日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「コロナ禍で失われた運動習慣を取り戻す大切さ」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
* * *
日本政府は今年の5月8日から、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を季節性インフルエンザ並みの「5類」に引き下げることを決めました。マスク着用については、屋内や屋外を問わず「個人の判断」に委ねる方針を示しています。
1月21日と22日に実施された朝日新聞の全国世論調査によると、新型コロナウイルス感染症対策をインフルエンザ並みに緩和することに対し、「賛成」58%、「反対」37%であり、30代以下では「賛成」が8割近くを占めたが、60代以上では「賛成」は4割前後にとどまっていたことがわかりました。また、屋内でのマスク着用を原則不要とする考えについてたずねたところ、屋内でマスクを着けないことが「増える」は24%にとどまり、「変わらない」は74%を占めていたことが明らかになったといいます。
日本におけるマスクの着用義務はそもそもありません。あくまでも、感染予防対策の一つとして「マスク着用のお願い」がなされてきました。しかしながら、入店するときや公共交通機関を利用する際など、あらゆるところでマスクの着用を「半ば強制」されてしまうことが現実であり、「家から一歩外に出たならば、マスクを着用しなければならない」という日本社会全体の雰囲気や「マスクをなんで着けていないんだ」という周囲の視線は、日本を離れた今でも忘れられません。
コロナの扱いが「5類」に引き下げられ、マスクの着用が「個人の判断」に委ねられたあかつきに、マスクの着用を「半ば強制」されるような雰囲気が残ってしまうのか、そして多くの日本人がマスクを着用し続けることになるのか。世界保健機関(WHO)が2020年3月に新型コロナウイルス感染症のパンデミックを宣言してから4年目の今年の5月に、これまでの日常が果たして戻ってくるのかどうか、気になるところです。
さて、在宅勤務や時差出勤、外出自粛や感染対策など、コロナパンデミックが私たちの生活にもたらした変化には様々なものがあります。特に、食生活や生活リズムの変化、運動習慣の減少や喪失、体重増加など体調の変化を経験した方は少なくないのではないでしょうか。
コロナパンデミック直後からワクチン接種が普及するまでの間だったと思います。「在宅勤務になり、全く運動しなくなった」「どんどん体重が増えていく……」「コロナの流行をきっかけにジムを退会して、今は何もしていない」「在宅勤務になって、無意識にお菓子を食べてしまうことが増えた」「在宅勤務になってストレスはないが、なんとなく気分が落ち込むことも多い気がする」かかりつけの患者さんに「調子はどうですか」とうかがうと、このような回答を得ることが多かったことを覚えています。
しかし、コロナワクチン接種が対象世代に十分に普及した頃からでしょうか。「コロナが心配だから、外出や運動はまだ控えようかと思う……」とおっしゃる患者さんも依然としていらっしゃる一方で、「ジムに再入会した」「中断していたランニングを、また始めることにした」「通勤しなくなった代わりに、ウォーキングを始めました」と運動を再び始める方や、新たに運動し始める方が徐々に増えてきたのです。
「健康診断で生活習慣に関連した数値が引っかかった」「産業医に体重増加と肥満を指摘されてしまった」「今まで着られていた服がきつくなった」「体力が落ちた気がする」など、きっかけや動機は様々でしたが、大なり小なりコロナパンデミックをきっかけに生活習慣が変化したに違いないと思う回答が多かったように思います。
私自身も、外出自粛による運動不足が積み重なり、次第に体重が増えていきました。気持ちが落ち込む日も増えていきました。もともと運動が苦手だったこともあり、忙しさを理由に全く運動をしていなかったのですが、コロナパンデミックの宣言から半年後が経過した頃、「このままではまずい」と思うようになり、ウォーキングと興味があったピラティスを始めました。
運動することが大の苦手だった私でしたが、毎日辛くない程度に継続したことで、ウォーキングの距離が少しずつ伸び、朝晩2キロずつ歩くことも苦ではなくなりました。身体を動かして汗をかくことがリフレッシュにつながったのだと思います。落ち込むことが減り、気持ちも前向きになったように感じます。
運動が身体や心の健康維持に繋がることを自分自身が実感したことに加え、運動量が足りている人の新型コロナウイルス感染は重症化し難かったことや、運動習慣がある人の新型コロナウイルス感染症はより軽症で済むことなど、運動が私たちのコロナ感染予防にもたらす効果が多数報告されているということもあり、かかりつけの患者さんには「感染対策も大事ですが、運動をすることも重要ですよ」と伝えるようにしていました。
興味深いことに、一次診療時の後押しによる身体活動への介入は中等度から高強度の身体活動を増やすのに効果的であることが指摘されています。イギリスのラフバラー大学のVictoria氏らによると、さまざまな追跡調査 (3カ月から60カ月) を伴う 46 件のランダム化比較試験を解析した結果、一次診療時の後押しで患者さんのほどほどからきつめの運動時間が1週間あたり平均14分も増えることがわかったといいます。
「運動しなきゃとは思うけれど、なかなか続かない」「運動は昔から苦手なので……」そうおっしゃる患者さんには、例えばエレベーターではなく階段を使う、家の中でテレビを見ながらスクワットしてみるなど、日常生活の中で意識して身体を動かすことから始めることを提案していました。
ところで、運動と一言で言っても種目や強度は様々です。世界保健機関(WHO)は、成人(18歳から64 歳)に対しWHOは有酸素運動を強度がそこそこなら週に150−300分、強度がきつめなら週に75−150分(またはそれらの量に相当する、そこそこときつめの運動の組み合わせ)と、筋力トレーニングを週に2日以上することを推奨しています。しかしながら、これらの推奨されている運動量をこなしている成人はわずか17%にしかすぎないと報告されています。
日本にいたときは、主に電車移動だったため、必然的に歩く必要がありました。一方、日本を離れてからの生活は、車移動がメインです。運動する時間を意識して作らないと、WHOが推奨する運動量を満たすことは到底できません。そこで、週4回ほどのジムでの筋力トレーニングに加えて、ランニングやウォーキング、トレイルなども始めました。運動中はスマートウォッチを身につけ、運動時間や距離を測定し、表に記入して記録しています。食事内容や体重もその表に記入することで、健康管理に繋がっています。これはかかりつけの患者さんが実際にやっていた方法を真似たのですが、容易に可視化できる良い方法だと思います。
使用しているスマートウォッチは自分で購入した訳ではなく、友人から譲ってもらったものを使い始めたのですが、今更ながらとても便利であることを実感しています。自分の運動量が客観的にわかるからです。デンマークのコペンハーゲン大学のRasmus氏らがスマートウォッチを代表するデバイスと運動量について121の無作為化試験をまとめて解析したところ、どれだけからだを動かしたかを知らせてくれる携帯端末アプリや身に付けるデバイスの使用は、より多く歩くようになることやそこそこ〜きつめの運動時間の増加と関連していたことが分かったといいます。私自身、スマートウォッチを使用し始めてから「より意識して」運動するようになった気がします。
コロナパンデミックをきっかけに幸いにも運動する習慣を得ることができたので、心と身体の健康を維持するためにも、コロナ感染予防のためにも、継続していきたいと思います。
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。医学博士。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。2022年東京大学大学院医学系研究科修了。ナビタスクリニック(立川)内科医、よしのぶクリニック(鹿児島)非常勤医師、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)
コロナ「5類」引き下げで女医が考えた コロナ禍で減少してしまった運動習慣の大切さ

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