コロナ下での行動制限がなくなり、川や山など観光地に人出が戻りつつある。一方、北海道・知床での観光船沈没など事故も相次ぐ。AERA 2022年5月23日号で、専門家が海に出る危険性を警鐘する。

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 冷たい北の海で悲劇は起きた。

 北海道・知床半島沖で4月23日、26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故。5月11日現在、12人の行方がわからず懸命の捜索が続く。事故をめぐっては、運航会社が緊急時の通信手段がないまま出航した安全管理のずさんさや、事業者の運航実態を継続的に確認する制度がなかったことなどが大事故につながったと指摘されている。

 事故を受け、各地の観光船や遊覧船は対応に追われている。日本三景の一つ、松島で運航する「松島島巡り観光船企業組合」(宮城県松島町)にも、安全対策に関する問い合わせが相次ぐ。そのつど、小型船では波の高さが1メートル以上で出航は中止するなどの説明をしているという。

「出航前点検は必ず実施し、運航中に地震が起き津波注意報が出た場合は寄港するか沖に行くかなどマニュアルを作り、事故が起きないよう常に対策を取っています」(同組合理事)

 だが、水難事故に詳しい水難学会会長で長岡技術科学大学大学院教授の斎藤秀俊さんは、水難事故で最も怖いのは「水温」だと指摘する。

「たとえ船が転覆しても水温が17度以上なら、救命胴衣を着装し救命いかだなどにつかまっていれば、そうそう命を落とすことはありません。救助隊が到着するまでの3時間程度は、海面に浮き続けることができる可能性があります」

 ただし、水温が17度を下回るとリスクは大きくなるという。水温10度で、顔を上げ平泳ぎの状態で10分近く泳ぎ続けることができる程度。5度を割ると体中に激しい痛みを感じ、手はかじかんで動かなくなる。動かなければ、救助に来た人の手すら握れず、救助艇のはしごを上ることもできない。こうした低温では、一度水につかれば救命胴衣も救命いかだも生還には役に立たなくなるという。

 知床の事故時、現場海域の水温は3度前後だった。斎藤さんは、体の深部体温が35度以下に下がる低体温症で、10〜15分で意識を失うだろうと語る。

「海に出るということは、危険を伴うと考えておかなければいけません。救命胴衣は必ず着装し、防水の携帯電話も持ち、万が一の場合はすぐに118番(海上保安庁)通報をして救助を求めてください。5月は気温が上がってきますが、水温はまだまだ低い」

 さらにこれからの梅雨や台風シーズンは、海岸では波は穏やかでも低気圧の影響で急な大波が襲ってきて、高波にさらわれる危険性があると警鐘を鳴らす。

「海岸で遊ぶ時は、波が高くなったと思ったら海に近寄らないことが大切です」(斎藤さん)

(編集部・野村昌二)

※AERA 2022年5月23日号より抜粋