楽しいパフォーマンスや思い切った采配で選手・監督としてプロ野球界を沸かせたアレックス・ラミレスさんのご一家は、2022年の夏に4人目のお子さんが生まれて6人家族に。いつも明るい印象のあるラミレス家ですが、どんな子育てをしているのでしょうか?“ハッピー”の秘訣を、妻の美保さんにうかがいました。発売中の「AERA with Baby 0歳からはぐくむ非認知能力」(朝日新聞出版)からお届けします。

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――3男1女のママになられました。4人きょうだいの子育てはいかがですか?

 実は3人も4人も、大変さは変わらないんです(笑)。1人目の時は初めてのことばかりで大変、2人目はお世話をするが2人になって大変、3人目は親の人数より子どもの数が増えて大変……でしたが、4人目からは変わらないです。

 3人目のあたりから、「無理なものは無理。しょうがない」と、諦めることを覚えたんですよね。だから落としたものを拾ってもらったり、見ず知らずのかたに子どもをあやしてもらったりしたときに、以前なら「すみません」と謝っていたけれど、「ありがとうございます!」という感じに変わりました(笑)。

――子育てのスタイルやきょうだい関係に、変化はありましたか?

 きょうだいケンカは相変わらずですが、私が食事の支度をしているときに子どもたちが杏気(アンゲ・三男)にミルクをあげてくれたり、あやしてくれたりと、“チーム”としてはまとまった気がしますね。さらに、みんなが杏気を気にかけてくれるので、「目を離したすきにハイハイで危なっかしいところに行ってしまった」みたいなことも、むしろなくなりました。

――ご家族みんなの協力体制が整っていますね!

「家族なんだから助け合わなくてはいけないよね」「ママがごはんをつくれないと、みんなはごはんを食べられないんだから、杏気を見ていてね」なんて、夫も私も、そこは子どもたちにきちんと言葉で伝えるようにしています。

 ただ、外出するときに親の人数が足りない状況は変えられないので、1人はベビーカーに乗せて押し、あとの2人は手をつなぎ、そのタイミングでいちばん落ち着いている子は、ベビーカーにつけたストラップをつかんでもらう……なんて、そこは臨機応変。子どもたちがベビーカーを押してくれることもあります。チームワークですね。

■自分で考えて行動できる人に

――子育てをするうえで、大切にされていることはありますか?

 臆せず自分で発信し、考えて行動できるようになってほしいと思います。たとえば、子どもたちが夫の仕事現場のかたに無邪気に話しかけたりしても、「口を慎んで!」なんて制止せずに、わりと自由にさせています。

 親がなるべくそう心がけることで、周りの目を気にせず、自分で考えてコミュニケーションをとってどんどん行動に移せる人になるのではと思っています。そこは、夫も同じ考えですね。

――長男の剣侍(ケンジ)くんに対しては、特別に心がけていらっしゃることはありますか?

 剣侍はダウン症を持って生まれてきたので、最初は「どうやって育てていったらいいのかな」と、毎日のように悩みました。でも、30歳でひとり暮らしをしているダウン症のかたや、結婚されたかたもいることを知って、これも一つの個性じゃないかなって。確かに、何をやるにも時間はかかるけれど、できないわけじゃない。私もやればできると信じているし、本人にも「僕はできないんだ」なんていうふうに思ってほしくないので、ダウン症を言い訳にせず、やっぱりどんなことでもチャレンジさせようと思っています。

――個性に応じてチャレンジできることがある。

 そうです! 逆立ち一つにしてもそう。次男の寿凛(ジュリ)は運動神経がいいので、逆立ちなんかもひょいとできてしまうんですよね。一方、剣侍は筋力が弱いので、すぐにはできない。でも、やろうとするのを「危ないからやめなさい」と制止するのは簡単だけれど、本人のやりたい気持ちに任せようと思って見守っています。結果、時間はかかったけれども、今では逆立ちができるようになりました。

――親が決めつけないということですね。

 そう思います。剣侍はインターナショナルの幼稚園に通っていたので、言葉を発する力は弱いものの、英語も日本語もできます。だから夫と「将来、通訳の仕事なんてできたらかっこいいね!」なんて話しています。

■「ありがとう」は、きちんと言葉で伝える

――お子さん一人ひとりとは、どのように向き合っていますか?

