回転ずし大手「スシロー」での迷惑行為を行った少年が通う高校に、苦情の電話が殺到している。学校側は「一日中、電話が鳴りやまない状況が続いています」と疲弊している様子で、かなり強い叱責を受けることもあるようだ。迷惑行為への怒りは分かるが、過度の苦情や使う言葉を間違えると、うっかり加害者になってしまうリスクもある。

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 この少年についてはSNS上で高校名などが拡散され、1月末に一部メディアもある県の高校生であるとみられると報じた。

 当該の高校に確認すると、担当者は「一日中、電話が鳴りやまない状況が続いているのは事実です」と疲弊した様子で今の状況を明かした。苦情の内容の詳細は明かせないとしたが、「非常に多くのお叱りをいただいております」という。なかには強い言葉で叱責してくるケースもあるようだ。

 直接的に被害を受けたのはスシロー側だが、回転ずしを利用する人にとっては、あの不快な迷惑行為の動画に被害者感情を抱き、「どんな教育をしているのか」と学校に腹が立ってしまうこともあるのかもしれない。

 ただ、「学校に文句を言うのは筋違い」との意見も少なくない。鳴りやまないほどの苦情電話によって、学校の通常業務に支障が出ている状況は問題だろう。

 実際、過去には執拗(しつよう)なクレームを入れた側が逮捕された事案も複数ある。怒りに任せて苦情やクレームの電話を入れた結果、うっかり法に触れてしまうリスクもあるのだ。

 クレーム対応などの企業法務に詳しい村松由紀子弁護士(弁護士法人クローバー)によると、苦情の目的や話した内容、電話した回数について「社会生活上、受容できる限度を超える場合には、学校の正常な運営を阻害したとして、威力業務妨害罪が成立する可能性が高い」という。

 どこからが違法かの明確な線引きはないが、例えば執拗にクレームや苦情の電話をかけ続け、相手側の仕事に大きな影響を及ぼした場合。「ばかやろう!」「ふざけるな!」などと、大声や怒声を発し続けて相手を威圧する行為なども、威力業務妨害罪に当たる可能性が出てくる。

「『殺すぞ!』などと相手に危害を加える言葉を使うと、脅迫罪が成立する可能性があります」(村松弁護士)

 不法行為として、民事上の損害賠償請求の対象にもなりかねないという。

 購入した食品に異物が入っていたなど、自分が直接の被害者の場合も、今回のスシローの件のように直接の被害者ではない場合も、考え方は同じである。

「自分が被害当事者の場合は、相手側に事実を伝える必要がありますから、電話などをすることは当然です。ただ、あまりに執拗だったり大声をあげ続けたりした場合などは、法的責任を問われることになるかもしれません」(村松弁護士)

 被害者が、気づけば加害者側になっているという構図だ。

 村松弁護士は、

「少年に対し憤りを感じるのは理解できます。ですが、学校に対して苦情やクレームの電話をかけること自体が新たな迷惑行為になりかねず、やり方によっては法的責任が生じるリスクがあることは知ってほしいと思います」

 と、自制を促す。

 保護者などから過度なクレームや要求を受けることもある学校の現場。各地の教育委員会は対応マニュアルを作成し、周知を図っている。

 少年が通う高校では電話をかけてきた相手に対し、「電話内容を録音する」とのアナウンスを流す対応を取ったようだ。

「この学校がある県の教育委員会は、そのマニュアルの中で『威圧的な態度、大きな声で怒鳴る場合は刑法234条の威力業務妨害に該当する可能性がある』との内容を記しており、対応策として録音を提案すると示しています。今回も、それに沿った対応ではないかと思いますが、こうしたマニュアルを作っておくことはとても有用だと思います」(村松弁護士)

 続発する迷惑行為のSNS投稿。当事者が批判されるだけではなく、周囲を巻き添えにしてしまう恐れがあることを、肝に銘じなければならない。

(AERA dot.編集部・國府田英之)