東京五輪で来日した海外関係者がルールを無視し、指定場所以外で飲食しているという情報が、ネットなどに出ている。たしかに、そうした外国人もいるようだが、街に出て見かけた彼・彼女らに話を聞くと、多くはルールを守り、なんともわびしい食生活を送っているようだ。



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 開幕を数日後に控えた平日のランチタイム。銀座にもほど近い、地下鉄日比谷線の築地駅近くのホテル前に、「イギリスオリンピック委員会御一行様」の表示がある大型バスを見つけた。

 周辺を歩くとすぐに別の大型バスを発見。「Kホテル⇔オリンピックセンター」の表示がある。Kホテル前で出待ちしていると、そのバスが玄関前に横付けされ、ホテルから出てきた関係者が次々とバスに乗り込んでいく。そのうちの一人がホテル脇で一服し始めた。

「アメリカのプレスだよ。日本に来て1週間になるけど、ここ(ホテル)とメインプレスセンター(MPC)しか行ってない。食事? デリバリーやランチボックスばかりだね。ホテルの部屋が禁煙なのが一番つらい(笑)」

 ほかにもコンビニから戻り、ホテルに入っていく外国人の姿など、この周辺のホテルに、関係者の多くが泊まっていることが確認できた。

 報道では、MPCがある東京ビッグサイト(東京都江東区)周辺のハンバーガー店やコンビニでも多数の関係者が目撃されているほか、ビッグサイト周辺で外飲みしていたという。「選手村近くで花火をしていた」「豊洲やお台場は外国人がウロウロしてる」などというSNSの投稿もあった。どれも行動ルール(プレーブック)では禁じられている行為だ。

 さっそくMPCに向かうと、手作りの聖火トーチを持った香港メディアがいた。聞くと、この日初めて入ったという。

「日本に来て4日目。それまではホテルから出られなかったからね。この周辺ならいいというので記念写真を撮りに出てきただけだよ」

 ビッグサイト付近のハンバーガーショップは日本人ばかり。ネットでは外国人だらけと書かれていた豊洲周辺でも、たまに見かける外国人は、周辺の会社に勤務する人ばかり。ネットの情報どおりでもない。

 日も暮れて、築地に戻った。昼にチェックしていたホテル前に行くと、非常階段下に座り、首から身分証を下げた男性2人が、身を寄せるように小さくなってたばこを吸っている。近づくと警戒心いっぱいの視線を向けてくる。身分を明かして話しかけるとホッとした表情で、オーストリアとドイツのメディア関係者だと明かしてくれた。

「迷惑をかけずに外に出られるのはここくらい。ホテルの部屋は狭くて、天井も低い。小さく縮こまらないと風呂にも入れない」と笑うのは2メートルはあろうかというドイツ人。

 これまで何度も来日し日本食も大好きだというが、今回は連日コンビニ弁当とデリバリー。オーストリアの男性は、ホテルの狭さ以上に悲しいことがあると言う。

「ルールが厳しいのは仕方ないよ、コロナだしね。14日間は外出せずに我慢するのは当然。ただ、悲しいのは、街の人たちが僕らのことをネガティブな目で見ていることだね。僕らは毎日PCR検査もするし、感染対策も万全なのに、まるで危ない人のように思われているんだ」

 別のホテルの前には、スマホを見ながら夕食のデリバリーを待つ、ノルウェーのメディア関係者の女性がいた。

「ここにはいろんな国のメディア関係者が泊まっているけど、みんなバスでホテルと取材場所を往復するだけよ。コロナ禍でノルウェーでも同じような生活だから慣れちゃったわ。行動制限が厳しいとは思わない。食事もデリバリーやテイクアウトばかりだけど十分おいしいわよ。今日はギョーザを頼んだの」

 ルール違反外国人を探しているはずなのに、ルールを厳守するマジメ外国人にしか出会えない。しかもその境遇を聞くほどに、ちょっとかわいそうな気持ちにさえなってしまう。

 特に話題になっている、MPC内での食事。提供場所の一つであるフードコートでは、最も安いカレーでも千円(税込み、以下同じ)。記者も食べてみたが、具はほとんどなくてレトルトカレーのような味だ。ネギトロ鉄火丼は1600円で、丼に盛られたマグロの刺し身は3切れ。そこに釜揚げしらすと少しのネギトロが添えられている。

 別のフロアのレストランでは、特製ピザが1900円、東京バーガー1600円、金メダルバーガー1600円などと書かれている。ハンバーガーはパンが冷たく、肉も味があまりしない。フランスの記者はツイッターに「ゴム肉、冷たいパン、汚いプレゼンテーション。すべて1600円」などと投稿したほどだ。

 いずれもドリンク代は別で、コーラが280円、水が180円と外の価格の1.7倍。これには外国メディアの記者も「高いよ!」と驚いていた。

 2000年のシドニー大会から五輪取材をしている日本の記者は、「北京大会では北京ダックが数百円だったし、他の大会でもスポンサーになっている飲料メーカーの商品は取り放題でした。コロナという事情があったにせよ、これでは『おもてなし』どころか料理のレベルは過去最悪かもしれない」と話した。

 選手村に入ったロシアチームの部屋には、テレビも冷蔵庫もなかったという報道もあった。

 一方、大会組織委員会は、外国のメディア関係者らが都内の観光地を訪れている姿が報じられたことなどを受け、行動制限を強化する方針を打ち出した。開幕前日の22日には、ルール違反した数人について、IOCが発行する資格認定証の効力を1日停止したことを明らかにした。

 築地周辺で酒を出しているという店を見つけて聞くと「先ほどまで五輪関係の外国人の方が食事をしていましたよ」と言う。ルール違反をしている外国人関係者がいることもたしかなようだ。

 お台場にも多くのメディア関係者が宿泊していると聞いて行ってみた。商業施設のフードコートでハンバーガーを頬張っている外国人を見つけた。

「ブラジルから来たテレビの技術者だよ。ホテルは、電車で数十分のところにある」と言う。禁止されている外食と公共交通機関への乗車。ルール違反者かと思いきや、「僕はもう1カ月以上前に来日しているから移動できるんだ。もちろん最初の14日間はコンビニ弁当やウーバーイーツの毎日だったけどね」。

 この日はMPCの帰りに、ブラジルで待つ身重の妻へのお土産に、ぬいぐるみを買いに来た。そのついでに食事をしていたところだという。

「本当は焼きそばが食べたかったんだけど、英語メニューがなくてわからないから、仕方なくハンバーガーさ」

 やっぱりわびしい。(本誌・鈴木裕也、大谷百合絵、西岡千史)

※週刊朝日  2021年8月6日号