 ママと二人きりになる時間をつくるように心がけています。長男でいうと、最近は月1回ペースで、片道1時間くらいかけて二人で歯医者に通っています。そのときにとてもうれしそうなので、この時間を大事にしたいなあと思っています。

 ほかの子たちも、夫が家にいるタイミングであれば、二人きりで近くのスーパーマーケットに行ったり。とくに次男は、下の子の面倒をみてもらうことが多くて、我慢していることも多いと思うので、そのときに「いつもありがとう。とても助かっているよ」と言葉にすることも忘れないようにしています。

――思いをきちんと言葉にして伝えるということですね。

 それは、夫から学んだことなんです。身近にいる家族ほど、どうしても愛情表現や感謝を忘れがちです。でも、彼がきちんと言葉にしてくれるおかげで、私はいつもいい気分にしてもらっています。だから子どもたちにも、言葉で気持ちを伝えていきたいなあって。

 あとはハグ! 愛情表現として身に着けてもらいたいので、朝起きたときも、「ありがとう」のときも、もちろん何でもないときも、スキンシップを心がけています。おかげで彼らは、ケンカをしたあとに泣きながら「ハ――グ!」なんて私のところに来たり、叱られたときに黙って両手を広げてハグを求めてきたりしますね。

■家族円満のためには、夫婦も話し合いが大事

――夫のラミレスさんと、子育てで決めていることはありますか?

 時間があればおむつ交換でも何でもやってくれちゃう人なのでとくにはないですが、2人目、3人目のときはプロ野球の監督をしていたので、ほとんど家にいなかったんですよね。それが、2020年に退任して自宅にいる時間がグンと増えたときは、ちょっと言い合いが増えました。

 というのも、とくに剣侍はダウン症というのもあり、決まった段取りで行動するほうがスムーズなので、家事ややることをルーティン化していたのですが、パパが「ちょっとおいで!」なんてそれを崩してしまうことが多発! ほかにも「食べたいときに食べるのがハッピー」なんて、夕飯前に子どもたちにお菓子を与えてしまったりして、「そうじゃないでしょ!」なんて具合でした(笑)。

 ただ、そこも「察してほしい」では伝わらないので、話し合い。結果、今は夫が子どもたちや私にテンポに合わせてくれることが増えました。

■子どもたちと一緒に過ごせるのは今だけ

――美保さんは、スポーツジムの経営者でもいらっしゃいます。

 夫は「決めたらチャレンジ! 考える時間がもったいないよ」ってどんどん突き進むタイプ。「いつかクロスフィットのジムができたらいいね」っていう話はしていたのですが、長女がまだ生後2か月というときに、場所を契約してきてしまったんです(笑)。もう、やるしかなかった。

 私はやるからには自分でとことんやりたいタイプ。でも、仕事が終わらずに自宅でもパソコンをたたいていたりすると、イライラして子どもたちに当たってしまうし、仕事でミスも起こりがちで……。つくづく、お母さんの心の状態って大事だなあと悟ったんです。

 だから、今の一番は私がハッピーでいること! 子どもたちと一緒に過ごせる時間は今しかないので、頑張りすぎずに“頼れるところは頼る”と決めて、今は夕方4時以降はパソコンは開かない。ジムは任せられる人に任せて、メリハリをつけて働いています。

――つい自分で何でもやりたくなってしまいますよね……。

 でも、あれもこれもはできないんですよね。お母さんって何かと自分を犠牲にしがちだけれど、家族のハッピーには、お母さんのハッピーがカギ。だから、頼れることは頼る。仕事でも家庭でも「これをやったから、あれしてくれるよね?」なんて期待すると、期待が外れたときに悲しくなるので期待もしない。

 そうマインドを切り替えるのに少し時間はかかりましたけど、今はパンクしそうになったら夫婦でちょっとお出かけし、「たまには夕飯が肉と白米だけの日があってもいいじゃない! カップラーメンの日があったっていいじゃない!」っていう感じで、ハッピーを第一に子育てを楽しんでいます。

(取材・文/竹倉玲子)

※「AERA with Baby 0歳からはぐくむ非認知能力」(朝日新聞出版)から抜粋

〇ラミレス美保/1982年生まれ、東京都出身。2015年にラミレスさんと結婚。夫婦でフィットネスジムを経営し、自身も逆立ちで腕立て伏せをするなど鍛え上げた体で子どもたちを守る。20 年に夫婦で「一般社団法人VA MOS TOGETHER」を設立、障がい者と健常者が「共に生きる社会」を目指す活動を行う。