記者会見に臨む松野博一官房長官=12月7日、首相官邸

 自民党の最大派閥、清和政策研究会(安倍派)の政治資金パーティーによる裏金作りの疑惑で、同派の松野博一官房長官が直近5年間で派閥から1千万円を超える裏金のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあると報じられた。東京地検特捜部による関係者への聴取も進んでおり、安倍派議員の秘書らに話を聞くと、危機感が広がっているという。13日には臨時国会が終了する。特捜部はその後、議員本人からも事情を聴く方針だ。検察はどのクラスの議員までの立件を視野に入れているのか。

 12月6日朝、東京地検の関係する施設に姿を見せたのは、安倍派の副大臣の事務所関係者。検察の取り調べ要請を受けて出向いたという。

 安倍派では、派閥のパーティー券のノルマは、新人議員なら「30枚、60万円分」。幹部クラスになると100枚単位に増えるという。

 安倍派のベテラン秘書がこう話す。

「ノルマ以上売れた分は、派閥から議員側にキックバックで戻されます。これはどこの派閥も同じです。安倍派は、たいていの議員は政治資金収支報告書に記載していない裏金になっているとみられており、特捜部が調べているようです。すでに会計責任者、担当者は特捜部から何度も呼ばれています」

■議員の遊び代に消えるケースも

 そして、安倍派の衆院議員の一人は、

「うちは調べのときに、帳簿や名簿など政治資金収支報告書などで公開されていないものも特捜部に出してしまって、一気に捜査が進展していると幹部から聞かされました」

 と明かした。

 前出の安倍派のベテラン秘書は、

「いつ特捜部に呼ばれるかびくびくしています。キックバック分の金額はパーティー券10枚足らずだが、政治資金収支報告書には記載していないので、裏金になっています。うちの場合の使途は、議員が選挙用に蓄えていました。なかには、キックバック分が数十枚分に及び、100万円を超す議員もいます。それが飲み食いなど遊び代に消えているケースもあります。本当のことをしゃべったらアウトだ。秘書のクビどころか、議員もバッジが飛んでしまう」

 と深刻そうに語るのだ。

 安倍晋三元首相が7年8カ月、首相の座についていたこともあり、安倍派は膨張した。安倍氏が2度目の首相についた当時、安倍派は80人ほどだった。しかし、長期政権の間に派閥の勢力はさらに拡大し、100人の大台を超えたこともあった。

 派閥のパーティー券は、すべての議員に割り当てられる。派閥のパーティーの売り上げも大きくなり、ノルマを超えた分のキックバックも増えたことになる。

■ノルマのクリアだけでは出世できない

 安倍派の閣僚経験者は、

「これまで派閥の政治資金は絶対に大丈夫とされてきた。それに特捜部が手を付けるとなると、派閥のボスや、安倍派なら約100人の議員と対決することになる。それでも検察はうちとやりあうつもりなのだろうか」

 と語り、こう続けた。

「5人衆を含めたうちの幹部が、10月ごろから時々、弁護士事務所に行って話し込んでいると聞いていた。今思えば、パーティー券のキックバックのことだったのではとも思う。派閥の幹部は300枚、600万円分などの割り当てがくる。けど、ノルマをクリアする程度では出世できないので、それ以上をさばこうとする。そうなるとキックバックも増える」

安倍派のパーティーで紹介を受ける安倍派の党役員や閣僚ら=2023年5月、東京都港区

 パーティー券をめぐっては、昨年12月の政治資金パーティーの売り上げを記載しなかった薗浦健太郎・前衆院議員(麻生派)について特捜部が捜査に乗り出し、4千万円を超える不記載が発覚した。パーティーを開きながらほとんど収入を計上していなかった例もあった。薗浦氏やその秘書は政治資金規正法違反の罪で罰金刑の有罪となった。

