コロナ禍、夫の会社の経営が悪化している様子に「心の中は不安の嵐」と訴える30代女性。どう夫を支えるべきか心構えを問う相談者に、鴻上尚史が提案した、二つの考え方を切り分けるヒントとは。



【相談171】起業した夫はコロナで経営が悪化。元来マイナス思考の私の心の中は、不安の嵐です(30代 女性 ホタル)

 はじめまして。私は鴻上さんの人生相談が大好きで、今までの本はすべて購入して拝読いたしました。

 私が相談したいのは、夫を支える妻としてのありかたについてです。

 夫は経営者をしています。起業から今まで経営は安定していたのですが、最近コロナや様々な要因で少しずつ経営が悪化してきているようです。仕事の弱音をあまり吐かない夫から、上手くいっていない様子が時々聞かれるようになりました。その際私まで落ち込むと、おそらく夫は何も話さないようになると思うので、「そっか、そうなんだね」くらいに相づちをうちますが、元来マイナス思考の私の心の中は不安の嵐です。仕事に関して私が出来ることがなく、ただただ心の中で心配するばかりです。

 私は現在育児中で専業主婦ですが、いざとなれば子どもはどこかに預けて働いても良いと思っています。そのことは夫に伝えており「ありがとう」とは言われてるのですが、日々悩んでる夫の姿を見るとどうして良いかわからなくなります。

 以前鴻上さんの人生相談に、成功した俳優さんでも将来への不安はあると記されていました。夫は俳優ではありませんが、今後の安定の保証がないという点では似ていると思いました。そのような夫を支える妻として、どのような言動、心構えをすべきでしょうか?

 鴻上さんのお考えを聞かせてください。

【鴻上さんの答え】
 ホタルさん。コロナ禍の影響、大変ですよね。「元来マイナス思考」と書かれていますが、「マイナス」に敏感なことは、悪いことじゃないと僕は思っています。

「マイナス」に敏感だから、人類は生き延びてきたんだとまで思っているのです。

 大昔、原始人Aさんは、青空の下、あんまり気持ちいいんで日向ぼっこしてたとします。いい風も吹いてきます。と、草原の向こうにライオンがいました。「あ、ライオンだ。でも、青空だ。気持ちいいなあ」と日向ぼっこを続けた原始人Aさんは、そのうち、ライオンに食い殺されたんじゃないかと想像するのです。

 一方、「あ、ライオンだ。でも、青空だ。気持ちいいなあ。でもライオンだ!」と日向ぼっこを中止して逃げ出した原始人Bさんだけが生き延びたんだと思うのです。

 つまりは、「楽観」した人類は滅び、「悲観」した人類が主流になったのではないかと思っているのです。

 で、ひとつ問題があるとすると、「マイナス」に押しつぶされる人です。日向ぼっこしているうちにライオンを見つけた時、「あ、ライオンだ。もうだめだ。絶対に食われる。すぐに追いつかれる。どんなに逃げてもムダだ。絶対にそうだ。もうだめだ! 終わった!」と絶望してしまう人です。そして、逃げるわけでもなく、日向ぼっこを楽しむわけでもなく、ただうずくまってしまうのです。そうすると、ライオンはガオガオ言いながら近づいてきますね。

 これが、「マイナス」に押しつぶされるということですね。

 ホタルさん。「心の中は不安の嵐」でも、毎日の生活はちゃんと送れていますか? それとも、不安の嵐に振り回されて、夫との会話も育児も、時々、中途半端になっていたりしますか?

 ホタルさんにとって、「日向ぼっこを続けてライオンに食われる」わけでも「絶望してうずくまる」わけでもなく、「ライオンからちゃんと逃げる」という「前向きな行動」はなんでしょうか。

 それは、ホタルさんも分かっているように、落ち込むことなく、夫の話をどーんと聞いてあげて、場合によっては快活に夫を勇気づけたり、効果的に気分転換させたりすることですよね。

 そんなことは分かっているのに、「心の中は不安の嵐」なので、なかなか、そうできないんですよね。

 話は突然変わりますが、ホタルさんは、「道を歩いていて車が突然突っ込んでくること」は心配ですか? 「隣の家(マンションやアパートなら部屋)が火事になること」は心配? 「突然の大地震」は?

 どうですか?

 これらは、決して絵空事ではないですよね。起こる可能性は間違いなくありますよね。こういうことをホタルさんは心配してますか? もし心配してないなら、なぜですか?

 えっ? 起こる可能性が低いから心配してない?

 でも、可能性が低いことと、絶対に起こらないことは別でしょう? 鉄道事故も飛行機事故も、どんなに可能性が低くても起こる時は起こるわけですね。

「元来マイナス思考」ならこういうことも全部、心配しないとおかしくないですか?

 でも、こういうことが心配で心配で寝られないってことはないですよね。寝ている間に飛行機が落ちてきたらどうしようって心配するのは、ちょっと病的ですもんね。

 ということは、ホタルさんは心配することと心配しないことをちゃんと分けているということですね。「元来マイナス思考」とまとめていますが、「マイナス思考」になることと、ならないことを区別できているということでしょう。

 そこからもう一歩進めて、「心配してもしょうがないこと」と「心配する意味があること」を分けませんか?

「明日、大地震が起こったらどうしよう。心配で寝られない」というのは、「心配してもしょうがないこと」でしょう。でも「地震が起こった時のために、非常持ち出し袋を買わないと。携帯が通じない時のために家族の集合場所も決めないと」は「心配する意味があること」だということです。

「現在育児中で専業主婦」のホタルさんにとって、「心配してもしょうがないこと」と「心配する意味があること」はなんですか?

「落ち着こう」とか「心を強くもとう」なんて自分に言い聞かすのではなく、この区別を考えることが重要だと僕は思っているのです。

 ホタルさんは「夫は俳優ではありませんが、今後の安定の保証がないという点では似ていると思いました」と書きますが、今どき、どんな仕事でも「安定の保証」なんてないと思いますよ。どんな大企業に勤めていても、いつリストラされるか分かりませんし、そもそも、大企業も簡単に吸収・合併・倒産する時代です。

 公務員は比較的安定していると言っても、いつ身体を壊すかも分かりませんし、どんな事故に遭うかも分かりません。

 マイナスに敏感になれば、マイナスの理由なんていくらでも出てくるでしょう。不安になる理由なんていくらでも見つかるということです。

 だからこそ、「心配してもしょうがないこと」と「心配する意味があること」を分けるのです。

 そして、「心配する意味があること」を考えるのです。

 少しずつ「心配する意味があること」が見つかると思います。「もしもの場合のために倹約しておいた方がいいか」とか「近くにどんな仕事があるのか、今から探しておこうか」「安上がりで美味しい献立を考えてみようか」「夫が元気になる食事を作ってみようか」なんてことです。

 そうするとね、ホタルさん。考えている間は、心の中の「不安の嵐」は弱まるはずです。じつは、これが一番の利点です。どうですか、やってみませんか?

■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載!