2021年の退任会見で笑顔をみせる工藤公康

 今オフは各球団の監督人事で、大きく揺れ動くかもしれない。

 監督交代の可能性が高い球団がソフトバンクだ。藤本博史監督は今季が2年契約の最終年だが、首位を快走するオリックスに10ゲーム以上の大差をつけられて3年連続V逸が濃厚に。7月下旬に54年ぶりの12連敗を喫したことが大きく響いた。4位・楽天も迫ってきているため、CS進出も危うい状況を迎えている。昨年はリーグ最終戦に敗れてオリックスに逆転優勝を許し、オフに大型補強を敢行しただけに、ファンの落胆は大きい。近藤健介、嶺井博希、ロベルト・オスナ、有原航平、ジョー・ガンケルら各球団の主力選手を獲得したが、戦いぶりを見るとチーム力が上がっているとは言えない。

「ソフトバンクは黄金時代の主力選手たちが年齢を重ね、若返りの時期を迎えている。V逸の責任が藤本監督だけにあるわけではありませんが、指揮官としての能力には疑問が残ります。育成能力が高いとは言えず、台頭している若手が少ない。常勝軍団の面影がなくなっている。CSに進出しても、今季限りで退任となるでしょう。後任の有力候補として小久保裕紀2軍監督、秋山幸二元監督が予想されていますが、工藤公康前監督が再登板の可能性もある。チームを頂点に導く手腕という観点から見れば、実績は申し分ないですから」(福岡のテレビ関係者)

 

巨人の原監督とメンバー表を交換するソフトバンク時代の工藤公康

 工藤氏は2015年にソフトバンクの監督に就任し、在任7年間でリーグ優勝に3度、日本一に5度導いている。攻守ともに他球団を圧倒する戦力を持っていたことから、「誰が監督でも勝てる」と揶揄する声もあったが決してそうではない。選手たちのコンディションに細心の注意を払い、他球団のデータを徹底的に分析。特に短期決戦の強さに定評があり、17年から4年連続日本一に輝いた。巨人と対戦した19、20年には日本シリーズで史上初となる2年連続4連勝。投打に隙のない戦いぶりで圧倒した。

 工藤氏の監督待望論がささやかれているのは、ソフトバンクだけではない。かつて、「球界の盟主」と形容された巨人も苦境を迎えている。今季は優勝争いに絡めず、4位に低迷。逆転でのCS進出を目指して戦っている。原辰徳監督は3年契約の2年目だが、勝率5割前後を行き来している現状に風当たりは強まっている。野手陣は秋広優人、浅野翔吾、門脇誠、投手陣は山崎伊織、大勢ら若手が台頭しているが、白星を積み重ねられない。原因は明らかだ。打撃陣はリーグトップの破壊力を擁するが、投手陣が不安定で競り合いに弱い。救援陣の立て直しは数年前からの課題だが解消できていない。

 スポーツ紙デスクはこう分析する。

「巨人は勝っている展開でも、劣勢でも登板する救援陣の顔ぶれが変わらない。役割分担があいまいなので、リリーバーたちに心身で負荷がかかってしまう。抑えの大勢が6月下旬に右上肢のコンディション不良で戦列を離れたのが大きな痛手ですが、他球団も湯浅京己(阪神)、栗林良吏(広島)、山崎康晃(DeNA)がケガや不調で守護神から外れるなか、救援陣を再整備している。松井裕樹(楽天)、巨人がトレードで放出した田口麗斗(ヤクルト)が今年FA権を取得しましたが、今オフに守護神の彼らを獲得できたとしても、今のベンチワークで救援陣が劇的に良くなるとは思えない。V奪回を狙うなら、投手陣を立て直すスペシャリストを次期監督に据えるべきです」

 その観点から見ると投手陣の力量を把握している桑田真澄ファーム総監督が有力候補になるが、「巨人の投手陣を立て直すうえで一番ふさわしい人材」と高く評価するのが工藤氏だ。

「工藤さんはソフトバンクの監督時代に千賀滉大(メッツ)、東浜巨、石川柊太を先発で一本立ちさせ、救援陣も嘉弥真新也、津森宥紀、板東湧梧、松本裕樹らを育てながら1軍に定着させて強力リリーバーを結成した。巨人も赤星優志、横川凱、井上温大、菊地大稀、田中千晴、直江大輔、堀田賢慎、松井颯と能力が高い投手たちがそろっている。もう一皮むければ覚醒する可能性を秘めているだけに楽しみです。個々の適性を踏まえて先発から救援への配置転換も考えられる。工藤さんが監督に就任すれば、投手王国の実現も可能だと思います」

 侍ジャパンでも、次期監督の有力候補として報じられている。今年3月のWBCで侍ジャパンが3大会ぶりの世界一に。メジャー組の大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)がチームの核となり、栗山英樹監督も手腕が高く評価されたが大会後に退任を発表した。次期監督は現在も決まっていない。

「世界一に輝いただけに、次の監督は大きな重圧とも戦わなければいけない。原監督が巨人の監督を務めながら、09年のWBCで侍ジャパンも連覇に導きましたが、NPBで指揮を執っている監督が兼務するのは現実的ではない。前ロッテ監督の井口資仁さん、前巨人監督の高橋由伸さんが候補に挙がりますが、指揮官としての能力は工藤さんが圧倒的に高い。短期決戦に強いのも大きなプラスアルファです。栗山さんが監督を務めたので大谷、ダルビッシュを侍ジャパンに招へいできたという報道がありましたが、工藤さんが次期監督でオファーを出せば、大谷、ダルビッシュらメジャー組は出場の意思を示すと思います。ソフトバンクの監督として日本ハム時代の大谷と対戦していますし、二刀流で最大限の能力を引き出すために、国際舞台でどう起用するのかも興味深い」(侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者)

 ソフトバンク、巨人、侍ジャパン……今オフは工藤氏に複数の球団から監督としてラブコールが殺到する可能性があるが、民放テレビ関係者は「21年オフにソフトバンクからの続投要請を辞退し、退任している。親しい関係者には『家族とゆっくり過ごしたい』と話しているそうです。監督を引き受けることはエネルギーを費やすし、覚悟が必要です。いろいろやりたいことも多いでしょうし、バックネット裏から野球を勉強したい気持ちが強いのではないでしょうか。勝負師としてもう一度グラウンドに復帰してほしい思いはありますけどね」と語る。

 シーズン終盤となり、優勝争いから脱落した球団は「ストーブリーグ」を迎える。工藤氏の周辺が騒がしくなりそうだ。

(今川秀悟)