醤油の発祥地として知られる和歌山県湯浅町にやってきたザ・ビートルズの伝説のピアノで大騒動が起こっている。



 JR湯浅駅に隣接する「えき蔵」に展示されていたのは、ポール・マッカートニーやジョン・レノンが、ビートルズ時代にアビー・ロード・スタジオ、アップルスタジオなどで使用したという貴重なピアノだ。

 世界三大ピアノメーカー「ベヒシュタイン」製の6本脚グランドピアノで、ビートルズのメンバー専用器として作曲の練り直しや全盛期の楽曲のレコーディングにも使用された唯一無二のものだ。

 所有者である兵庫県の実業家コレクターから湯浅町が借り受け、昨年12月7日〜3月末まで展示していた。

 ところが、「ピアノが宙に浮いてしまって困っている」と訴えるのは同町の松本典久町議会議長だ。

 展示中の3月初旬、ピアノを購入したいという話が松本議長の知人を通してもたらされた。所有者のコレクターは経営する会社の状況が芳しくないこともあって、3月11日付で8億円での売却に同意。長崎県のNPO法人の仲介で、大手通信販売会社が引き取る手筈になっていたという。

 鑑定書などの資料によると、1900年初頭に製造されたベヒシュタイン製(製造番号79548)で、ポール・マッカートニーが1967年頃に購入。ビートルズの数々の名曲が生み出され、『レット・イット・ビー』『ゲッドバック』などのレコーディングでも使用されたという。

 なぜ、このような貴重なピアノが日本にあるのか?

 1980年代、イギリスの皇室御用達のピアノメーカーがポールと交渉して譲り受けたが、1989年に日本の専門学校の理事長が買い付けに成功し、日本に持ち帰った。

 その後、日本で何度か譲渡が繰り返されて、FM東京主催のライブなどで使用された後、2015年に現在のコレクターの手に渡ったという。

 松本議長は長崎のNPO代表と話し、3月13日付で売買契約や決済代金の支払いなどの手順についての書面を交わしたという。

 しかし、3月24日に突然、長崎のNPO法人から「ピアノの購入はなかったことにしてほしい」と電話があり、契約はご破算になったという。

 AERAdot.編集部が長崎のNPO法人の理事長に経緯を取材すると、次のような説明があった。

「湯浅町のピアノの話を聞き、大手通信販売会社の社長に話を持っていこうとしたが、最終的に商談は成立しなかった。弁護士が作成した書面をみてほしい」

 すっかり振り回されてしまった湯浅町。展示会の終了後も、貴重なピアノなので素人では動かせず、湯浅駅の「えき蔵」に布をかけて今も置いてある。松本議長はこう頭を抱える。

「もともと所有者とは展示物として契約をしたが、湯浅町が一時的に保管するという契約条項に変えました。ピアノを弾きたいという申し込みは今、お断りをしています。所有者も一旦は売却を決断し、会社の資金繰りにあてると考えていた。それがダメになってしまって…。貴重なピアノですからすぐに移動させても保管する場所がありません。小さい町で本当にえらいことですわ」

 ザ・ビートルズの「伝説のピアノ」はどこへ行くのか。(今西憲之)