【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレ、今後放映予定のアニメの内容が含まれます。

 23日、アニメ1期特別編集版の最後となる「柱合会議・蝶屋敷編」が放送された。この柱合会議では、主人公の炭治郎が鬼になった妹を連れていることが問題となった。これに対して風柱・不死川実弥は怒り狂い、禰豆子を串刺しにするというショッキングなシーンもあった。静観の構えをみせる「柱」もいた中で、なぜ彼はここまで激しい怒りをあらわにしたのか。それには、実弥の過去にまつわる“重大な理由”があった。(本記事はアニメ特別編集版と、原作の漫画『鬼滅の刃』を参照しています)



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■紛糾する柱合会議


 鬼狩り組織・鬼殺隊の中で、屈指の実力者は「柱」と呼ばれている。その柱たちが集う柱合会議で、竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が鬼の禰豆子(ねずこ)を連れていることが問題になった。9名の柱たちは竈門兄妹に厳しい言葉を口にする。 煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)は竈門兄妹の斬首を主張し、宇髄天元(うずい・てんげん)も悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)もそれに同調した。伊黒小芭内(いぐろ・おばない)は炭治郎をかばった冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)の責任にも言及する。裁きに無関心な時透無一郎(ときとう・むいちろう)と、炭治郎に同情的な甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)は、冒頭場面では他の柱の制止等はしていない。

 混乱する柱合会議の中、禰豆子が入った箱を持った不死川実弥(しなずがわ・さねみ)が、恐ろしい形相でその場にやってきた。

<鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ>(不死川実弥/6巻・第45話『鬼殺隊柱合裁判』)


■不死川実弥の異様な態度


<鬼が何だって?坊主ゥ 鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ? そんなことはなァ ありえねぇんだよ馬鹿がァ>(不死川実弥/6巻・第45話『鬼殺隊柱合裁判』)

 そう叫ぶや否や、実弥は箱もろとも禰豆子を日輪刀で突き刺した。この実弥の行為に反応したのは、義勇、しのぶ、蜜璃、そして炭治郎だった。禰豆子は苦痛の声すら発することもできない。

 ここまでの場面から分かるのは、おそらく禰豆子についてはできる限り裁判の場には連れ出さない予定だった、ということだ。そして、それを指示していたのは蟲柱の胡蝶しのぶだったと思われる。鬼殺隊後方支援を担当している「隠」(かくし)が禰豆子の箱を戻すように実弥に頼んでおり、さらにしのぶにむけて「胡蝶様 申し訳ありません…」と謝っているからだ。また、実弥に対してしのぶは「不死川さん 勝手なことをしないで下さい」と普段の笑顔とは異なる厳しめの表情で、その行為を牽制した。

 しかし、実弥は「鬼化した禰豆子と、それを連れている炭次郎」への怒りを止めることはできなかった。伊黒も実弥と同じような意見で、同様の態度を見せている。


■加速する実弥の怒り


 実弥は鬼殺隊の総領である産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)には大恩があり、信頼していた。しかし、その尊敬するお館様・耀哉が「炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた」と答えたため、驚きを隠せなかった。

<鬼を滅殺してこその鬼殺隊 竈門・冨岡両名の処罰を願います>(不死川実弥/6巻・第46話『お館様』)

 耀哉は禰豆子容認の根拠として、冨岡義勇とその師である鱗滝左近次(うろこだき・さこんじ)が、竈門兄妹の助命嘆願のために切腹をかけているという手紙を読み上げさせた。同じ柱として、ともに鬼の滅殺に命をかけてきた義勇までもが、鬼をかばっていることが、実弥にはどうしても理解できない。

 鬼殺隊の構成員たちは、ごくわずかな者をのぞいて、ほとんどが家族や兄弟、恋人や友人など、大切な人間を鬼に食われている。鬼のいない世を作るために、鬼殺隊の隊士たちは命をかけて戦っているのだ。最前線で戦う実弥は死にゆくたくさんの仲間たちを目にしている。感じている責任の重さも並大抵のものではないだろう。

 日々失われる仲間の命、大切な人を殺された過去。その思いを共有しているはずの耀哉と義勇が鬼をかばうことに、実弥は激しくいきどおった。これは不死川実弥という人物の本質が、仲間思いで、柱としての責任感が強いことの裏返しだ。


■実弥と禰豆子


<わかりません お館様 人間ならば生かしておいてもいいが 鬼は駄目です 承知できない>(不死川実弥/6巻・第46話『お館様』)

 そして、実弥は自らの腕を傷つけ、その血を禰豆子に見せつけた。禰豆子は直前に実弥の日輪刀でケガをさせられており、傷の修復のために飢餓状態も高まっていた。しかし、禰豆子は実弥への攻撃と捕食をなんとか思いとどまる。この一件をもって、禰豆子が人間を襲わないことの証明は終わり、実弥もいったんは竈門兄妹の処罰を諦めるしかなくなった。

 なぜ、実弥はこんなにも鬼に怒るのか。他の隊士たちも、同じような境遇で苦しんでいるのに、一応は我慢し、実弥ほどは禰豆子への処罰を強くは主張していない。


■実弥の怒りの理由


 実は実弥は、自分が「もっとも信頼する人物」が鬼化させられており、その時に大切な人を複数失っている。実弥の傷は、鬼殺の任務中に負ったものもあるが、その中には、当時の事件の傷も残っている。

 鬼化がもたらす「人格的変化」を目の当たりにしているからこそ、実弥はすべての鬼を信用できない。かつて鬼化した「もっとも信頼する人物」への愛情の深さゆえに、鬼化=その人物の人格の死、と理解しているのだ。

 さらに実弥は、自分の実弟を鬼の脅威から守るために鬼殺隊へ入隊している。鬼には知性があり、言葉をあやつり、時に人間に擬態もするため、人間をだますことも容易である。鬼の強大なパワーも考慮すると、鬼殺隊隊士は、鬼に遭遇した瞬間すぐに滅殺する体勢をとらないと、被害が増えることは明白なのだ。

 これらの理由から「鬼を全て駆逐すること」を誓っている実弥の思考と判断は間違っていない。


■不死川実弥の「柱」らしさ


 柱合会議の時の竈門兄妹への暴力、攻撃を見ると、不死川実弥には「狂気」があることは間違いない。しかし、場面をよく確認すると、彼にはやはり柱に選ばれるだけの度量や思慮深さがあることが分かる。

 最初に禰豆子の箱を他の柱たちの前に持ってきた時、本当に問答無用であれば、その時点で禰豆子に致命傷を負わせることは実弥には簡単だったはずだ。鬼の帯同など許せるはずもない、という感情を持ちながらも、状況を正確に見極めようとしたために、炭治郎の前にわざわざ禰豆子を連れ、義勇としのぶの言葉にいったんは耳を貸し、耀哉の考えを聞こうとした。一見、暴れ狂っているように見える実弥の言葉からは、深い悲しみと恨み、そして葛藤がにじみ出ている。

 今後、物語が進む中で、不死川実弥の過去が徐々に明らかになっていくが、これは『鬼滅の刃』においても屈指の悲しいエピソードである。読者とアニメ視聴者は、その過去を知れば知るほど、この「柱合会議」の際の実弥の忍耐力と、彼の真意に思いをはせることになる。今後のアニメの展開が楽しみでならない。

◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。