NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の主演を演じてから10年。のん(本名・能年玲奈)さんは今年30歳を迎えた(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

 本放送から10年目を迎え、今年4月から9月にかけて再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」。主演を演じた、のん(本名・能年玲奈)さんは今年30歳。俳優のほかに、映画監督、音楽活動と活動の場を広げているのんさんに、この10年間の振り返りとこれからの展望について語ってもらった。

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この日の衣装について「私のなかの『あまちゃん』のイメージが赤なので、それをスタイリストさんに伝えて用意していただきました」と話すのんさん(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

 岩手県と東京を舞台に、内気だった主人公・天野アキ(のん)が、海女やアイドルを目指して成長する姿を描いたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」。本放送時(2013年)の平均視聴率は20%超えで、アキが驚いたときに発する「じぇじぇじぇ!」が流行語になるなど、大きな話題を集めた。今年の再放送でもSNS上で数多くの感想が飛び交い、番組名ハッシュタグや関連ワードがトレンドに上がるなど、根強い人気ぶりを証明。主人公・アキを演じたのんは、「『あまちゃん』、すごいですよね! この作品でヒロインを演じられたことは、自分のキャリアにとっても重要な出来事だったなって、改めて思いました。大好きな作品です」と笑顔で語る。

 脚本は宮藤官九郎。祖母・夏役の宮本信子、母・春子役の小泉今日子、親友のユイ役の橋本愛をはじめ、薬師丸ひろ子、古田新太、渡辺えり、木野花、片桐はいり、杉本哲太、松田龍平など錚々たる出演者との撮影の日々は、「楽しい思い出しかない」という。

「宮藤さんの脚本はめちゃくちゃ面白いし、すごい人たちと一緒に演技できることも楽しくてしょうがなかったです。“みんなで面白い作品を作るぞ”という雰囲気のなかにいられることが本当に幸せで。もちろん、上手く表現できない、満足のいく演技ができないという悩みはあったけど、気持ちが辛くなることはまったくなかったですね」

■アキを演じることで受けた影響

「ユイちゃんのことを『昔はもっと、腹黒くて、自己中だったっぺ!』と言っちゃったり、“え、そんなこと言っていいの?”というセリフもたくさんあって(笑)。私にとってはコメディの楽しさを実感できた作品でもあります」

のんさん(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

「あまちゃん」は東日本大震災の2年後に東北の当時の現状を描いた作品でもある。「当時の宮藤さんのインタビューを読ませてもらうと、『震災の後、笑える作品を作っていいんだろうか?と悩んだ』という話をされていて。私自身も震災からしばらくは思考停止してしまって、アキが作品のなかで言っていたように、“何をしたらいいかわからない、出来ることなんて何もない”と思ってたんです。でも、『あまちゃん』に出演させてもらって、アキを演じることで、元気を届けることができたらいいなと思うようになりました」

 今年は放送から10年の節目の年。ドラマの再放送と同時に色々なイベントも行われた。

 2023年9月14日には東京・新宿文化センターで「あまちゃん10周年スペシャルコンサート」を開催。「あまちゃん」の音楽を担当した大友良英が率いるスペシャルビッグバンドとともに、のんは劇中歌「暦の上ではディセンバー」「地元に帰ろう」「潮騒のメモリー」などを披露した。

「『あまちゃん』の曲は歌詞が面白くて、“どうしてこの曲で感動するんだろう?”と不思議な気持ちになりますね(笑)。宮本信子さんも出演されて、久しぶりにお話させてもらって。気持ちが10年前に戻ってしまって(笑)、すごく緊張しちゃいました」

のんさん(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

■監督・脚本から衣装、美術等の制作までチャレンジした映画づくり

「アキちゃんはKY(空気を読めない)なところがあって(笑)。周囲の目を気にせず、どんどん突き進んでいくポジティブなエネルギーには、私自身も共感します」

その言葉通り、「あまちゃん」後の彼女は、俳優/アーティストとして精力的に活動を続けている。2019年には初の監督作品「おちをつけなんせ」及び、その制作過程を追ったドキュメンタリー作品『のんたれ(I AM NON)』をYouTube Originalsで配信。

「“岩手県の遠野に滞在して、そこで出会った人たちや自然から受けたインスピレーションをもとに映画を作る”という企画だったんですけど、ぜひやりたい!と思いました。自主制作で映画を撮っていた友人の影響もありますね。1 回だけ撮影を手伝わせてもらったんですけど、それがめちゃくちゃ楽しくて。その子が私に、“脚本を書いたら、絶対面白いと思う” と言ってくれて大きなきっかけになってます」

のんさん(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

 さらに2021年に映画『Ribbon」を発表。「おちをつけなんせ」と同じく、監督、主演、脚本、衣裳、美術、撮影、照明、音楽、編集まで手がけた作品だ。二つの作品に共通しているのは、表現欲求を抱えた若い女性が、殻を破って自分らしく生きようとするストーリー。

「『Ribbon』は“映画館で上映する長編映画を作る”と決めていたんです。なので“どうやってエンタメにしようか”“どんなメッセージを込めたらいいだろう”ということにかなり頭を悩ませました。『おちをつけなんせ』もそうですけど、『Ribbon』も“女の子が一歩踏み出す”物語です。何をすればいいんだろう?と悩んでいた主人公が、モヤモヤを自分の力で取っ払って、がんばるぞ!と決心する。そういう話が好きなんです」

のんさん(撮影/今村拓馬、ヘアメイク/菅野史絵〈クララシステム〉、スタイリスト/町野泉美)

■「Non」と言える人でありたい

 俳優、映画制作と並行して、音楽活動も継続。今年6月にはセカンドアルバム『PURSUE』をリリース。後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、堀込泰行、ヒグチアイなどが参加した本作は、彼女自身の20代を詰め込んだ作品だとか。

「今年は30歳になる年だったこともあって、自分の20代を凝縮したアルバムにしようと決めて制作に入りました。『PURSUE(パーシュー)』(追求する、求める)というタイトル通り、追求しまくった20代だったと思いますね。音楽レーベルを作ったり、絵を描いたり、ブランドを立ち上げたり。役者としても、映画「さかなのこ」では男の子(さかなクン)の役に挑戦したことが大きかったです。シリアスになり過ぎず、楽しく、軽やかに活動していけたらいいなと思ってますね」

“のん”という名前は、「Nonと言える人」「Nonを叩きつける人」という意味合いを込めて付けたという。日本のエンターテインメントの常識の枠を超え、映画、音楽、ファッション、アートなど幅広い分野で創造性を発揮している彼女は、これからも“Non!”を叩きつけながら楽しさと刺激に溢れた作品を生み出すことになりそうだ。

「自分の意見のない場所が苦手なんです。自分でプロジェクトを動かすスタイルが合っていると思うし、責任の所在が自分にある状態がしっくりくるんですよね。もちろん“Yes”も言いますけど(笑)、“Non”と言えない人にはなりたくない。そのうえで、好きなことを続けていきたいなと思ってます」

(森 朋之)