禁錮5年の実刑判決に、母子を失った遺族は「短すぎる」と涙を流した。飯塚幸三被告はなぜこの量刑になったのか。90歳という高齢でも収監されるのか。 AERA 2021年9月27日号の記事を紹介する。

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 重いのか、軽いのか。

「禁錮5年は若干重めの判決だったと思います」

 交通事故裁判などの刑事事件に詳しい神尾尊礼(たかひろ)弁護士はそう話す。

 2019年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し、松永真菜(まな)さん(当時31)と娘の莉子(りこ)ちゃん(同3)の2人が死亡した。今年9月2日、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われた飯塚幸三被告(90)に対し、東京地裁が下したのは禁錮5年(求刑・禁錮7年)の実刑判決だった。

 神尾弁護士によれば、過失犯の場合、量刑は・犯行の態様(実際にした行動)の悪質性・結果の重大性──の二つで大半が決まり、そこに「先例」が加味されるという。

「飯塚被告が問われた過失運転致死傷罪は上限が7年です。7年が言い渡されることはほぼなく、複数死亡でけが人も出た事件の判決は4年から6年手前に集中しています」(神尾弁護士)

 今回の事故で、被告はアクセルを10秒近く踏み続け、2人を死亡させただけでなく9人の重軽傷者も出した。先例からも、「5年」は量刑の範囲を超えるものではない。執行猶予がつかなかったのは、犯行態様と結果の重大性から「実刑事案」といえるからだという。

■大枠は犯行態様と結果

 だが判決の後、SNS上では「判決は軽すぎる」という声が飛び交った。真菜さんの父・上原義教さん(64)も会見で涙を浮かべ心情を吐露した。

「5年は短すぎます」

 神尾弁護士は、遺族感情として「5年は軽い」と感じるのは自然のことだが、量刑を決める際には遺族感情はそこまで重視されないと指摘する。

「量刑の大枠は犯行態様と結果で決まり、遺族感情はこれを修正するものです。イメージとして、量刑を決める際のポイントが、犯行態様と結果の重大性がそれぞれ10点のウェートを占めるとすると、遺族感情は数点。遺族感情は量刑に大きくは影響しません」

 なぜ過失運転致死傷罪よりも重い危険運転致死傷罪で起訴されなかったのか。危険運転致死傷罪だと、最高刑は懲役20年だ。神尾弁護士は言う。

「危険運転致死傷罪はわざとやったという故意犯に適用されます。飯塚被告はわざとアクセルを踏み続けたりしたわけではなく、危険運転致死傷罪の適用の余地はないと考えます」

 そのため、刑務所に収監された場合に労役を科す「懲役」はふさわしくなく、労役を科さない「禁錮」としたのも妥当だという。

■「刑の執行停止」の規定

 飯塚被告は16日、控訴を断念した。刑が確定したことで、被告は刑務所に収監されることになる。

 だが注目されるのが、高齢の被告の処遇だ。被告は収監されないのではともいわれている。刑事訴訟法には「刑の執行停止」という規定があり、「年齢が70歳以上」「病気など著しく健康を害する時」などの場合は刑の執行停止規定がある。被告は90歳という年齢に加え、公判には車いすで出廷して被告人質問で「パーキンソン症候群の疑いがある」と話した。執行停止はあるのか。

 神尾弁護士は「執行停止は例外中の例外」としてこう述べる。

「刑務所には医療刑務所があるので、医療的ケアが必要な場合は医療刑務所に分類されることになります。有罪になっても刑務所に収容されないのは、非常に例外的なこと。飯塚被告は執行停止にはならないと思います」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2021年9月27日号