落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「ゴルフ」。



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 松山英樹選手、マスターズ優勝おめでとうございます。『青空球児・好児に新メンバー加入!』のニュースかと勘違いしてしまうほどの鮮やかなグリーンジャケットでしたね。ゲロゲーロ。

 ゴルフは過去一度だけやったことがあります。しかも海外。タイですよ、タイ。9年前にタイで仕事。主催者に「タイに行ったらゴルフしましょう」と誘われ、念のため日本で打ちっぱなしで一回だけレッスンを受け、その3日後に初めてコースに出ました。暑かったなぁ。4月のタイは40度超え。でも風が吹き抜けてメチャメチャ気持ちいい。『コブラに注意!』という看板もイカしてます! タイでゴルフ、最高!

 人生初ゴルフの記念すべき、第1打。前方左手に大きな岩がありました。ドライバーを振り下ろすとボールが岩にぶつかって跳ね返り、スタート地点よりはるか後ろに飛んでいきました。ゴルフってそんなことよくあるんですかね? 現地のキャディーさんが手を叩いて笑ってました。忘れもしない、寺島しのぶさんそっくりなキャディー。

 とにかく真っ直ぐ飛ばんのです。右へ左へ。その都度しのぶが走っていって、ボールをフェアウェーに「テーイっ!」と投げ入れてくれます。親切ですね、しのぶ。「イーノ、イーノっ! ダイジョーブヨーっ!」としのぶ。「チップあげなきゃダメですよ」と同行者に促されるまま、私のバーツがしのぶに吸い上げられていきました。

 ボールを捜してると、足元にワニが!! 「ギャー、ワニっ!!」と叫ぶと「ワニジャナイヨ。オオキイトカゲネ」としのぶ。1メートルくらいあるミズトカゲだそうです。よくいるんだってさ。しのぶが追っ払うと池のほうへ駆け出して、悠々と泳いでいきました。ワイルドライフ!

 よく見ると池の真ん中に人間の生首が浮いています。「……しのぶ、あれは何!?」と聞けば「コドモノアタマ!」。マジか……。あ、消えた。あ、また出た。消えた。あ、違うところから現れた。また引っ込んだ。「キンジョノコドモ、イケノナカノボールヒロッテ、ウッテルノ!」……なるほど。おー、見ると子供が数人フェンスを乗り越えて走り去っていきます。逞しいやね。

「スコア、今いくつ?」「フフ、ナイショ」とニヤニヤしのぶ。どうやっても真っ直ぐ飛ばない私に、業を煮やしたしのぶが「キンタマーニ、チカライレテ、ウッテミ!」と叫びました。「金玉に力を入れて打て」。自分は力入れたこともないくせに勝手なことを……。なんとなく下腹部から尻の穴あたりに力を入れるような心持ちでクラブを振ると……スコーン! 真っ直ぐ飛んだ!……スゴイな、しのぶ。「フフフ、ナンデモ、キンタマ、ダイジヨ」「ホントだね! キンタマだね!」。青空の下、「金玉金玉」と笑い合うヘタクソとしのぶ。

 結局スコアは「230クライ」でした。しのぶいわく「ダイブオマケシタ(笑)」。スコアはともかくタイの日差しの下で飲むシンハービールは美味かった。あれからゴルフは一度もやってないけど、大切な時は「キンタマニチカラ」を入れるようにしています。

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中

※週刊朝日  2021年5月21日号