昨年の出生数は80万人を切り、急速に少子化が進む日本。なぜ我が国では未婚化が進むのか。AERA 2023年1月23日号の記事を紹介する。

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「出生動向基本調査」では「結婚したら子どもを持つべき」と考える女性は36.6%、男性は55.0%と、6年前の調査に比べ女性は約30ポイント、男性は約20ポイント下がった。結婚後に希望する子どもの人数は、女性は1982年の調査開始から初めて2人を割り1.79人、男性は1.82人だった。

 派遣社員として働く30歳の女性は専門学校を卒業後、メーカーに就職。結婚を機に25歳で退職、派遣会社に登録した。

「30歳で仕事を辞めて妊活に集中し、35歳までには家を買いたいというのが、私と夫の人生設計。お金が必要なので残業の多い仕事が希望だったんです」

 ところが派遣された会社で、別の部署への異動後に仕事が激減。月収が4万〜5万円減った。30歳になったのに、貯金が目標額に達していない。女性には「子育てにはお金も時間もいっぱいかけたい」という夢があった。貯金が不十分でも仕事を辞めて妊活するか、仕事をしながら妊活するか。人生設計の軌道修正が必要で悩み中だという。

 子どもを持つことへのためらい。文京学院大学教授で心理学者の永久ひさ子さんは、「専門的な仕事に就く女性ほど、『いかに自分の人生を変えずに生きていくか』を重視する傾向がある」と話す。

「懸命に努力して手に入れた仕事。結婚や子育てで手放す決断は重い。ただ一方で、充実した教育を受けてやりがいのある仕事に打ち込む女性ほど、自分が母親からしてもらったことを自分の子どもにもやってあげたいと思う傾向が強いんです。男性と同じように仕事をし、収入も得ている。でも子育ては変えたくない。そのねじれも、結婚しにくい状況を生んでいる」

■認知症の親がいて躊躇

 いまはまだ、結婚しない。そんな悩みと選択の一方で、「したくてもできない」人もいる。

「結婚? 無理ですよ」

 北陸地方在住の40代の男性はため息をつく。東京の私大を卒業後、編集プロダクションに就職。30歳でUターンした。

「実家だと家賃がかからないし、生活費が安い。フリーのライター、編集者なんですが、競合相手が少ないからか、収入は東京時代よりアップ。貯金は増えた」

 恋人もでき、やがては結婚、と漠然と考えていた。そんなとき、当時70代の父親がアルツハイマー型認知症と診断された。男性が35歳の時だ。心の余裕がなくなったことで恋人と会う時間は減り、次第に連絡が来なくなり、自然消滅した。それから10年近く。いい雰囲気になった相手は何人かいたが、次の一歩を踏み出せなかった。

「付き合うとなると、その先に結婚がある。認知症の親がいる自分でいいのかなと思うと、躊躇してしまう。さらに正直な気持ちを言うと、認知症の親を持つ自分を否定されるのが怖い」

 内閣府の「男女共同参画白書」によると、20年の50歳時の未婚割合(生涯未婚率)は男性が28.3%、女性が17.8%。1970年がそれぞれ1.7%、3. 3%だったことを考えると驚きの数字だ。

「でも、ほぼ全員が結婚できる状況も異常だったと思います」

 こう話すのは、独身研究家の荒川和久さんだ。

「お見合いや職場結婚が衰退し、恋愛の自己責任化が進んだ社会構造の変化の中では、いつの時代も一定数存在する『恋愛弱者』がさらに結婚できにくくなっています。結婚についての価値観や恋愛の能力が昔と変わったわけではなく、環境の変化に翻弄され続けているんです」

■幸せの先に結婚がある

 よく言われる「進む晩婚化」も、現実とは違うと話す。

「20代の結婚が減り、後ろにずれて35歳以上が増えているわけではない。そこも減っているんです。そしてある程度の年齢になり『私は選択的に結婚しないんです』とする人の中には、それまで『したくても不本意ながらできなかった』ことを認めるのがつらくて、認知不協和で理屈付けしている人も少なくないと私は見ています」

 ただたとえ後付けであっても、できないことを引きずらず「結婚という選択肢をいったん、自分の中から除外してみる」ことは、その人の幸せにとって大事なポイントだと荒川さんは言う。

「結婚したら幸せになれるはず。これって呪いの言葉。結婚できなかったら不幸なままなんて思いに囚われていたら、人生つまらない。自分が自分を幸せにできる人間じゃなければ、他人も幸せにできません。まずは自分が幸せになること。結婚はその先にあるものだと思います」

(編集部・小長光哲郎、ライター・羽根田真智)

※AERA 2023年1月23日号より抜粋