家族で暮らす名古屋が気に入っているというが…

 巨人を自由契約になった中田翔が中日に入団することが今月6日、正式に発表された。メディア報道によると、中日は2年総額6億円の好条件を提示したという。球団史上初の2年連続最下位に沈み、総得点はリーグワーストの390と深刻な得点力不足がネックとなっていた。日本ハムで「不動の4番」を務めて打点王を3度獲得、巨人でも勝負強い打撃を発揮してきた中田の加入は、打力強化で大きなプラスアルファになるだろう。

 今オフ、中日は巨人の戦力構想から外れて退団した中島宏之の獲得も発表している。中島は代打の切り札として期待されるが、一塁も守れる。実際に巨人では昨年まで中田が一塁のレギュラーを務め、中島が一塁のバックアップとして入っていた。2人が中日に加入したことで、チーム構想がガラッと変わる。窮地に立たされたのが一塁のレギュラーで、長年中軸を担っていたダヤン・ビシエドだ。

入団会見で球団マスコットの「ドアラ」を手に笑顔の中田

 ビシエドは2018年に打率.348、26本塁打、99打点をマークして首位打者、最多安打(178本)のタイトルを獲得。昨年も打率.294、14本塁打、63打点で得点圏打率.308と数字だけを見れば決して悪くなかったが、今年は苦しいシーズンとなった。打撃不振で3度のファーム降格を経験するなど91試合に出場し、打率.244、6本塁打、23打点。立浪和義監督から体が前に突っ込む悪癖の修正を求められて試行錯誤したが、なかなか改善できなかった。相手バッテリーに内角を執拗に攻められて好機で内野ゴロに倒れるケースがここ数年目立つ。得点圏打率.205と精彩を欠いた。ビシエドの状態が上がらないため、細川成也、宇佐見真吾、石川昂弥と本職が一塁でない選手をスタメンで起用せざるを得なかった。

中日への愛着は強いという

  スポーツ紙デスクは、こう指摘する。

「年齢を重ねて以前よりスイングスピードが落ちている分、体が突っ込んでボールと衝突するような打ち方では安打や長打を量産できなくなっている。立浪監督とは打撃フォーム改造の重要性を何度も話し合ってきました。体になじんだ打ち方を変えるのは難しいと思いますが……」

■強打者の宿命

 ビシエドは89年3月生まれの34歳。坂本勇人(巨人)、柳田悠岐(ソフトバンク)、宮崎敏郎(DeNA)、秋山翔吾(広島)、田中将大(楽天)、前田健太(タイガース)ら名選手たちと同学年の黄金世代だ。加齢による衰えを指摘する声が多く聞かれるが、実は他球団からの評価が高い。

 パ・リーグ球団の編成担当は「打撃を大幅に変えなくても打率3割、20本塁打はクリアできる」と断言する。

「ビシエドは来日当初から現在の打ち方で成績を残してきた。スイングスピードが落ちたことが取り上げられますが、問題はそこではない。元々が中距離打者でライナー性の打球が多い。本塁打を求めるから打撃のバランスが崩れるのだと思います。広いバンテリンドームではなかなか本塁打が出ないですから。打撃フォームより、ボール球に手を出さないアプローチに重点を置けば輝きを取り戻せると思います。併殺打が多いことが指摘されますが、強打者の宿命です。弱点にフォーカスするより、広角に安打を打ち分けられる打撃技術を評価すべきです。変化球への対応力が高いし、日本野球を熟知している。一塁、指名打者で十分に戦力になります」

2016年、中日に加入して1年目、3、4月度の月間MVPに選ばれた

 ビシエドと対戦するセ・リーグの球団スコアラーも、「怖い打者であることは間違いない」と強調する。

「中日の首脳陣の指導法がどうこうではなく、ビシエドの長所を伸ばす指導者に巡り合えば変わると思います。タイプ的には本塁打を量産するタイプでなく、外野の間を射抜く鋭い打球が多いので5、6番のほうが力を発揮できる。真面目な性格と聞いているので、4番で起用されると『自分が走者を還さなければ』と余計な力が入っているように見えた。得点力不足が深刻な状況だったらなおさらでしょう」

 そしてこう続ける。

「今年好調を持続できなかったのは打撃技術だけでなく、精神面での影響もあったのではないでしょうか。トレードとなれば金銭面が大きなハードルになりますが、そこをクリアできれば獲得に乗り出す球団は複数あると思いますよ。優良の助っ人外国人が獲得できない時代で、ビシエドは十分に計算できる。来季は日本人扱いになるので、起用法で外国人枠を気にしなくてよいのも大きなメリットです。打率.280、15本塁打、70打点はクリアできるでしょう」

■最大のネックは年俸面

 中日で置かれた立場を考えると、中田、中島の加入で来季の出場機会が減少するのは必至だ。他球団の評価が高い状況を考えるとトレードの選択肢が考えられるが、最大のネックは年俸面だ。来季が複数年契約の最終年で推定年俸は3億5000万円。18年オフに大型契約を結んだが、当時より円安が進んでおり、現在はさらに年俸がはね上がる。移籍の場合は中日が年俸の大部分を肩代わりする形でなければ、獲得に動く球団が出てくることは考えづらい。

 最も気になるのは、ビシエドの思いだ。中日を取材するスポーツ紙記者はこう語る。

「外国人選手はシーズンが終わるとすぐに帰国するケースが多いなか、ビシエドはオフの球団納会やファンフェスタにも参加する。家族で暮らす名古屋が気に入っており、中日への愛着は強い。選手たちの人望も厚く、その存在はグラウンド上で残す数字以上の影響力があります。外国人選手たちの面倒見がよく、悩みなどにも耳を傾けてアドバイスする。これほど中日ファンに愛された助っ人は過去にいなかったでしょう。ただ、一人の野球人として試合に出たい思いは当然あるはず。一塁のレギュラーを固定できていないチームは多いですから、条件次第で需要はあるでしょう。中島は故障のリスクを抱えていることから、球団は来季もビシエドを必要な戦力と考えていると思いますが、本人が他球団への移籍を志願するということになれば状況が変わってくる」

 思えば、中田も昨オフに巨人と年俸3億円の3年契約を結んだが、1年ごとに契約の見直し、破棄ができる「オプトアウト」を行使して今オフに自由契約で退団。出場機会を求め、中日に入団した。かつてビシエドを指導した球団OBは「一年でも長く中日でプレーしたいのでは。ビシエドが自分から退団を決断することは考えづらい」と予測するが、来日9年目の来季もドラゴンズブルーのユニホームに袖を通すか。功労者の動向が注目される。

(今川秀悟)