新年は、愛子さまが身に着けた可愛らしい帽子に注目が集まった。女性皇族の正装にかかせない帽子。実は、宮殿の儀式でも着用するときとしないときがある。その線引きはどこにあるのか。父である故・平田暁夫さんとともに、親子2代で皇室の帽子デザイナーを務める平田欧子さんが、愛子さまの帽子に込めた秘話とマナーを解説する。

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「愛子さまのローブモンタントとあわせるはじめての帽子にふさわしいのでは、と提案いたしました」 

 おだやかに話すのは、皇室の帽子のデザイナーを務める平田欧子さん。1966年から皇室の帽子のデザイナーを務め2014年に亡くなった父・平田暁夫さんのあとを継ぎ、皇室の帽子のデザイナーとして活躍している。

 欧子さんが指すのは、愛子さまの帽子につけたゴヨウツツジの花飾りのことだ。

 愛子さまが20歳の成年を迎えた一昨年、そして今年の元日。天皇陛下と皇后雅子さまそして愛子さまは、上皇ご夫妻に新年のあいさつをするため、お住まいの仙洞御所(昨年は、仙洞仮御所)に向かった。

 愛子さまが日中の正装であるローブモンタント(長袖ロングドレス)にあわせたのは、淡いサーモンピンクの共布でつくられた帽子だ。

 成年皇族は、宮中行事や公務へ出席することになる。成年を前にした時期、宮殿行事などで着用する正装のドレスにあわせる帽子をいくつか新調した。

 愛子さまが作った地模様の入ったローブモンタントは、胸元に飾りのないシンプルなデザインだった。20代の女性皇族となる愛子さまの清楚な雰囲気に似合うだろうと、こう提案した。

「お花の飾りもいいのではないでしょうか」

 愛子さまは、にっこりと笑い、こう答えた。

「あ、それもよいですね。お願いします」

 愛子さまは感情が豊かだ。うれしいと感じるときは、素直に表情にあらわれる。愛子さまが笑うと、その場の空気がふわっと明るくなった――。そう、欧子さんは振り返る。

 これから愛子さまは、成年皇族として公務に出席する場面も増える。成年皇族のご準備としてつばのない「トーク帽」をはじめいくつか新調した。

「愛子さまの最初の帽子に、ふさわしいのでは」

 そう思った欧子さんは、帽子の花飾りに愛子さまのお印であるゴヨウツツジを選んだ。花と一緒に編み込んだリボン飾りで品のよい華やかさを添えた。

 皇族の持ち物の目印として用いるのが、お印だ。

 天皇陛下と雅子さまは、栃木県の那須御用邸に咲くゴヨウツツジが好きで、「この純白の花のような純真な心を持った子どもに育ってほしい」と願いを込めて、愛子さまのお印としたという。

 上皇ご夫妻へあいさつに向かう際、愛子さまは2年続けてこのゴヨウツツジの帽子を着用した。

 女性皇族が、宮殿での儀式や公務などの皇室行事でローブモンタントに合わせるのが帽子だ。

「明治維新以降、宮殿における儀式や公務における皇室の正装は、洋装になりました。明治から昭和の前半までは、帽子ありきでファッションが成り立った時代。皇族方の帽子も冒険したデザインが多くありました。最近は、『皇室も控えめに』といった風潮があるためか、公務の際でも帽子をかぶらないケースもおみかけします。洋装は本来帽子で完成するもの。皇族方が帽子の楽しみ方のお手本になっていただけると嬉しいですね」(欧子さん)

 他の皇族方のお住まいへの訪問や一般参賀や宮殿での儀式においても、帽子を着用するときとそうでない時がある。どのような区別はあるのだろうか。

「お相手を訪問する際には、帽子を着用します。元日に愛子さまが、上皇ご夫妻のお住まいに訪問した際に帽子をお召しになったのは、訪問する立場であるためです。ご自分のお住まいにいらっしゃる上皇后さまは着用なさらない」(欧子さん)

 興味深いのは、一般参賀や皇居・宮殿での儀式など同じ皇室行事でも女性皇族によって帽子の有無があることだ。宮殿行事では、帽子を着用しない皇后さまの写真や映像を見かける。

 どういうことなのか。 

「皇居・宮殿で執り行われる歌会始や講書始の儀などは天皇、皇后両陛下が主催する儀式です。皇居にお住まいの皇后さまは、着用なさらない。一方、参内する立場の他の皇族方は、帽子をお召しです」(欧子さん) 

 宮殿での新年祝賀の儀で、女性皇族はコロナ禍に配慮してティアラを控えた。大きな行事でも華やかな印象のある帽子をつけない場面もある。しかし、作法の基本は同じだ。

 新年の一般参賀では、両陛下はお祝いに集まった人々をお迎えする立場だ。欧子さんによれば、平成に入りしばらくした頃、「人々を皇居にお迎えする立場ということから、皇族方は帽子を身につけない」という形で落ち着いたという。

 一方で、平成と令和における天皇陛下の即位を祝う一般参賀では、皇后さまを含む他の女性皇族も帽子をかぶっている。

 天皇誕生日の一般参賀では、皇后さまは帽子をかぶらず、皇太子時代の雅子さまや眞子さん、佳子さまなど他の女性皇族は帽子をかぶっていた。体調などの関係で着用しない場合を除いては、おおむね統一されている。

即位に伴う一般参賀は、皇室全体が国民から祝福をもらう立場。天皇誕生日の一般参賀は、

祝福を受ける天皇陛下の妻である皇后は、人々をお迎えする立場という解釈なのかもしれない。

「欧州の王室では、いまも帽子はロイヤルを象徴する装いとしてあります。帽子は、かぶるだけで背筋が伸びるという方や、気持ちが豊かになるといっていただける方もいらっしゃる。愛子さまは、いろいろな帽子に興味をもってくださるので、これからもぜひ華やかな帽子などもかぶっていただきたいですね。上品に着こなしていただけると思います」

(AERA dot.編集部・永井貴子)