戦前から今日まで多くの宝塚歌劇団員を送り出してきた梅花高等学校

 時代を超えて絶大な人気を誇っている宝塚歌劇団。華やかな舞台に魅了されて、タカラジェンヌになりたいとあこがれる人はたくさんいる。宝塚歌劇団員にはどのような学校の出身者がいるだろうか。

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 雑誌「宝塚おとめ」最新版(宝塚クリエイティブアーツ)には、宝塚歌劇団の専科、花組、月組、雪組、星組、宙組、研究科1年生のタカラジェンヌに関する出身地、出身校などのプロフィルが掲載されている。同書から、宝塚歌劇団員の出身高校を集計し、ランキングを作ってみた。

宝塚歌劇団員の出身高校ランキング(『宝塚おとめ 2023年版』(宝塚クリエイティブアーツ 2023年)から集計)
  • 1位 日本女子大学附属(神奈川)、梅花(大阪)14人
  • 3位 帝塚山学院(大阪)7人
  • 4位 東洋英和女学院(東京)6人
  • 5位 雙葉、八雲学園(以上、東京)、松蔭、宝塚北、武庫川女子大学附属、百合学院(以上、兵庫)、福岡女学院(福岡)4人

 梅花高等学校、日本女子大学附属高等学校、東洋英和女学院高等部をたずねた。

■戦前から多くのタカラジェンヌが輩出した梅花中学・高校

 宝塚歌劇団に入るためには宝塚音楽学校を卒業しなければならない。

 梅花中学・高校は、2023年度宝塚音楽学校の合格実績をこう伝えている。

「2023年度宝塚音楽学校 合格速報 梅花生が10年連続合格/3月29日(水)2023年度宝塚音楽学校入学試験の合格発表があり、高等学校 舞台芸術専攻の生徒が見事合格しました。今年度は40名の定員に対して、612名が受験し、倍率15.3倍の難関を突破しての合格です。梅花中学校・高等学校からの合格は10年連続となり、日本最多の123名を更新しました」(同校ウェブサイト2023年3月29日)

 梅花は戦前から今日まで多くの宝塚歌劇団員を送り出してきた。

 最近では、宝塚音楽学校に2014年から23年まで10年連続で合計20人が受かっている。それ以前は2002、03、04、06、07、10年に合格者を出した。この間、3人受かった年が3回ある。

 歴史をさかのぼれば、1年に8人を送り出したこともあった。宝塚歌劇の代表作「ベルサイユのばら」のオスカル役を務めた元トップスターの安奈淳さんも同校出身である。

宝塚歌劇団員の出身高校ランキング(『宝塚おとめ 2023年版』(宝塚クリエイティブアーツ 2023年)から集計)

 

 学校法人梅花学園常務理事、企画部長の藤原美紀さんに、梅花中学・高校から宝塚音楽学校への入学者が多いことについて解説してもらった。

「学校の最寄り駅の阪急宝塚線豊中駅は宝塚大劇場からとても近いところにあります。それゆえ、多くの生徒が宝塚歌劇を身近に感じ、あこがれて育ってきたことが大きい。また、生徒たちの多くが小さいころからダンス、バレエなどを習うなど情操教育に積極的な家庭環境にあることも関係するでしょう」

 2013年、高校に舞台芸術専攻が誕生した。「舞台特講」ではバレエやダンスに必要なテクニックを学び、動きの基礎となる体幹や柔軟性の向上をはかり、創作能力、リズム感を養う。講師には宝塚歌劇団、劇団四季の出身者がいる。

「舞台芸術専攻ができたことによって、より明確に舞台芸術を学びたい、将来はこの分野で活躍したいという生徒が多く集まりました。宝塚音楽学校への入学者を増やした理由としてこれは大きかったですね」

 どんな生徒が宝塚音楽学校に進んでいるのだろうか。

「素直に何でも吸収する生徒が多い、という印象を受けます。でも、華やかで魅力ある生徒はたくさんいます。宝塚音楽学校の合否によって、華やかさがあるかどうかは一概には言えないですね。めぐりあわせもあるでしょう。受からなくても魅力的な生徒はたくさんいます。私たち教職員一同は目標をもってがんばっている生徒みんなを応援しています」

