5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。

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case.39  言い訳ばかり出てきた思考がポジティブに

夫+子ども2人/経理事務

  人はどうしても楽な方に流されてしまいます。家の中が散らかっている人は、片づけない方が楽だと思って、そちらを選び続けてしまったのです。そのとき、自分に都合のよい言い訳もきっと1つや2つは思い浮かんでいるはず。

 忙しいから。疲れているから。時間がないから。

「私は子どもがいるから片づけができないんだって思っていました」

 さちこさんは、11歳と3歳の子どもを育てながら仕事もしています。夫は仕事中心の生活をしていてあまり家事・育児の協力が得られず、片づけに費やす時間がないと嘆くのも当然かもしれません。

「ほぼワンオペの状態で育休から復職。がんばって働いていましたが、ちょっと仕事が回らなくなったタイミングで職場の人との信頼関係がうまく築けなくなり、私がいっぱいいっぱいになってしまって……」

 職場のデスクは散らかり放題で、探し物ばかり。その結果、ミスも増えました。少しのことから始まった負の連鎖が止められなくなってしまいました。

  家の中も洋服、書類、本などが散乱している状態。「もう無理だ」と思って退職したさちこさんは、次の職が見つかるまでの間、せめて家の中を片づけようと決意します。

 以前は片づけに苦手意識はありませんでした。引っ越しが多かったので、自分の荷物はそれほど多くなかったからかもしれません。でも今は、自分のモノだけでなく家族のモノも増え、管理ができていない状態。

「たぶん育児が忙しくなり始めた頃に、片づけることに対して考えたり、時間や手間を費やしたりすることをやめてしまったんだと思います」と、話すさちこさん。

 

「最初は自宅まで来てくれる整理収納アドバイザーの方にお願いしようと思ったんです。でも、このぐちゃぐちゃな家の何をどうやってお願いすればいいのか悩んでしまって」

 いざ片づけようと思っても、片づけを避け続けていたので何から手をつければいいのかわかりません。そんなときに家庭力アッププロジェクト®の存在を知り、参加を決意しました。

「自分が片づけられるようになれば、子どもたちも片づけが習慣化できるかなと思って。自分以外にも、よい影響がでたらいいなという期待もありました」

 小学校5年生の長男は、3年ほど前から不登校が続いています。さらに、自分だけのリズムで生活をしている夫にも不満がたまっていました。自分が変わることが、家族みんなの笑顔につながるかもしれないと思ったのです。

 家事・育児・転職活動に加えて、45日間の片づけもスタート。さちこさんいわく、“怒涛の日々”でした。

 少しでも時間があるときは、気づけば片づけについて考えていました。不用品を手放し、モノの定位置を探す。次男が起きている時間はなかなか片づけを進められないので、昼寝の時間や寝かしつけが終わった夜などの時間を活用しました。

「プロジェクトで学んでから改めて家の中を見回してみると、長く使っていないモノやもう必要ないモノばかり。なんで今まで残していたんだろうって不思議でした」

 長男は片づけに協力的でした。

 たまに夕ごはんを作ってくれるほど料理が好きなので、キッチンは長男の意見も取り入れることに。フライパンや調味料などを子どもでも取り出しやすい場所に収納したかったので、場所を変えながら検証して一緒に最適な場所を見つけました。

 家の中がきれいになってくると、探し物や「あれどこ?」と家族にきかれることがグンと減り、さちこさんのストレスが減りました。

「以前よりもイライラすることがなくなりましたね。夫に対しても、ずっと『私だけがこんなにがんばっている!』と自分の不満を押しつけていましたが、今では『夫なりに仕事のことで頭を悩ませたりしているんだろうな』と気づかえるようになったんです」

 さちこさんの変化を受けて、短気な夫も少し穏やかに変わってきました。

「自分でも変わったと思います。『できない』とあきらめるのではなくて、『どうしたらできるようになるか』という考え方になりました。前と変わらず、時間はないし、忙しい。でも、自分の中で『ここまでならできる』ということがわかるようになったんです」

 転職先も決まり、自分らしいペースで働けるようになったさちこさんは、これからもっと長男と向き合おうと考えています。

「自宅でパーティーを開いたとき、ほとんどの料理を長男が作ってくれました。人が喜んでくれるのは好きみたい。これからそうやって長男が料理の腕を振るう機会を増やしていこうかな」

 さらに、片づけによってすべてがボリュームダウンして心が軽くなったとも教えてくれました。

「家の中のモノの量が減ったというのはもちろんそうなんですが、ずっと心の中にあった『片づけないと……』という気持ちがなくなりました。片づけが生活の一部になって、やらなきゃいけないタスクではなくなったんです」

 今の気持ちを一言で表すと、「穏やか」。そう話すさちこさんは、とても素敵な笑顔をされています。きっと前職を辞めた当時とは正反対の気持ちなのでしょう。

 私は、片づけが「できない」人はいないと考えています。そういう人の多くは、片づけを「知らない」だけなのです。そのような人たちをサポートすることで、さちこさんのような笑顔が世の中にもっと増えるといいなと思います。

●西崎彩智(にしざき・さち)/1967年生まれ。お片づけ習慣化コンサルタント、Homeport 代表取締役。片づけ・自分の人生・家族間コミュニケーションを軸に、ママたちが自分らしくご機嫌な毎日を送るための「家庭力アッププロジェクト?」や、子どもたちが片づけを通して”生きる力”を養える「親子deお片づけ」を主宰。NHKカルチャー講師。「片づけを教育に」と学校、塾等で講演・授業を展開中。テレビ、ラジオ出演ほか、メディア掲載多数。

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