「環軸椎亜脱臼(かんじくつい・あだっきゅう)に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」であるということがわかり、長らく入院生活を送っていた天龍さん。6月22日に退院し、すぐにイベント出演など、精力的に活動を再開した天龍さん。今回は“巨漢と小兵”にまつわる思い出を語ってもらいました。
* * *
巨漢力士で思い浮かぶのは、立浪部屋にいた若見山関。身長こそ177センチとそんなに大きくないが、体重が176キロもあるという巨漢で、俺が相撲の世界に入ってすぐくらいに初めて見たもんだから、余計に大きく感じたんだと思う。
とにかく大きいという印象で、相撲自体は大味というか、脇が甘くて自分のからだの大きさだけで押したり、しのいだりしていたという印象だ。今は大きくても技術のある力士は多いが、あの頃はからだが大きい力士で器用な人はいなかったからね。当時は幕内で120〜130キロくらいが普通だったから、若見山関は図抜けて大きかったよ。
もう一人の巨漢力士は、大関までいった大内山関。身長が2メートルもあって、周りの力士が170〜180センチ前後の時代だから群を抜いていたね。俺が相撲の世界に入ったころはもう現役を退いていて、時津風部屋で親方をしていたんだけど、それでもデカいね。初めてみたときも「これが大内山か!」と強烈な印象があった。

デカい力士と対戦するのは「やりづらい」のひとことだ。自分から攻めていって、どこで突破口ができるか、かすかな望みを抱いてぶつかるという戦い方だったね。俺のときは高見山関をはじめ、大型力士が増え始めた時期。俺も189センチと身長は高かったけど、体重が110キロくらいだったから、やっぱり体重がないと厳しいものがあった。
■何度も転がされた小兵は?
そんなからだの大きさがものをいう世界にあって、小兵ながら俺をはじめ、多くの力士を苦しめたのが出羽ノ海部屋の吉の谷と鷲羽山で、二人とも同年代で何度も対戦した。吉の谷は足取りが上手くて苦手な相手だった。立ち合いのときにバッと足を取られてそのままひっくり返されてやられるんだ。そのタイミングが絶妙だったね。何度転がされたことか。
鷲羽山は関脇までいった力士で、すばしっこい業師という印象。まあ、対戦成績だけでいえば、俺が突っ張って突き出して何度も勝っているが(笑)。それから、立浪部屋の若浪関も印象深い小兵力士だ。この人は幕内最高優もしていて、立ち上がったところで懐に潜り込むのが上手い力士だった。そもそも、小さい力士と対戦するとき、俺は突き勝てばいいだけだから、そんなに気にならなかったんだ。それでも、今でも印象に残っているということは、吉の谷も鷲羽山も上手い力士だったということだね。
プロレスには巨漢レスラーは多くいるが、特にジャイアント馬場さんとジャンボ鶴田は、運動神経が抜群で、対戦するのもそんなに嫌な相手ではなかった。2人はなんでも器用にこなしてくれたから、俺も好き勝手やれる面もあったからね。こちらの攻撃をすべて受け止めてくれる大きな人という感じで、やりやすかったんだ。
俺も小さい方じゃないから、自分より小さい相手と戦うのは気持ちの面でも「こんなのに負けるわけないだろう」って優位に立てるもんだ。馬場さんもジャンボも、俺をはじめ、自分より小さい選手と戦うのは楽だったろうなって思うよ。
デカい選手相手に技をかけようとしても、自分のタイミングだけじゃあダメで、場数を踏んで、何度も対戦しないと技はかからない。やっぱり“間”というものがあるんだ。逆に、デカいやつはどうしうたって、持ち上げられると高さがある分、ボディスラムなんかの投げ技も受けるとダメージもデカいんだ。
■それなりの経験と覚悟が必要
だから、技をかけるのも受けるのも、デカいレスラー相手には、それなりの経験と覚悟が必要になる。また、からだこそそんなに大きくなかったが、俺の中ではビル・ロビンソンやザ・デストロイヤーも戦うと、実際よりも大きく感じた選手だ。おそらく、ロビンソンの強烈なバックブリーカーや、デストロイヤーの太い足で決まったら抜けようがない足4の字固めをやられたときの印象が強かったんだろうね。
一方で、小兵レスラーといえば、なんといってもグラン浜田だ。167センチの小さなからだでメキシコにわたって、トップに上り詰めたことを尊敬している。彼が修行していた当時のメキシコはリングがほとんど板みたいな硬さだし、マットの下はむき出しのコンクリだし、大変な環境だったはずだ。だからこそ、受け身も逃げ方も上手くなったんだろう。
日本にルチャリブレを持ってきたパイオニアで、帰国した当時はメキシカンスタイルのレスリングがなかったこともあって、小柄でもリングの上での存在感は図抜けていたよ。俺が小兵選手と言われて思い浮かぶのは、後にも先にもグラン浜田選手しかいない!
もし、俺が小柄だったら……。それこそプロレスもやっていなかっただろうし、相撲の世界にも入っていなかったんじゃないか。からだが大きくなったから、あれをやってみようこれをやってみようと思うようになれるんだ。
だから今、小柄でも相撲やプロレスに志願して入ってくるあんちゃんたちを見ると、つくづく根性があるなと思うよ。ただ、からだの大きい人はほかのスポーツに行ってしまうから、相撲もプロレスも人材不足だ。だからこそ、相撲やプロレスが好きで、その世界に飛び込んでくる若者がいると嬉しいし、頼りになるね。
(構成・高橋ダイスケ)