など、さまざまな感情を伴いながら聞いていると思います。

 10代の皆さんは、きっとほとんどがまだ将来の夢に向かって勉強やスポーツ、文化活動などをがんばっている時期だと思います。もし今「赤ちゃんを育てる」ということが10代の二人の日常にプラスされたらどうなるでしょう。

 育児にはそれなりの経済力が必要なので、もしかすると学業をあきらめて、働くことになるかもしれません。そして、生まれたての赤ちゃんは3時間おきに授乳が必要なので、体力勝負。さらに、洗濯をしたり離乳食を作ったりとそれなりの生活力も必要です。このような生活になると、将来の夢に向かって今がんばっていることを、自分とパートナーの二人とも一度「中断」する可能性が出てきますよね。

 この話をしているとき、会場はシーンと静まり返っています。

「いつか赤ちゃんはほしいけれど、今ではない」と思うのなら、つまり「妊娠したい」とき以外は、妊娠をしない方法を実践する必要があるのです。それには(1)性行為を行わない (2)避妊を行う、の2択です。

 でも、長い人生の中で、(2)を選択するときがくるかもしれません。それなら、(2)の知識をしっかりつけておく必要がありますよね。

「避妊にはどんな方法があるか知っていますか? 避妊をするのは誰ですか? そして、妊娠をするのは誰ですか?」こう問いかけると、子どもたちは「妊娠」や「避妊」を自分ごととして真剣に考えます。赤ちゃんができるのが「今は困る」のであれば、避妊はセットなのです。

●避妊は、パートナーへの思いやり、愛情だということ

 避妊には、(1)コンドーム (2)低用量ピル (3)緊急避妊薬といった方法があります。(2)の低用量ピルは、病院で処方してもらったピルを計画的に服用することで、妊娠を回避します。(3)の緊急避妊薬は、性交後72時間以内に服用することで避妊が可能になる薬です。どれも「必ず100%避妊できる」というものではありません。

 避妊は、男性も女性も、自分自身が主人公になって考えることが大切です。でも、男子校の講演の際は、「パートナーを守るために、男性が主導して避妊を行いましょう」と伝えています。パートナーのために自分ができることはなんだろう?と考えてほしいからです。

 避妊を考えるときに参考になるのが、「パール指数」という指数です。これは、100人の女性が、その避妊方法を1年間続けたときに何人妊娠したかを表したものです。使用方法によっては数値に幅がありますが、この数値が低いほど避妊の効果が高いことになります。理想的な使用(その避妊法を正しく続けて使用しているにもかかわらず妊娠した場合)で比較すると、低用量ピルのパール指数は0.3、コンドームは2です(詳しくは図表を参照)

 ちなみに、なにも避妊をしない場合のパール指数は「85」です。

 男子校でしっかりと説明するのは、やはり(1)のコンドームです。コンドームは、裏表を間違えず、破らずに正しく装着できないと意味がないので、一に練習、二に練習なのです。膣外射精なんてもってのほか。膣外射精は避妊なしと同じといわれます。男子には、妊娠を望んでいないのにコンドームなしで性行為を行うような責任感のない人にはなってほしくないし、おつき合いしなくてもいいと思います。

 以前、日本家族計画協会が約6千人の10〜50代を対象に「コンドームを使うことをどう考えていますか?」とアンケートをとりました。「マナーである」「安心できる」といった回答のほか、「相手からの愛情・責任を感じる」という女性の回答も多く見られました。男子の皆さんには、コンドームの使用が「僕は、君を大切にしているよ」という相手への気持ちの表れであることを覚えておいてほしいですね。

●性行為のあと、「生理がこない」ときはどうする?

 妊娠したかどうかは、性行為があった日から3週間できっちりとわかります。これも大切なライフスキルです。妊娠検査薬ではっきりと判定できるので、予定していた生理がこないようなら、チェックしてみましょう。私は、男子には、彼女が「生理がこない」と悩んでいるなら「いっしょに検査してみよう」と言ってあげよう、と伝えています。

 生理は、ストレスで周期が乱れることも多々あります。「生理がこない、妊娠してたら困る。どうしよう。やばい……」と女の子が悩むことで生理がとまってしまうこともあります。そして、検査をして陰性とわかった翌日に生理がきた、ということもよくある話。

 妊娠には、正常な妊娠とそうでない妊娠があります。異常な妊娠の場合、女性の命にかかわることがあるので、妊娠が判明したらなるべく早く産婦人科を受診することが大切なのです。そして、産むか産まないかをいっしょに考えましょう。

 講演では、「彼女が生理痛がひどくてつらそうです。これに対して、痛み止めの薬はどうすべきだと思いますか?」とクイズを出します。答えは(1)痛み止めは使ってはいけない (2)「もうがまんできない」というところで服用する (3)すぐに服用するべき、の3択のうち、(3)を選ぶ生徒が多く見られます。その通り! そんなとき「いまどきのティーンズ男子、やさしいな」とうれしくなります。きっと「薬、持ってないの? 買ってきてあげるよ」と走ってくれることでしょう。

 おつき合いをするようになったら、こんなふうに生理痛はもちろん、避妊や妊娠、性感染症についても、ちゃんと話し合える二人であってほしいと思います。それが大切な相手を思いやり、守ることにつながるからです。これから、さまざまな出会いやおつき合いを経験するティーンズに、しっかり知っておいてほしいですね。

(「『妊娠していなくても、中高生のうちから産婦人科に行こう』と性教育の専門家が呼びかける理由とは?」から続く)

(構成/三宅智佳<AERA with Kids編集部>)

【高橋幸子先生(産婦人科医)】 山形大学医学部卒業、埼玉医科大学医療人育成センター・地域医学推進センター所属。日本家族計画協会クリニック非常勤医師。性教育をライフワークに、小・中学校、高校などで講演を行う。最近は、オンラインで地方の高校や大学、教育委員会での講演も増えている。監修書、著書多数。最新の監修書は、人気コミック『はたらく細胞LADY 10代女性が知っておきたい「性」の新知識』(講談社コミックプラス)。