安倍晋三元首相が銃撃された当日、速報が流れると一斉にアナウンサーの服が真っ黒になり、いわゆる喪服っぽい装いに変わった。安倍氏の国葬が行われる27日、各局の番組では早朝から「今日は国葬」とのニュースが報じられているが、アナウンサー、キャスターの服装はどうだったのか? 番組をチェックすると、そこにはさまざまな「事情」が垣間見えた。

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 7月8日、安倍元首相が応援演説先で銃撃されたニュースに日本中が震撼(しんかん)した。首相に2度就任し、憲政史上最長政権を築いた安倍元首相の非業の死は、その日予定されていたテレビ番組の編成を大きく変え、各局は特番などで詳しく報じた。だが、そこに「違和感」を感じた人も少なくなかった。ツイッターなどSNS上にはこんな声が上がった。

<突然、安倍元首相関連のニュースに切り替わり、番組がかなり縮小。しかもアナウンサーはみんな喪服みたいな黒い服着てるし。おかしいって>
<安倍元首相に対する追悼とか別にあってもおかしくないし、テレビで喪服姿もご自由にと思います。でも、同じ事がたとえば相模原の障害者施設での事件や、知床の海難事故の時にも行われる日本であってほしいですね>

 日々、さまざまな悲しい事件や訃報がニュースとして報じられるなかで、なぜ安倍元首相のときだけ“喪服”なのか。一部の視聴者はそんな疑問を抱いていたようだ。

 では国葬当日も、ニュースを報じるアナウンサーたちは「黒一色」になるのか。

 早朝から情報番組をチェックすると、アナウンサーたちの衣装は「THE喪服」というよりも「グレー」な感じ。色味を抑え、とにかく“地味”を意識したような服装だった。

 朝の番組のトップバッターと言えば、『Oha! 4 NEWS LIVE』(日本テレビ系)だが、火曜の進行担当の小高茉緒アナは、白いブラウスに黒いパンツ、黒のパンプス。同じく火曜のニュース・スポーツ担当の中野謙吾アナは黒のジャケットとパンツでノーネクタイ、白のポケットチーフをさしていた。

 日本テレビの朝の番組は『ZIP!』へとバトンタッチして、メインの水卜麻美アナは、グレーのマットな光沢のあるブラウスに黒のスカートだった。この時間帯から、いよいよ「グレー」な服に移行していく。同時刻の番組、『NHK NEWS おはよう日本』の佐藤あゆみアナは、ノーカラーのグレーのジャケットに黒いスカート、アクセサリーはパール。『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)の斎藤ちはるアナは首元にリボンのアレンジのある濃いグレーのブラウスだった。

 この状況に、芸能評論家の三杉武さんはこう話す。

「アナウンサーたちも安倍元首相の国葬にはそれぞれ意見があるとは思いますが、局アナには服装の規定があるのでしょう。ただ、国葬を行う日本武道館から生中継している場合はともかく、朝の情報番組から一日中、黒やグレーの衣装ばかりというのは違和感があります」

 とはいえ、葬儀を報道する際には、いつも以上に神経を使うこともまた事実。ある週刊誌編集者は葬儀の取材時の服装について、こんな経験をしたと明かす。

「ある著名人のお父様がお亡くなりになり、取材陣が葬儀に駆けつけました。記者は喪服、もしくは暗めのスーツだったのですが、カメラマンの多くはいつもの仕事現場での服装、またはそれにジャケットを羽織っただけ。そのことを不満に思った喪主である著名人が『喪服に今すぐ着替えてこなければ取材はさせない!』と言い出したんです。所属事務所の人を通じて、なんとか喪章をつけることで折り合ったのですが、喪章の手持ちがなかったので、近くの葬儀屋さんを探して走って取りに行きました」

 27日の報道番組の服装に話を戻すと、午前8時からの番組ではグレーから黒へシフト。『めざまし8』(フジテレビ系)メインキャスターの谷原章介氏は黒いスーツに黒いネクタイ、白のポケットチーフで、朝の情報番組の中では最も喪服っぽい装い。永島優美アナは白いシャツにタイトめなかっちりとしたスカートだった。

『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)のメインキャスター羽鳥慎一氏は、黒いスーツにノーネクタイで、言い方は悪いが、お通夜帰りに自宅近くまできてネクタイを取った男性のよう。何か意図があったのだろうか。むしろ、谷原章介氏のように、喪服と言われようが、黒いスーツをきちんと着てしまったほうが潔いようにも感じた。

 そして、一般献花も始まり、国葬本番に近づくとやはり、出演者の衣装は真っ黒に! 『ひるおび』(TBS系)のメインキャスター恵俊彰氏は黒のスーツにノーネクタイで、真っ白なポケットチーフ。中に着たベストが濃いネイビーで喪服には見えないものの、全体的に黒い。コメンテーターも黒もしくはグレーで、ビタミンカラーの明るいスタジオにやはり違和感しかない。

 前出の三杉さんは、局アナ以外の出演者までもが「黒」を着用する背景についてこう推察する。

「番組のディレクターやプロデューサー側もはっきりと『黒い服を着てください』とは言わないでしょうが、そんな空気はかもし出すと思います。あと、局アナ以外の出演者はスタイリストが用意したものを着るだけという方もいるので、結果的には暗めの服装にはなるでしょう。いずれにせよ、出演者も番組に対する“忖度”はあるはずです。服装のことで自分自身がたたかれるならまだしも、番組に迷惑をかけたくないという気持ちはあると思います」

 ちなみに、国葬当日の芸能エンタメコーナーで各局が報じていた木村拓哉の服装はブラック。国葬の前日、26日に日本初の1試合予想くじ『WINNER』発表会に登壇したキムタクは、真っ黒いシャツに限りなく黒に近いグレーのスーツ、胸ポケットには真っ白いチーフの装い。「国葬の日の報じられること想定して!?」であれば、さすがキムタク!

 最後に三杉さんはこうまとめる。

「アナウンサーたちの“喪服”姿は、うるさい視聴者からクレームを言われたくない、というテレビ局の事なかれ主義の弊害が現れた一例だと思います。正直言って、安倍元首相としても、全局のアナウンサーに黒い服を着て欲しいとは思っていないだろうと思います」

 岸田首相も明言したように、安倍氏の国葬は弔意を強要するものではない。そうであるならば、局アナや出演者の服装が「黒一色」となるのは、やはり違和感を覚えざるを得ない。(AERA dot.編集部・太田裕子)