新型コロナ対策のマスク着用について、日本でも脱マスクへの動きが進みそうだ。20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスク着用について、人との距離が2メートル以上あれば、屋内でも屋外でも、多くの場合はマスクを外せるとする基準を公表した。夏に向けてマスクを外せる機会が増えることは朗報だが、これに複雑な思いを抱く人たちもいる。さまざまな事情から「マスクを外せない人」の気持ちを取材した。
* * *
「『マスク外したら、かわいくない』って、みんなからショック受けられたらどうしよう……」
最近、都内の男子大学生(21)は女友だちからこんな不安を打ち明けられた。「みんな」のなかには、気になる相手も含まれるのだろう。
「脱マスク」の流れが進むなか、これまでマスクで隠していた「顔」をさらすことに不安を覚えている様子だった。
男性は友だちの気持ちはよく分かると話す。
「僕も昔から、鼻と口の形にコンプレックスを持っていました。しゃべると片側の口角だけが上がってしまうので、人に見られるのがイヤでした。でも、コロナ禍でマスクを着用するようになったら、ちょうど口も鼻も隠せる。マスクのおかげで口元を見られなくて済むようになると、人と話すことが苦痛でなくなったんです」
彼の妹もいわゆる「出っ歯」。しかし、マスク生活に入ってから妹は、「生き生きとして、性格も明るくなった」(男性)というのだ。
また、この男性はアルバイト先の先輩である50代の女性にこう言われた経験がある。
「水を飲むから、見ないでね」
つまり、マスクを外した顔を見るなという意味だ。この心理について、都内に住む40代の会社員女性はこう代弁する。
「マスクは老けた印象を強めるあごのたるみや、ほうれい線を隠すことができるから便利なんです。何よりうれしいのは、高めの位置で装着すると、ちょうど、目の下のたるみを隠せることです」
コロナ禍以降、この女性はメークをサボりがちになったそうだが、以前より若く見られることが多くなったとうれしさを隠さない。さらにマスクをつけるメリットを強調する。
「マスクを装着することで目線の向く先が目立たなくなるので、苦手な上司や同僚と目を合わせなくても、不自然に思われないのもいいですよね」
冒頭の大学生やこの女性のように、マスクを装着することで安心感を覚えている人は少なくないようだ。
精神科医の井上智介さんが解説する。
「実は、マスクがバリアーや防御の役目を果たすという心理は、コロナ禍前からありました。マスクで顔が隠れるのは、自分が人目にさらされる部分を少なくすることでもあります」
コロナ禍でメークも運動もしなくなり、めっきり老けた自分を今さらさらすのは恥ずかしい。
この心理の裏にあるのは、マスクによって自分を隠す「匿名性」による安心感なのだと井上医師は話す。 井上医師は、産業医として多くのビジネスパーソンの悩みに向き合ったきた。
「会社でプレゼンテーションをする際に、マスクを装着していると視線が気にならずに落ち着く」
「苦手な上司と仕事をする時も、マスク越しであれば気持ちが楽になることに気づいた」
そう吐露する患者が、コロナ禍を機に2〜3割は増えたという。
こうした人たちの追い風になったのは、コロナ禍で「マスクをつけることは正しい」という価値観に世間の意識が変化したことだ。
「以前は風邪でもマスクをつける人はそう多くはなかったので、うつを患うなどでマスクを手放せなかった人は、ひどく目立ってしまい『人の視線が怖い』とジレンマに苦しんでいました。視線を避けるためのマスクが逆に注目を集めてしまっていたのです。しかし、コロナ禍によって違和感なくマスクを防御壁として使うことができるようになった」
マスクで助けられたと口にするのは、精神的に悩みを抱えるひとばかりではない。
「相手にいら立ちを覚えても、表情が顔で隠れるから助かります」
井上医師によれば、クレーマーに対応する飲食店の店員や、部下を持つ中間管理職には、こんな本音を漏らす人も珍しくないという。
「マスクによるバリアーは、何も特別なことではありません。人が自宅に戻るとホッとするのと同じです。家の壁や屋根によって、人は自分だけのプライベートな空間を保持することができる。マスクも同じ効果を発揮したということです」(井上医師)
だがコロナ感染者が落ち着きつつある今、政府は戸外で会話の少ない場合にはマスクは不要との見解を示した。欧米やアジアなど、海外でも脱マスクへの動きは加速している。
こうした状況のなか、「マスクを外せない人たち」はどうすればいいのか。
心理学者でコミュニケーションに詳しい佐藤綾子・ハリウッド大学教授はこうアドバイスをする。
「人間は初対面の相手に対して、顔から表情や造りなどの情報を読み取ることで、相手がどのような人物なのかを判断します。なので、マスクで顔の3分の1を隠してしまうよりは、本来は顔を出した方がお互いにコミュニケーションを取りやすいはずなのです」
そうはいっても、マスクを外すと、顔のたるみや老化が気になる――そう尻ごみをする人も多いだろう。その場合は、表情筋を鍛えることで、脱マスクの恥ずかしさを克服することも可能だという。
「人の顔で、もっとも動かしやすく豊かに表情を作ることができるのは、口周りの口輪筋です。マスク生活で顔の筋肉を動かさない生活が続いたことで、顔の筋肉がたるみ老け込むのは当たり前です」
さらに「マスクで隠れるから」と動かさないでいると顔の筋肉が固まってしまうという。
「試しに、にっこりと笑ってみてください。コロナ前よりも、ぎこちない笑顔になっているはずです。この口輪筋を鍛えることで、筋肉に柔らかさが戻り、すてきな表情で笑うことができるはずです」
では、マスクを外すと歯並びや自分の顔に自信がない人は、どうすればいいのか。
「マスク生活が続くうちに、歯科矯正やホワイトニングなどを試すのもいい。自信がつくならばそれもひとつの方法です。そこに予算をかけたくないひとは、『わたしは、歯並びは良くないけれど、笑顔はすてきよ』と、発想を切り替えるべくちょっとだけ努力するのもひとつの選択です。ただ、コミュニケーションの武器となる顔を隠してしまうのは、もったいないですよ」(佐藤教授)
屋内でもマスク解禁となるまでには、まだ時間がかかるだろう。その間に、筋トレに励んだり、エステサロンに駆け込んだりするのもいいかもしれない。
ただし、先の井上医師はこうも話す。
「世の中の流れとしては、脱マスク歓迎でしょう。一方で、マスクを外すのに勇気が必要であったり、負担と感じる人もいます。そうした人は、無理をしないでもいいんですよ」
(AERA dot.編集部・永井貴子)
「脱マスク」の政府見解に悲鳴 「マスクを外せない人」たちの背景に匿名性と安心感

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