関西、東海でも首都圏同様に中学受験市場が活気づいています。難関校の志願者が増えるとともに、中堅校が伸びており、中学受験の裾野が広がっていることがうかがえます。共学校が人気なのも両エリアの特徴です。

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 関西2府4県(大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山)の中学受験率は、10.01%と2009年以来の10%超えとなった。小学6年生人口の減少にもかかわらず、受験者数も前年の1万6892人から387人増の1万7279人となっている。日能研関西(神戸市)取締役の森永直樹さんは、その理由を次のように話す。

「今年の受験生は、受験勉強がスタートする新4年次からコロナ禍にいた世代です。休校措置が取られたときに、私立は即座にオンラインで授業を再開しました。それらの対応を含めて私立の優位性がわかり、今まで関心がなかった層が中学受験に向かったと思われます」

■今年の傾向は、中堅以下の学校で志願者数が伸びたこと

 特徴のひとつが、難関校の志願者の増加だ。昨年の安全志向から一転、強気の受験となった。

「昨年が安全志向だったのでその反動でしょう。従来の形に戻ったという印象です」(森永さん)

 最難関校の灘(神戸市)は、志願者が2022年の652人から745人に増加した。

「灘には北海道から九州まで、全国から志願者が集まります。関西はもちろんですが、全国からの志願者も増加しています」(森永さん)

 洛南(京都市)も775人から883人へと大幅に増加。

「洛南は灘との併願が多いため、灘が伸びると必然的に増加します」(森永さん)

 今年の傾向は、中堅以下の学校で志願者数が伸びたことだという。

「たとえば1年ぐらい準備をすれば受験できるような比較的狙いやすい学校で、かつ設備やカリキュラムが整っている、私学らしい学校が人気になりました」(森永さん)

 特に大阪の共学校の増加が目立つ。上宮学園(大阪市)は380人から488人へと躍進。「校舎や設備が良くICT教育の先進校」(森永さん)であることが注目された。履正社(大阪府豊中市)は267人から299人への伸び。6年一貫コースのカリキュラムが刷新され、充実したことで好感を呼んだ。初芝立命館(堺市)は、一定の成績を収めれば立命館大に進学できるコースが設定されたことで660人から964人に志願者が増加した。

 付属校は難関校に受験生が戻ってきた。

「昨年は安全志向で産近甲龍(京都産業大・近畿大・甲南大・龍谷大)系列が志願者を集めましたが、今年は減少。一方で、関関同立(関西学院大・関西大・同志社大・立命館大)系列全体の志願者数は昨年よりも増加しました」(森永さん)

 しかし、関関同立枠内での安全志向も働いた。ほとんどの学校の志願者が増加するなかで、難関の同志社香里(大阪府寝屋川市)は1472人から1277人に、関西学院(兵庫県西宮市市)は888人から740人に減少した。

「この2校は難しくなりすぎて敬遠されたのと、レベルが高くなり受験生が他の難関校に分散したことが考えられます」(森永さん)

 一方で府県をまたいで受験する受験生が増えたことで、県境に位置していたり、交通アクセスが良かったりする学校が復活。帝塚山(奈良市)が1640人から1819人に、清風(大阪市)が1611人から1743人に、明星(大阪市)が1139人から1256人に、開明(大阪市)が1530人から2038人に増加。特に開明は入試回数を増やすなど入試改革が奏功し、508人の大幅増加につながった。

■教育に特徴のある私立に注目が集まる

 東海3県(愛知・三重・岐阜)は、愛知が牽引し全体を引き上げた。岐阜県と三重県は横ばい。特に名古屋市の中堅校が志願者を伸ばした。日能研東海(名古屋市)企画情報部部長の藤原康弘さんはこう話す。

「名古屋市内は今まで受験を考えていなかった層も中学受験を選ぶようになってきました。愛知は公立志向が強く“公立王国”と言われていますが、公立上位校は安定しているものの、名古屋市以外の公立高校では定員割れし2次募集している学校も珍しくありません。みんなが公立に行く時代ではなくなり、教育に特徴のある私立に注目が集まっています」(藤原さん)

 愛知では、志願者で過去最高を記録した学校が続出した。

 滝(愛知県江南市)は昨年の1868人から1929人に増やし2000人に迫る勢い。早期にICTに取り組み、面倒見が良いと好感を呼んだ。大学進学実績も伸びているという。

「20年ほど前は約1000人でしたから、2倍近くに増えたことになります。昨年からは2駅でスクールバスを走らせたことで利便性が増し、人気が上昇しました」(藤原さん)

 星城(豊明市)が182人から282人、名古屋国際(名古屋市)が271人から309人に、名古屋経済大学高蔵(名古屋市)が200人から224人に、名古屋女子大学(名古屋市)が991人から1026人へと過去最高を記録した。

 東海地区の入試解禁日は1月第1土曜日だ。原則として入試日は土・日・祝日に限られている。今年の入試日程は1月7、8、9日の前半に集中した。

「従来は、早い時期に入試を行う学校は押さえ校だったのですが、受験生が増えるとともに進学する生徒も増えています。競争が厳しくなっているので、早い時期に合格が取れないと進学先の確保が難しくなっています」(藤原さん)

 難関校も安定した人気。最難関の東海(名古屋市)は1050人から1071人へと志願者を増やした。海陽(蒲郡市)も722人から884人へ増加した。

「寮のある学校の人気が高まっており、首都圏からの志願者が増えています。首都圏でも入試会場を設けているので、その影響もあるのでは」(藤原さん)

 岐阜県は鶯谷(岐阜市)が425人から470人へ増加と健闘した。

「鶯谷も過去最高です。同校最寄り駅の岐阜は名古屋からも通学が可能です。名古屋に入試会場を設置して依頼、勢いを増しています」(藤原さん)

 三重県は海星(四日市市)の前記が113人から136人に増加。

「英語教育に力を入れており、地元からの期待値が高い。共学になってから3年連続で志願者が増えています」(藤原さん)

  愛知県では2025年に公立中高一貫校が4校開設される。私立への影響はあるのか。

「注目を浴びているので、公私併願する受験生はいると思います。ただ定員もそれほど多くないので、影響は限定的では。私立も、奮起してより教育を充実させ、アピールしていくので、中学入試はますます活況になるのではないでしょうか」(藤原さん)

(柿崎明子)

※文中の数値は「2023出願・入試状況(2023/3/1時点)」(日能研関西調べ)、「2023年度 私立中学入試結果一覧(2023/3/1時点)」(日能研東海調べ)を参照。