胡蝶しのぶ(左)と冨岡義勇。「柱稽古編」のティザービジュアルより(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

アニメ『鬼滅の刃』の新シリーズ「柱稽古編」の放送が2024年春から始まると発表された。鬼殺隊の中でも最強の剣士と称される「柱」たちが一堂に会することはほぼなく、炎柱・煉獄と音柱・宇髄以外の全員がそろうのは、「立志編」以降はじめてのことである。しかし、柱稽古という大切な訓練に、水柱・冨岡義勇と蟲柱・胡蝶しのぶは参加しようとしない。一体なぜか。その背景には、彼らが背負う特殊な事情と、2人に共通する苦悩があった。

【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■紛糾する緊急柱合会議

 久々に「柱(はしら)」たちが産屋敷邸に集結する。これはアニメ新シリーズで期待される見どころのひとつだ。前回は鬼の禰豆子(ねずこ)を連れた炭治郎に対し、柱たちから口々に厳しい言葉が飛び交ったが、今度の会議では、柱たちの機嫌は決して悪くない。刀鍛冶の里で「上弦の鬼」(※鬼の中の上位実力者)が2体も出現したにもかかわらず、参戦した炭治郎と禰豆子、不死川玄弥(しなずがわ・げんや)、霞柱・時透無一郎(ときとう・むいちろう)、恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじ・みつり)らが五体満足で生還したためだろうか。いつもは怒りっぽい風柱・不死川実弥(さねみ)すらも、彼らと上弦との遭遇話に「あーあァ 羨ましいことだぜぇ」と軽口をたたくほどだった。

 しかし、比較的和やかに始まったこの会議も、特定の剣士だけに発現する「ある現象」の深刻さと、水柱・冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)の言動によって、場の空気が一転してしまう。重要な会議にもかかわらず、義勇は「俺には関係ない」と中座しようとし、実弥が「待ちやがれェ!!」と怒鳴りつける一幕があった。

■柱であることを否定する義勇

 優れた戦闘力、多彩な技、判断力の高さなど、冨岡義勇の実力は誰の目から見ても明らかである。しかし、彼自身は自分のことを“低く”評価していた。

「俺は水柱じゃない」(冨岡義勇/15巻・第130話「居場所」)

 かねて義勇は、自分は水柱としての資格に欠けていると悩んでおり、入隊試験「最終選別」の際に他の隊士から助けられたこと、その人物が義勇らをかばったために命を落としたことがつらい記憶となっている。

 鬼殺隊総領・産屋敷耀哉も「どうしても独りで後ろを向いてしまう」と義勇を心配しているのだが、義勇はかたくななままだった。

「俺は水柱になっていい人間じゃない そもそも柱たちと対等に肩を並べていい人間ですらない 俺は彼らとは違う」(冨岡義勇/15巻・第130話「居場所」)

 他の柱たちに促されても、炭治郎から頼まれても、なかなか柱稽古に参加しようとしない。

 一方で、蟲柱・胡蝶(こちょう)しのぶもまた「柱稽古に参加しない」という決意を固めていた。継子の栗花落(つゆり)カナヲから、「私もっと師範と稽古がしたいです」と告げられて、めずらしくはにかんだようにほほ笑みつつも、その意志を曲げることはなかった。しのぶは他の隊士たちにも秘密裏のうちに、ある上弦の鬼を倒すための過酷な計画を立てていたのだった。

「私の姉カナエを殺した その鬼の殺し方について 話しておきましょう」(胡蝶しのぶ/15巻・第131話「来訪者」)

■己の戦い方を問い続けるしのぶ

 小柄できゃしゃな自分の体格の弱点を十分に自覚しつつ、苦悩の果てにしのぶが選んだ方法は、しのぶにとっても、カナヲにとっても“極めて残酷な”選択だった。毒を使う「蟲柱」としての戦い方――この作戦の成功のために、しのぶは柱稽古には参加せずに、自分ひとりで厳しい条件を整える。

「力が弱くても 鬼の頸が斬れなくても 鬼を一体倒せば何十人 倒すのが上弦だったら 何百人もの人を助けられる できる できないじゃない やらなきゃならないことがある」(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

 しのぶの意志は固く、それを告げられたカナヲも止めることができなかった。

 最終決戦を前にしたこの局面で、あれほどの強さを誇りながらも、義勇としのぶは「自分の才」に疑問を持っており、柱稽古編では2人の“弱音”も語られる。しかし、2人がこの訓練に参加しようとしなかったのは、単純に「自分のマイナス要素」にとらわれていたからではない。

 義勇には炭治郎という弟弟子が、しのぶには継子のカナヲがいた。彼らは師弟関係のようでありながら、同時に「命の恩人」として面倒を見ていた。弱かった炭治郎、親に売られたカナヲを守ったのは、義勇としのぶの慈愛によるものだ。

 そして、ストーリー上、示唆的であるのは、カナヲが使用しているのはしのぶの「蟲の呼吸」ではなく、しのぶの姉・カナエの「花の呼吸」であることだ。さらに炭治郎は義勇と同じ「水の呼吸」から「ヒノカミカグラ」の使い手へとなっている。

 若い剣士たちの大いなる成長が、義勇としのぶの考えに変化をもたらす。柱稽古編では「守り・守られる関係」からの転換期も描かれる。

■義勇の決断としのぶの覚悟

 炭治郎とカナヲの成長は目を見張るほどだったが、それでもなお、義勇としのぶは彼らを守ろうとする行動が抜けきらない。それは炭治郎とカナヲに「幸せな日常」を与えてやりたいと切に願っていたからだ。

〈幸せの道は ずっとずっと遠くまで続いているって 思い込んでいた〉(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

 自分よりも強い姉が、先に柱となり戦闘中に死んでしまったしのぶ。自分を守るために死んでしまった姉を持つ義勇。2人とも「姉の死」によって、どうしようもない喪失感と、自分の力のなさを痛いほど感じながら生きてきた。今度こそは死なせない、という思いの強さが、彼らの「単独行動」の要因となっている。

 柱になってからも、ぎこちない笑顔しか見せることができない義勇と、湧き起こる怒りを抑えながら、周りの人たちのために優しくほほ笑もうとするしのぶは、不器用さが似ている。すぐに黙ってしまうのも、すぐに怒ってしまうことも、彼らの愛情の発露である。

「必ず私が鬼を弱らせるから」(胡蝶しのぶ/19巻・第162話「三人の白星」)

「もう二度と 目の前で家族や仲間を死なせない」(冨岡義勇/18巻・第154話「懐古強襲」)

 もう少し物語が進むと、あるタイミングで禰豆子が彼らのことを思い出す場面が描かれる。義勇は心配そうに禰豆子を見守っており、しのぶは困ったようにではあったが、禰豆子に穏やかに語りかけていた。不器用で厳しい2人の「本当の気持ち」を若い隊士たちも分かっていた。最終決戦に向けて戦いが激化する中で、義勇としのぶは、すべての隊士たちの心の支えとなり続けている。

 義勇の決断もしのぶの覚悟も、彼らの苦悩の半生から生まれたものだ。自分以外にそんな悲しみを与えたくないという苦い気持ちが、彼らを強く成長させた。アニメ新シリーズは、義勇としのぶが秘めている決意と覚悟、それを受けた隊士たちの成長も見どころのひとつとなるだろう。