愛子さまの10歳の誕生日に公表された写真。愛子さまと由莉が「リンクコーデ」を始めたのは、この頃からだ=2011年、宮内庁提供

 天皇ご一家がそろってお出ましになるとき、ネクタイや洋服などの色合いを揃える「リンクコーデ」を楽しみにしている人も多いはず。それは、家族の一員である愛犬も交えたもので、誕生日などに合わせて報道公開される写真などからは、「家族」の愛情の深さ、そして周囲への配慮もうかがえる。

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 広々とした赤坂御用地で愛犬を散歩させるご一家。雅子さまと愛子さまが「まり」のリードを、皇太子だった天皇陛下は、ピッピのリードを手に3人がそろって笑顔を見せている。

 愛子さまの7歳の誕生日に公表された写真だ。

 愛犬の首には、それぞれのイニシャルである「P」と「M」のアルファベット入りのバンダナが巻かれている。このバンダナは愛子さまの手作りのものと伝えられ、ちょっとした注目を集めた。
 

愛子さまの7歳の誕生日に公表されたご一家の写真。愛子さまが手作りしたバンダナをつける愛犬たちも=2008年、宮内庁提供

 この年の宮内庁の「文化祭」に愛子さまが出品した書には、元気な筆文字で「犬」と書かれており、愛犬に寄せる愛子さまの愛情はさまざまな場面であらわれるようになる。
 

 愛犬の「由莉」とのリンクコーデは、学習院初等科の中学年ごろからの写真や映像で見られるようになる。

 2011年、愛子さまが10歳の誕生日を迎えた際に公開された写真では、愛子さまが着るニットと由莉のバンダナの柄の色味が赤であわされており、翌11歳の写真ではピンクでそろえてある。

 愛子さまが初等科2年生から3年生にかけて学校を休みがちになった時期があった。ご両親が公務で付き添えない時に、一緒に学校まで歩いていったのが由莉だった。
 

11歳の誕生日をむかえる愛子さま。愛子さまのセーターと由莉の小花柄のバンダナは、ピンク色でおそろいコーデだ=2012年、宮内庁提供 


 さらに中等科に入ると、リンクコーデはより細やかになる。

 たとえば13歳の誕生日での写真では、愛子さまが着ているのは雪や小花を北欧柄にデザインしたニット。由莉が首につけているバンダナの赤い小花柄は、愛子さまのニットに編み込まれた小花によく似ている。
 

13歳の誕生日にむけて撮影。愛子さまの北欧柄のニットに編み込まれた赤い小花と由莉のバンダナの赤い小花柄は、まるでおそろいのよう=2014年、宮内庁提供

 長年、パリコレの取材を続けたファッション評論家の石原裕子さんは、バンダナについてこう話す。

「ご一家と一緒に写る愛犬の写真をすべて見ました。いずれも由莉がつけているバンダナの布は、ギザギザの波型に切ってあります。何度も巻かれたのでしょうか、かすかに布の端がほつれているものもあります。ご家族のファッションの色や柄に合わせて由莉のバンダナを手づくりなさっているのでしょう」
 

■天皇ご一家のコーデは、由莉を含めて完成

 ご一家と由莉のコーディネートの調和も興味深い。

 雅子さまが50歳を迎えた13年には、ご一家と由莉との写真がある。陛下と愛子さまが水色のニットで色味を合わせ、雅子さまはベージュのカーディガンとパンツの装いだ。由莉のハート柄のバンダナには、ご一家全員の服の色味がきちんと取り入れられている。

「ご一家と由莉との一体感が伝わります。一口で表現されますが、『リンクコーデ』というのは、見る人にほのぼのとした和みや安心感、落ち着きを与える装いなのです。ご一家は、写真や映像を見る人のことをよくお考えなのだと思います」(石原さん)

