福井県池田町の広報誌に掲載された「池田暮らしの七か条」に、移住者への提言として「都会風を吹かさないよう」「品定めされることは自然です」といった表現があり、一部で批判が出ていると報じられた。現在は町のホームページにも提言が掲載されているが、なぜこうした文言が掲載されることになったのか。町の担当者に真意を尋ねると、小さな田舎町に根付く慣習と、田舎暮らしを夢見てやってきた移住者とのギャップを解消したい、という意図を語った。

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 池田町は人口約2300人で、毎年20人ほどが移住してきている。

 同町の担当者によると、町には「集落」と呼ばれている33の地区があり、それぞれに区長がいる。

「七か条」は、その区長会が提言としてまとめたものだという。

 その中では、

▽「参加、出役を求められる地域行事の多さとともに、都市にはなかった面倒さの存在を自覚し協力してください。(中略)このことを『面倒だ』『うっとうしい』と思う方は、池田暮らしは難しいです」

▽「今までの自己価値観を押し付けないこと。また都会暮らしを地域に押し付けないよう心掛けてください。(中略)これまでの都市暮らしと違うからといって都会風を吹かさないよう心掛けてください」

▽「プライバシーが無いと感じるお節介があること、また多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚してください。どのような地域でも、共同体の中に初顔の方が入ってくれば不安に感じるものであり『どんな人か、何をする人か、どうして池田に』と品定めされることは自然です。干渉、お節介と思われるかも知れませんが、仲間入りへの愛情表現とご理解ください」

 などと記されている。

 町のホームページには区長会からのメッセージとして、《私達は、池田町の風土や人々に好感をもって移り住んでくれる方々を出迎えたいと思っています。(中略)移住者、地元民双方が『知らない、聞いてない』『こんなはずではなかった』などによる後悔や誤解からのトラブルを防ぎたいと思っています》と、提言を出した理由が書かれている。

 担当者によると、区長会では定期的に会合の場を設けているが、昨年、「移住者が共同作業に参加してくれない」という声や、移住者から「体質が古い」というニュアンスの発言をされたなどの話が出た。区長たちも苦慮している様子だったという。

「(七か条で)使った言葉だけに焦点が当てられてしまいましたが、排他的な意図はありません。池田町に移住してから『聞いていない』『知らなかった』とならないように、池田町ってこんな町ですよ、集落ってこんなところですよ、と包み隠さずお見せする方が丁寧ではないかとの考えが区長会でまとまり、提言を出すに至りました」(担当者)

 都会暮らしだとなかなか想像がつかないが、集落での共同作業とは、どんなものなのか。

 担当者によると例えば、

▽河川のごみ拾い

▽夏場の草刈り

▽冬場の公共施設などの雪下ろし

▽祭りの手伝い

▽消防隊への参加

▽区費の支払い

 などがあるという。

「どこも小さな集落で高齢化も進んでいますので、みんなで助け合い、協力し合いながら暮らしています。雪かきを手伝ったり、消防隊では小型ポンプの使い方を学んで、いざ火事が起きたらみんなで助けるための備えをしたり、そういうコミュニティーができあがっているのが池田町です。長い歴史の中で、そうした関係性を築き上げてきていますので、人間関係が濃密なのが特色なんです」(担当者)

 だが、例えば、都会の喧騒を離れて一人で暮らしたいと考えている移住者の場合、望んでいた暮らしとはギャップを感じるかもしれない。人によっては、さまざまな共同作業が「古い体質」と映り、あつれきを生むかもしれない。

 とはいえ、移住者が困ったときに助けてくれるのは、おそらく集落に住む地元住民だろう。「静かに暮らして、無農薬野菜を育てたい」と話す移住希望者もいたそうだが、その畑は、集落の誰かから借りなくてはならないのだ。

 担当者は、

「区長たちにとって、若い人が移住してきてくれるのはうれしいことなんです。だからこそ、みんなで助け合って暮らしている、その仲間になってほしいと願っています。移住前に何度も足を運んでくれた人には、そうした集落の特色を説明したり、前もって区長を紹介するなどして、安心して移住していただく工夫をしています。小さな町ならではの濃い人間関係や、田舎暮らしを楽しんでいる移住者もたくさんおられます。やっぱり、何度か町に来て、町を知っていただいてから移住された方が、その後がスムーズだと思います」としつつ、こう続ける。

「ただ、特に突然移住してきた方については、地元住民も、その方がどんな人でどんな仕事をしているかも分からず、どう声をかけて良いか分からない。それが移住者にとっては『品定め』のように感じてしまうのだと思いますが、池田町で暮らすなら、そうしたことはつきものですよ、とちゃんと明示しようという考えを、あの文面に込めました」

 提言について、町には、福井県外の人からと思われる苦情が寄せられているという。

 文言を“よそ者の排除”のように不快に感じる人もいるかもしれない。ただ、良い面ばかりをアピールするのではなく、その土地の生活の「ありのまま」を正直に伝えようとした池田町の姿勢にも、意味はあるはずだ。

(AERA dot.編集部・國府田英之)