閉経前後の時期に心身にさまざまな症状が表れる更年期。晩婚化の影響で、子育てと更年期が重なる女性も少なくない。一人で抱え込まないために大切なことは、「伝える」と「知る」だ。AERA 2023年1月16日号の記事を紹介する。

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 大塚製薬の「更年期症状のある女性のヘルスリテラシー調査」では、更年期症状があっても5割以上が医療機関を利用していなかった。原因である女性ホルモンの知識がないと回答した人は全体の6割以上。同社の「女性の健康推進プロジェクト」リーダーで、日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門薬剤師の西山和枝さんが言う。

「知識がないと不調があっても何が起こっているかわからず、適切な対処までいきつかない。知って、気づいて、相談して、対処する。ヘルスリテラシーの向上が不可欠です」

 知識があれば、更年期の時期をきっかけに、体について学ぶ糸口になることも。

「お母さんが更年期で娘が思春期という場合、自分は女性ホルモンのレベルが低下し、娘は増加する。どちらも心身が揺らいでいるので、ちょっとしたことで喧嘩になる。でもそこで、一生の中で起こる女性ホルモンレベルの変化の図を見ながら、『あなたは今ここ、私はここ。女性ホルモンの影響を受けてうまくいかないこともある』と会話ができれば、互いの理解につながる。息子や夫に対しても、同様のシーンを作り出すことができます」(西山さん)

 更年期について心置きなく語り合う場を──。シニアメノポーズカウンセラー(「NPO法人更年期と加齢のヘルスケア」認定)で看護師の加藤久美子さん(55)は、同じくシニアメノポーズカウンセラーの高野ひとみさんら仲間とともにメノポーズサポートチーム(MST)を立ち上げ、「湘南メノポーズカフェ」を開催している。更年期と子育てについて話を聞きたいとお願いしたところ、何人かの女性を集めてくれた。

■自分を責めていた

「47歳あたりの時、小学生の子どもに当たり散らしていました。子育て、仕事、親のこと、なんで自分ばかりというのが日々あった。学校行事などで『あなたの意見を聞きたい』と何度言われても、考えがまとまらない。ぐずぐずしてしまう自分が許せず、自分を責めてしまいました」(60歳女性)

 今年、子どもが成人したという女性(55)は、生後3カ月で離婚。たくさんの部下を抱え、部署を複数掛け持ちすることもあった女性の子育てを支えたのは、同居する実母だ。

 この女性が更年期を意識し始めたのは、ママ友の存在が大きかった。突然倒れ、寝込み、ドクターショッピングの末、3カ月後に更年期症状と判明。治療で劇的に改善した。ママ友から更年期についていろいろと聞いていたこともあり、それらしき症状が出てきた時ピンときた。

「でも治療を受けても完全に逃れられない。子どもの受験期で体調がぐっと悪くなり、1人子育てで生活があるので仕事はやめられず……。更年期の勉強会に参加し、サプリ、運動、アロマをやり、ホルモン補充療法(HRT)を受けました」

 治療で元気になると、今度は仕事に精を出しすぎてガクッとくる。最近は自重して、睡眠を極力取り、食事内容などにも注意するよう心がけている。

■老化ではなくSOS

 夫婦共に現在54歳で、子どもが13歳の女性は、更年期の症状が出ていた期間に、夫のがん、母親の認知症発症、いとこの病死を次々と経験した。

「自分の体を大切にしなくては、と更年期について勉強し、病院を探してHRTの治療を受けました。すると、30代の頃のように体が軽くなった。今もメンタルが落ち込み泣いてしまうときはありますが、あえてメノポーズカフェに参加する。するとだいぶ気持ちが楽になる」

 加藤さんが言う。

「特に私たち世代の女性は、子育ても介護もすべて担わなければ、というアンコンシャス・バイアスがある。語り、耳を傾ける湘南メノポーズカフェは、そういうことにも気づける場です。参加者の中には、更年期を機に娘さんと女性ホルモンについて学んだ人もいれば、息子さんに『将来、結婚して奥さんにこういう不調が見られたら、女性ホルモンが関係しているんだよ』と伝えている人もいます」

 更年期症状に悩まされている女性が言う。

「私はもともとPMS(月経前症候群。月経前に表れる心身の不調)があり、その段階できちんと対応していれば違った経過を辿ったのではないかと思う。体の変化を老化ではなくSOSと捉え、家族や友人に伝え、知ってもらうことが大事。我慢は禁物です!」

 取材中、幾度となく出てきた「伝える」「知る」。

「更年期と子育て」の問題は、女性だけのものではない。男性の更年期も近年注目を集めている。双方が正しい知識を持ち、場合によっては専門家のサポートを受けながら、ベターな道を歩んでいきたい。(ライター・羽根田真智)

AERA 2023年1月16日号より抜粋