  2023年7月、学校法人梅花学園理事長に小川友次氏が就任した。小川氏は阪急電鉄常務取締役、宝塚歌劇団理事長をつとめていた。なるほど、梅花と宝塚は縁が深い。

■梅花と同率一位は日本女子大学附属

 日本女子大学附属からも多くのタカラジェンヌが生まれている。花總まりさん(宙組、雪組トップ娘役)、愛原実花さん(雪組トップ娘役)が有名だ。

 同校の関係者は次のように話してくれた。

「宝塚にあこがれて、その舞台に立ってみたいという生徒がたまたまいたということだと思います。附属校なので大学進学が基本となっており、学校がすすめるようなことはないですね。どうして多いのかなと不思議です」

 

宝塚歌劇団員の出身高校ランキング(『宝塚おとめ 2023年版』(宝塚クリエイティブアーツ 2023年)から集計)

 同校出身者によれば、クラブ活動「レビュークラブ」の存在が大きいようだ。宝塚歌劇をよく研究し、クラブ員たちが実践(=上演)している。

 学校は「レビュークラブ」の活動内容をこう紹介している。

「宝塚歌劇団などのレビュー作品を鑑賞・研究し、それをもとに舞台構成や演出を考え、衣装制作やダンスの練習をしています。夏季休暇中には合同合宿に参加し、舞台技術の更なる向上を目指します。(各行事には研究グループ「OH*TAKARAZUKA」として参加し、行事の直前には必要に応じて定例以外の活動も追加しています。)」(同校ウェブサイト)。

 前出の学校関係者はこう話す。

「それがみんな宝塚につながっていくというわけではないようです。高校時代のクラブ活動として力を入れますが、文化祭でまっとうしたからすっきりした、という生徒は少なくありません。その後、クラブ活動と勉強を両立させてがんばる生徒がほとんどです。ただ、なかには舞台に立つことが楽しく、大学の推薦を受けず、高校を卒業して宝塚音楽学校に進んだ生徒もいます」

 日本女子大学附属は生徒の自治、主体性を大切にしており、自主、自立を育む教育を行っている。そのなかから宝塚の世界に進みたいという生徒も出てくる。宝塚に限らず、卒業生がどのような道に進んでも、学校は応援しているという。

■“自己表現が大好き”という気風が受け継がれている東洋英和女学院

 東洋英和女学院も戦前から多くの宝塚スターが輩出してきたことでも知られる。

 今から約90年前の1932年、櫻町公子さんは東洋英和女学校を中退して宝塚音楽歌劇学校に入学した(名称はいずれも当時)。櫻町さんが東洋英和初のタカラジェンヌとなる。

トップスターには、1976年に宝塚音楽学校に入学した日向薫さん(星組)がいた。

 現在、東洋英和女学院出身者のタカラジェンヌはわかっているだけでも26人、現役は芸名が付いていない者も含めて9人いる。

 東洋英和女学院高等部部長の楠山眞里子さんに話をうかがった。

「ご家族の方が宝塚のファンで、自分もよく見るようになって好きになり、宝塚を目指す生徒が多いですね。宝塚に直接関連する部活動はありませんが、音楽部やダンス部、英語劇部の生徒が宝塚音楽学校、劇団四季に挑戦するケースも見られます。OGで『花子とアン』の村岡花子の時代から、シェークスピアを演じるような、自己表現が大好きという気風が脈々と受け継がれており、そのなかから宝塚スターが生まれたのでしょう」

 東洋英和女学院は進学校として知られており、中学受験で人気が高い女子校の一つだ。

「進路指導では生徒がなにをやりたいか、から始まります。教師は『あなたはどうしたいの?』と聞き、一緒に進路を探していきます。その中で生徒は将来を考えて自分で進学先を決める。クラスのなかには東大や早慶の難関校志望者もいれば、宝塚を夢見る者もいる。どちらも特別な存在ではありません。あくまでも進路の一つなのです」

 2023年の主な進学実績は東京大1人、東京藝術大2人、東京工業大1人、京都大1人、早稲田大14人、慶應義塾大20人、上智大7人となっている。

 高校1年、2年で宝塚音楽学校を受ける生徒もいる。また、大学と宝塚の両方が受かって、宝塚を選ぶ生徒もいる。

「『宝塚を受けます』と生徒が報告に来ます。受かったら宝塚でがんばってほしい。たとえうまくいかなくても、そのまま東洋英和で学校生活を送ることができます。学校はそれぞれが目指していることを全力で応援します。もっとも、宝塚に行きたいから東洋英和に入ったという生徒はいないですね」