 薗浦氏の例もそうだが、これまで政治資金に関する事件は、議員個人のお金にかかわるものだった。それが派閥に広がった背景について、ある検察幹部はこう語る。

「薗浦氏の捜査で派閥の政治資金、パーティー券の実態が明らかになったことが今回の捜査につながっている。安倍派は100人を超え、安倍元首相が長期政権で強大な力を持つようになり、パーティーの収入もかなり増えた。つまり、キックバックされて裏金化している金額も大きくなっているということ。一方で、国民からすると、賃金はあがらず、安倍政権で消費税が2度も上がった。政治家ばかりが優遇されていて、おかしいと疑問に思っている国民は多くいるはずだ」

■キックバックをもらったことが2回ほど……

 前出の安倍派の衆院議員は、

「キックバックの多い議員の秘書から特捜部に呼ばれているようです。議員は、政治資金収支報告書への不記載などの容疑でやられるのでは。岸田政権として怖いのは、派閥の幹部が立件されること。大変なことになる。幹部クラスは毎晩のようにこっそり会合を開いたり、弁護士に相談したりして、深刻そうな顔をしています」

 と危機感をにじませる。そしてこう打ち明けた。

「実は私もキックバックをもらったことが2回ほどあります。特捜部が捜査している人と比べたら少ない金額です。まあ10万円とかそんなレベルですが。封筒に入れられて、派閥幹部からもらいました。私のような金額でも特捜部から呼び出しがあるかも、と先輩議員から言われて、安心して眠れません。以前、細田博之会長(当時)から『もっとたくさん買ってもらえるように頑張りなさいよ』と声をかけられました」

 派閥の前会長の安倍元首相や、その前の会長の細田氏はすでに他界している。実質的に派閥を仕切るのは事務総長だ。特捜部は2018〜22年に安倍派で1億円超が裏金になったとみて調べている。その時期の事務総長には、下村博文元文部科学相のほか、松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、高木毅国対委員長と「5人衆」が含まれる。

安倍派の例会の会場に入る下村博文・元文部科学相=12月7日、永田町の自民党本部
衆院予算委で答弁する西村康稔経済産業相=12月8日
安倍派の例会に臨む高木毅国会対策委員長=12月7日、永田町の自民党本部

 過去に衆院選に出馬し、政治資金収支報告書も提出した経験がある元検事の落合洋司弁護士はこう話す。

「元東京高検検事長の黒川弘務氏の定年延長、桜を見る会、森友学園と、安倍政権で起きた問題で、検察はやられっぱなしの感じだった。今回、安倍派を最大のターゲットにしているのは、一矢報いたいという思いがあるのではないか。現状の報道などを見ても、会計責任者程度なら政治資金規正法違反容疑で立件できるでしょう。ポイントは、キックバックが多かった国会議員よりもさらに上の事務総長クラスの共謀を立証できるかどうか。おそらく安倍派側は『事務方に任せていた』などと言って共謀はなかったと主張するはず。そこを特捜部が突破できるか」

■ロッキード、リクルート事件並みの可能性も?

 宏池会(岸田派)のスタッフから自民党本部で政務調査役を20年以上経験した政治評論家の田村重信氏は、

「政治資金規正法は『規制』ではなく『規正』。正しいという字が使われています。いわゆる政治家の性善説、きちんとやるはずという前提です。私が宏池会にいたときは、今とはルールが違う古い時代の話ですが、派閥のパーティー券を現金で払う人も多かったけど、それなりに収支はきちんとしていた記憶があります」

 と振り返りつつ、今回の捜査についてこう語った。

「自民党の知り合いと話すと、特捜部が動かざるを得ないほどやりすぎた感がある。もう性善説とは言い難い。大物の国会議員が立件されるとなれば、古くはロッキード事件やリクルート事件並みの大スキャンダルになりかねません。どちらの事件も総理大臣の進退にかかわった。今回も岸田政権を大きく揺るがすことになりかねない」

(AERA dot.編集部・今西憲之)