 由莉とのリンクコーデが、より分かりやすい時期もある。陛下と雅子さまのご結婚25周年を迎えた18年からは、きれいな色味のコーディネートが続く。
 

ご結婚25周年に公表された写真。シフォンの雅子さまと由莉は、ピンクのリンクコーデ=2018年、宮内庁提供

 雅子さまはニットにふんわりとした花柄のシフォンスカーフ。ピンクの濃淡でまとめた雅子さまと由莉の装いの調和がやさしげだ。

 この年の夏、栃木県の那須御用邸にご一家が滞在した。陛下と愛子さまが水色で合わせ、雅子さまは白いレースのジャケットと一見、ご家族のリンクコーデではなさそうだ。実は、由莉は3人の装いの色味が入った水色と白のギンガムチェックのバンダナを巻いていた。ご一家と由莉を含めてリンクコーデが完成している。
 

雅子さま55歳の誕生日にむけて撮影。雅子さまと由莉は、ボルドー色でリンクコーデ。由莉のバンダナの流水文様は吉祥柄=2018年、宮内庁提供

 雅子さまが55歳の誕生日を迎えた18年は、雅子さまと由莉は同じボルドー色のお洒落を楽しんでいる。そして由莉は、流れる水で厄災を洗い流す吉祥柄である流水文様のバンダナだ。
 

愛犬「由莉」と過ごす天皇ご一家。由莉のバンダナは、梅干しやシソ、ゴマのおにぎりのイラストが描かれたユーモアたっぷりの柄だ=2019年8月、栃木県那須町、代表撮影

 令和に代替わりした19年の那須御用邸で披露されたのは、緑豊かな自然と一体感のある装い。よく見ると、ちょっとしたユーモアが込められているリンクコーデなのだ。

 陛下は青と白の細かいストライプのシャツに、雅子さまも薄い青のジャケット。愛子さまはグリーンのしま模様のワンピースだ。

 石原さんはこう分析する。

「ご一家ともに緑豊かな御用邸の風景に溶け込むような装いです。よく見ると、由莉のバンダナに犬とおにぎりの柄が入っています。バンダナの生地選びを楽しんでなさっているのでしょうね」

 由莉のバンダナをよく見ると、梅干しやシソ、黒ゴマの梅干しと犬のイラストが描かれている。
 

■愛子さまが落ち着いた色味を選んだわけ

 ここ数年の愛子さまと由莉とのリンクコーデからは、落ち着きと社会情勢をくむ思慮深さが伝わってくる。
 

愛子さまの19歳の誕生日にむけて撮影された。由莉の紅葉柄は、赤坂御用地の紅葉とリンクしている=2020年、宮内庁提供

 世界中がコロナ禍にあった20年の12月、愛子さまは19歳になった。誕生日の写真のなかの愛子さまは、パンツ姿にタイドブラウスという非常に控えめな装いだった。
 

 石原さんによれば、ハイウエストのパンツは当時の流行。一方で、長めのリボンタイブラウスを選んだ点や色の組み合わせ方は、19歳という年齢を考えるとかなり落ち着いたデザインだという。由莉が首に巻く紅葉柄のバンダナは、背景に写る赤坂御用地の紅葉とさりげなく重なっている。
 

20歳の誕生日にむけた写真。コロナ禍が続く中で、控えめな装いを選んだ愛子さま。由莉のバンダナには愛らしい椿の柄を選んだ=2021年、宮内庁提供

 翌年に撮影された愛子さまの20歳の誕生日の写真。ここからは、精神面での成長をよりはっきり感じると、石原さんは話す。

「英国の伝統柄であるグレンチェックの上着に、流行りのアコーディオンプリーツのスカートを合わせた、学生らしい装いです。

 20歳の誕生日といえば若々しさや可愛らしさを全面に出しがちです。しかし、愛子さまはコロナ禍で社会が疲弊している状況を踏まえた上で、本来の学生とはこうあるべきだと共感できるような服装をお選びになった。

 ただ、由莉のバンダナだけは灰色がかったピンクを基調に赤いツバキの花が咲いた絵柄です。派手な色味は使わないが、由莉にはかわいらしい布地を選んであげたい。由莉へ対する姉のような、愛情が伝わります」 

 一見すると何気ない由莉とご一家のリンクコーデ。しかし、改めて振り返ってみると、愛子さまの成長を感じることができる。

(AERA dot.編集部・永井貴子)