 東洋英和女学院の生徒気質については、学校の教育方針、校風からこう話している。

「毎朝、礼拝を行って生徒の心を落ち着かせています。これを中高6年間続けることは、生徒にとって貴重な時となって、自分の大切さを学び、自己肯定感が高い生徒が生まれます」

 このような学校の教えにも、多くのタカラジェンヌが生まれる要因があるようだ。

■多くのタカラジェンヌを生み出してきた予備校も

 宝塚音楽学校へ入るための受験予備校がいくつかある。そのうちの一つ、KIEミュージカルスクール(東京と兵庫の2校)は宝塚ファンのあいだで知られており、2023年には、14人の合格者を出している。

 同校代表の小嶋希恵さんは1979年に宝塚音楽学校に入学し、宝塚歌劇団雪組で活躍した。88年に宝塚音楽学校、劇団四季の受験予備校を設立し、多くの舞台女優を育ててきた。指導歴は35年になる。

 小嶋さんは宝塚音楽学校の受験生について、これまでの指導経験から次のように話す。

「梅花高校には宝塚へ行きたいから入ったという生徒がたくさんいます。みんなで楽しく受験しましょう、という雰囲気があります。日本女子大学附属高校の生徒はとても主体的で発想が自由で、強さを感じます。与えられたものを演じるというより、自分たちで作り上げていく、という感じです」

 小嶋さんによれば、団員の出身上位校は20年前、30年前とそれほど変わらない、という。

「出身校ランキング上位にはミッション系女子校が並んでいますが、その多くはお母さんが宝塚のファンというケースです。また、音楽、演劇などの課外活動が盛んな学校には宝塚を夢見る生徒が多いです」

 宝塚から人気スターが現れたとき、その出身校から後輩が受験する傾向も見られるようだ。

「星組娘役で人気があった、はいだしょうこさんは国立音楽大附属高校出身です。ここからの受験生が増えたことがありました」

■高校を退学してタカラジェンヌを目指す場合も

 昨今、公立高校出身者も多く見られるようになった。音楽、演劇など芸術に特化したコースで学んだ生徒だという。兵庫県立宝塚北高校演劇科、大阪府立夕陽丘高校音楽科、東京都立総合芸術高校舞台表現科(演劇専攻、舞踊専攻、クラシックバレエコース、コンテンポラリーダンスコース)、愛知県立明和高校音楽科などだ。

 宝塚音楽学校への応募資格は「2004年4月2日 〜 2008年4月1日までに生まれ、受験時に中学卒業あるいは高等学校卒業又は高等学校在学中の方。(通信制高等学校在学中で年間所定単位修得見込者は含みます。但し専修学校、各種学校は含みません。)」とある(2023年度受験)。

 中学を卒業するときと、高校時代の3回、最大で4回、受験の機会がある。

 高校在学中の受験にあたっては、在籍する学校で生徒への対応に差があるようだ。小嶋さんが説明する。

「寛容、厳格に分かれます。前もって受験するといって合格し、退学する生徒をあたたかく送り出す学校があります。ウェルカムな感じです。一方で、合格して退学を申し出て謝りにいってもひどく怒られ、生徒が泣いてしまう学校もあります。これは古くからの伝統校で校則が厳しい学校に見られます」

 合格して学校を退学することについて、「ひどく怒られ」てしまうのはどのような理由からか。最近、宝塚音楽学校に合格者を出した学校の関係者がこう話してくれた。

「退学は、学校にすれば良くないイメージを抱かれてしまう。宝塚の予備校のように受け止められるのは学校として本意ではありません。また、高校1、2年の終わりに学校をやめられてしまうと、新年度のクラス編成が決まった段階なので、もう一度、クラスを作り直さなければならない。いい迷惑です。学校が怒るのも無理ないでしょう」

 タカラジェンヌを夢見る人は、怒られたところでへこたれはしない。

 宝塚音楽学校の応募資格にこんな一文がある。

「容姿端麗で、卒業後宝塚歌劇団生徒として舞台人に適する方」

 多様性の尊重が求められる今日にあって、人材の募集で「容姿端麗」を掲げるところは宝塚以外ではあまり聞かない。時代に合わない表現であることは重々承知だろうが、それは宝塚が長年培った誇りの一つなのか。そんな誇り高き世界に、自分に自信がある、自己評価が高い、創造性に富んでいる、素直で何でも吸収できる――などを兼ね備えたタカラジェンヌ予備軍が集まってくる。こうした人材を多く育てる学校が、宝塚に近いと言えるかもしれない。

(教育ジャーナリスト・小林哲夫)