幼稚園に通う5歳の娘を持つ40代の父親。専業主婦である妻がママ友を作ろうとしないため、娘までもが孤独にならないか心配しています。ママ友同士の付き合いは、子育てにおいて重要ではないのでしょうか。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から孔子の格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。

*  *  *

【相談者: 5歳の娘を持つ40代の父親】

 幼稚園年中、5歳の娘を持つ40代の父親です。私の心配は、専業主婦である妻に、ママ友が一人もいないことです。妻はもともと一人の時間が好きなタイプで、ママ友不要派。子育ての悩みを相談できるようなママ友は一人もいません。「困ったことがあれば実母や義母や市の保健師さんに相談するから大丈夫。小学校にあがればどうせ終わる交友関係だから時間の無駄だし、無理に友達を作るのも不自然」とさらっと言います。

 幸い、娘は順調に成長していますが、妻が幼稚園のボランティア活動やママ友同士の集まりにも一切参加しないため、娘は明らかに人と接する機会が少なく、父親として心配です。今後も周囲との付き合いを拒み続けて、娘が孤独になったらかわいそうです。妻の考えを尊重すべきでしょうか。

【論語パパが選んだ言葉は?】

・「子曰(い)わく、己を脩めて以(も)って敬す」(憲問第十四)

・「子曰わく、君子は坦(たん)として蕩蕩(とうとう)。小人は長(とこしな)えに戚戚(せきせき)」(述而第七)

【現代語訳】

・孔子がおっしゃった。「つねに自分の修養につとめ、これでいいのだろうか?と自分自身に問いかけ、慎み深くあることだ」

・孔子がおっしゃった。「人の上に立つ立派な人(君子)は、心がおだやかでのびのびとしている。君子以外の人は永遠に憂いがなくならず、いつもこせこせしている」

【解説】

 相談者さんは妻の考えを尊重してください。妻は、しっかりとした自分の意志に基づいて娘を育てているではありませんか。的確に誰に何を相談すべきかを知っている妻は、とてもすばらしいと思いますよ。心配することなどありません。

 私はママ友を否定するわけではありませんが、ややもすれば、ママ友をはじめ周囲の意見は、子どもの将来や家族の関係にまで望まない大きな影響を及ぼす可能性があります。妻が言うように、「無理に友達を作る」必要なんてありません。

 それよりむしろ、孔子が、君子について問われた際に「己を脩めて以(も)って敬す」(憲問第十四)

 と言ったように、一人ひとりが「自分を修養する力」を身につけることのほうがずっと大切です。

「修養」というと難しく聞こえますが、それは、「自分で考える力」です。人にとって最も大切なことは、自分が納得する生き方をどのように選択し、どのようにして実現するか。そのためには「これでいいのか?」「自分は正しいのか?」と、慎み深く自分自身に問い続けていくしかありません。ママ友に相談をするにしても、最終的には、一人ひとりが自分で考えて、自分で処理しなくてはいけないのです。

 孔子は「人としてのあるべき姿」をこうも表現しています。

「君子は坦(たん)として蕩蕩(とうとう)。小人は長(とこしな)えに戚戚(せきせき)」(述而第七)

 訳すと、「人の上に立つ立派な人は、心がおだやかでのびのびとしている。君子以外の人は永遠に憂いがなくならず、いつもこせこせしている」という意味です。

 相談内容からすると、妻は周囲に振り回されずに、自分で選択した道を心おだやかに、のびのびと進んでいるのではないでしょうか。こうした母親の姿を見ながら成長する娘さんは、なんと幸せなことでしょう!

 さて、もし相談者さんが、娘さんが周囲から孤立しないことを望んでいらっしゃるとすれば、相談者さん自身が積極的に幼稚園の送り迎えなどをしてみたらいいと思います。そして、娘の友達や、その親御さんと顔見知りになって「いつも遊んでくれてありがとう。今度家に遊びにおいで」などと、声をかけてみてはいかがでしょうか?

 妻が「幼稚園のボランティア活動やママ友同士の集まりにも一切参加しない」と書いていますが、もし、こうした活動に参加したほうがいいと、相談者さんがお考えであれば、親として自ら積極的にやっていけばいいのです。なんでも妻に押しつけるのだけはやめましょう。

 妻は人付き合いが苦手だから、子どもの成長を間近で見たいから、などという理由で、家事や育児をしている父親はたくさんいらっしゃいます。

 文脈からすると、相談者さん自身、あまり積極的・楽天的な性格ではないのではないかと察します。だからこそ、相談者さんは、娘さんには社交的になってもらいたくて、妻に交友関係を広げてもらおうと考えているのではありませんか? もし、そうだとしたら、相談者さんの考えは間違っています。

 なれ合いの人間関係は嫌いだというすばらしい独立自尊の心構えを持った女性と結婚したのですから、ぜひ、そういう妻の人格を認めてそれを見守ってください。娘さんには娘さんの性格、人格があります。

 相談者さんがやらなければならないことは、2人の意見を尊重し、自分なりに今、家族や社会に対して何をするのが一番か?ということを考え、それを実行に移すことです。決して、人任せにはしないでください。すべては自分自身の問題なのですから。

【まとめ】

自分の道をのびのび進む母親を持った娘は幸せ。周囲との付き合いを妻だけに押しつけるのはやめよう

山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。