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 例年なら11〜12月ごろから感染が広がるインフルエンザ。しかし、今年はまだ残暑の厳しい9月から、学校を中心に感染者が急激に増えている。しかも、小中学生よりも免疫が高いと見られる高校生の間でも流行。愛知県では高校の休校が相次ぎ、それは文化祭や体育祭の直後に起きていた。専門家によると、コロナ禍の間にインフルの流行がなかったことで、免疫が低下していることが原因と見られるという。

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 愛知県のとある県立高校で異変が起きたのは、9月14日朝だった。発熱などの体調不良による生徒の欠席の連絡が、次々と入ってきたのだ。

「こんなに大勢の生徒から欠席連絡が入ることはありませんでした」と校長は振り返る。最終的に、941人の生徒のうち301人がインフルに感染していたという。

 この高校では9月11日から2日間、文化祭が開催され、13日からは体育祭が行われていた。多くの生徒が欠席したため、高校は県教委などとも相談して、休校の措置を取った。その日に行う予定だった体育祭も、中止になった。

 新型コロナの感染予防のため、昨年の文化祭では生徒全員にマスクを着用させたが、今年はコロナが5類に移行したことにより、そこまでの対策はとられなかった。文化祭の前も、学級閉鎖など集団感染の「兆候」はなかったという。

「子どもたちはダンスをしたり歌ったりして、文化祭を楽しみました。それと、応援や声援ですね。そのなかにたぶん、インフルに感染した生徒がいたのだと思います。文化祭、体育祭を行うなかで感染が一気に広まった」

 さらに校長は続けた。

「このような学校行事を行う際、当日の朝に健康観察を自宅でやっていただいて、体調が悪い場合は無理をして登校しないように生徒や保護者にお願いしていました。ただ、生徒は学園祭を楽しみにしていますから、多少の無理をしてでも学校に行きたいという気持ちがあったと考えられます」
 

■大した病気ではない?

「それは学校でインフルの集団感染が発生した際に、いつも聞く話です」

 世界保健機関(WHO)重症インフルエンザ治療ガイドライン委員を務めた慶應義塾大学医学部の菅谷憲夫(のりお)教授は言う。

「校長先生や教員は『こんなに感染者が増えるとは全く信じられない』と言う。ところが実際は、あっという間に感染が広まって、休校までいってしまう。特に今のようにみんなの免疫が落ちているときにインフルのウイルスが入ってくると、驚くほどの感染力を持ちます」

 通常ならインフルは毎年流行し、ウイルスと接することで人間は免疫を保つ。ところが、日本では2021年と22年にインフルの流行がなく、国民全体で集団免疫が低下したと考えられるという。

 さらに現在、流行しているのは主にA香港型のインフルだが、前回、日本でこの型のインフルが流行したのは19年4〜5月が最後だ。

「日本国民の多くは3年以上、A香港型インフルの流行に接していません。特に19年春以降に生まれたほとんどの乳幼児は、A香港型の抗体を持っていないことになります」
 

 ところが、政府や国民に危機感はあまり感じられないと、菅谷さんは指摘する。

「インフルに対する油断が広まっているようで、心配しています。新型コロナは大変な病気だっただけに、インフルはかぜと同じで、解熱剤を飲んで寝ていれば治る、大した病気じゃないよという意識を持つ人が増えているのではないでしょうか。高齢者や妊婦、幼児、心臓や呼吸器系の持病を持つ人は、必ずインフルのワクチンを打つべきです。それもできるだけ早く」
 

■このままなら大流行

 厚生労働省もインフルのワクチンの供給を急いでおり、9月末の時点で、年度内の供給量の半数を上回る約1660万本が出荷される予定だ。抗インフル薬についても「供給不安が生じる恐れはない」と、厚労省の担当者は言う。

 しかし、本格的にインフルワクチンの接種が始まるまでには、もうしばらくかかる。菅谷さんはマスクや手指消毒など、個人でできる対策をとってほしいと訴える。

「インフル予防の対策は新型コロナと同じです。手指消毒を徹底して、マスクをする。屋外ではともかく、屋内では絶対にマスクをすべきです。ところが、電車内でマスクをしていない高齢者を普通に見かける。重症化すれば死亡リスクの高い感染症だということを認識してほしい」

 今シーズンはインフルと新型コロナが同時流行すると、菅谷さんは予測する。

「そうすると医療現場はひっ迫します。解熱剤や咳止めが不足するかもしれません。すでにインフルと新型コロナが同時に検査できるキットについては不足気味で、出荷制限のかかっているメーカーが多いです」

 欧米が「コロナ明け」した昨年末、インフルが各国で大流行した。米国では約3万人が亡くなった。

 東京都は9月21日、インフルの感染者が急速に増加しているとして、「流行注意報」を発表した。9月に注意報が出るのは異例だという。

「インフルの流行が首都圏で本格的に始まり、これから全国に広まっていくでしょう。問題は、インフルに対する国民や政府、マスコミの関心が低いことです。このまま大流行になれば混乱は必至です」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)