アイスランドの人里離れた土地で暮らす羊飼いの夫婦。ある日、一頭の羊から羊ではない「何か」が生まれた。衝撃を受けながらも、夫婦は自分たちの子どものように「それ」を受け入れるのだが……。連載「シネマ×SDGs」の22回目は、カンヌ国際映画祭をはじめ世界を騒然とさせた禁断のネイチャー・スリラー『LAMB/ラム』のヴァルディミール・ヨハンソン監督に話を聞いた。

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 子どものころ、祖父母の羊牧場で多くの時間を過ごしました。アイスランドの民話や、人間のなかに存在する自然、自然のなかに存在する人間を映し出す作品を作りたいと思ったんです。都市ではなく田舎で起こる、ある種のクリーチャーが登場する……そんなイメージから本作は生まれました。

 スリラー、SFどんな見方も自由です。ただ大きなテーマは「受容」、そして「家族」についてです。

 主人公夫婦には子どもを失った過去があります。そんな二人が、目の前の「なにか」を受け入れ、家族になっていく。家族とは血で繋がっていなければいけないのか。さまざまな家族像があるのではないか。そんな思いを込めました。

 夫婦像は祖父母からインスピレーションを得ています。彼らは羊飼いとして男女の区別なくお互いをリスペクトし、同等にやるべき仕事をやっていました。いまでは普通のことかもしれませんが、僕が幼い頃、そんな夫婦の関係性は珍しかった。特に祖母はとても強い人で、マリアのキャラクターは祖母に大いに影響を受けています。

 30代半ばでタル・ベーラ監督とアピチャッポン・ウィーラセタクン監督と出会い、映画の見方が変わりました。「ブンミおじさんの森」を最初に観たときの感覚はいまだに忘れられません。不思議なことはいま、この日常に実在しているのではないか。そう思わせる手法に驚かされました。タル・ベーラ作品も同じくカットが少ない映像のなかで観客は俳優たちとたっぷりと一緒に時間を過ごします。そこにマジックが起こるのです。

 アイスランドは生き物と人間、自然の関係が濃く強い土地です。それは現代社会で見つめ直すべきものでもある。本作がそうしたことについて会話をするきっかけになればとも思います。(取材/文・中村千晶)


※AERA 2022年10月2日号