東京都で28日、新型コロナウイルスの新規感染者数が3177人となり、2日連続で過去最多を更新した。メダルラッシュに国民が沸く中で、東京五輪は続けられるのか。27日に五輪中止の選択肢について記者から問われた菅義偉首相は「人流は減少しているので、そうした心配はない」と言い切った。本当に大丈夫なのか、感染者数はこれからどう推移するのか、専門家の意見は――。



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「あのメッセージは良くなかった」

 こう指摘するのは、厚生労働省の専門家助言組織「アドバイザリーボード」のメンバーで、国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)だ。「あのメッセージ」とは、菅首相の冒頭の発言だ。いったい何にもとづいてこの発言がされたのか。

 東京都医学総合研究所が出している「都内主要繁華街における滞留人口モニタリング」の分析によると、緊急事態宣言後の直近2週間では、宣言前の1週間と比較して、夜間滞留人口は18・9%減、昼間滞留人口は13・7%減。前回の宣言よりも減少は半分以下にとどまっているという。和田教授はこう見る。

「人流は確かに減っているが、減りが甘い。この減り方で感染者数が下がるかまではわからない。いま私たちは感染力が強いデルタ株と対峙しており、これまでのやり方だけで感染者数が減るのかまだわからない状況です。首相の発言は楽観的過ぎます。感染者が思ったよりも減らないこと十分にも考えられ、より厳しい対応を取る可能性があることも言っておくべきでしたね」

 菅首相は27日、「(五輪を続けることについて)車の制限であるとか、テレワーク、そして正に、皆さんのおかげさまによりまして、人流は減少していますので、そうした心配はない」と強調。東京五輪を中止する可能性を否定していた。

 しかし、感染者が3177人となった28日、菅首相は西村康稔経済再生担当相、田村憲久厚生労働相ら関係閣僚と緊急に協議。その後、記者団にはコメントを一切、出さず、取材にも応じなかった。
 

 しかし、こうした政府の対応について、感染症の専門家からは疑問の声があがっている。順天堂大の堀賢教授(感染症対策)は「五輪の間接的な影響に目をつぶっている」と指摘する。

 五輪の「直接的な影響」とは、大会関係者が国内に感染を広げるということだ。東京五輪では大会関係者と一般人を交わらせない「バブル方式」と言われる感染症対策を実施。「穴がある」とも指摘されているが、現時点では五輪関係者の陽性者は抑えられており、直接的な影響はほとんどないとみられている。一方の「間接的な影響」とは、東京五輪を開催したことにより「五輪も開かれているのだから、もう自粛しなくてもいいのではないか」と人々が考えた結果による人流の増加だ。つまり緊急事態宣言が出る中で前回に比べて大きく減らないのは、五輪開催による「気の緩み」などがある、ということだ。堀教授はこう語る。

「五輪の開催によって人流が誘発されている面はある。確かに感染の直接的な影響は限定的だが、間接的な影響はこれから甚大になっていく可能性は高い。直接的な影響だけを見て、間接的な影響について何も言わないのは、詭弁でしかありません」

 感染者数はこれからどこまで増えるのか。専門家の間では東京五輪後に感染が大きく拡大する危険性が指摘されている。

 27日の感染者数は2848人、28日は3177人だった。ただし、この数字は曜日によって大きく変動することがある。直近7日間の平均で見てみると、1955人。その前の週の平均1278人から大きく増加している。

 今後の予測はどうか。

 横浜市立大の佐藤彰洋教授(データサイエンス)のシミュレーションデータによると、8月1日の週は1日平均2010人、東京五輪が終わる8日の週は平均2122人となり、パラリンピックが終わる9月5日の週には平均2774人と3千人目前となると予測している。

 ただし今回のシミュレーションは7月12日時点の感染率を使っているため、感染率がこれから高まれば、より大きな数字が出ることもありえる。佐藤教授はこう説明する。

「いまの感染率の状況が継続すると、東京五輪後には平均2千人超になるのは間違いない。五輪やデルタ株の蔓延だけではなく、学校などの夏休み、お盆の影響で感染率はより高くなる可能性はあり得ます」

 感染症の専門家からはより厳しい見方が出ている。京都大の西浦博教授(理論疫学)はNHKの取材に対し、8月上旬には新規感染者数は「1日3千人を超す」と主張している。和田教授も「近いうちに週平均3000人だけでなく、それ以上もありえる」、堀教授は「お盆過ぎには平均3500人になる可能性は高い。(8月下旬にある)パラリンピック中止もあり得るのでは」と言う。

 一方、感染者数ではなく、入院患者数や重症者数が重要だという指摘もある。しかし、感染者数が増えれば、入院患者数や重傷者数も必然的に増える。それが医療のひっ迫につながることになる。第4波時の大阪で起きたような、症状が急変して救急車を呼んでもどこの医療機関も対応できないという悲惨な状況を多くの専門家が懸念している。

 いまできることはあるか。和田教授は「家族以外との接触を減らしてステイホームするのは感染拡大を止めるのに有効。首相が国民に伝わる言葉で目標を定めて呼びかけるべきだ。今やらなければ、多くの救える命が失われることと、さらに事態が長期化することを政治は覚悟しなければならない」と言う。堀教授は、「三密の回避、マスク、うがい、手洗い、黙食などこれまでの感染症対策の徹底をするべき」とした上で、政策の転換を提言する。

「65歳以上の高齢者が2回目のワクチンを接種した割合は7割にもなっており、重症化も少なくなっている。他方で、感染者の7割弱は30代以下の若者になっている。これまでは重症化リスクの高い高齢者を優先してワクチンを打ってきたが、感染拡大につながっている30代以下の若い層を中心にワクチンを打つべきです。ホットスポットに物量を投入するのは感染症対策の基本です」

 五輪開催中に政府はどう具体的に動くか。注目が集まる。

(文/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)