卓球・世界選手権団体戦の南アフリカ戦で「完封」した平野美宇(画像はクロアチア戦)

 18日の卓球・世界選手権団体戦で、日本女子チームは3-0で南アフリカに快勝した。しかし、木原美悠選手と平野美宇選手がともに第1ゲームを11-0で完封勝ちしたことについては、SNS上で「0点いつからオッケーになったの?」などと疑問の声が……。卓球界に残る「完封(ラブゲーム)は相手に失礼」という“謎マナー”をどう受け止めるのか、日本卓球協会にズバリ聞いてみた。

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 世界選手権団体戦の女子1次リーグ第3戦。木原VSパテルの第1試合と、平野VSサスマンの第2試合では、木原と平野がそれぞれ第1ゲームをラブゲームで勝利した。

 しかし、かつての卓球界では一部の選手の間で、「ラブゲームはマナー違反」とする独特な文化があった。それを知る人は、木原と平野は10-0になった段階でわざとミスするなどして相手に得点をあげるべきでは? と違和感をおぼえたようだ。

南アフリカの先週に「完封」で勝った木原美悠

 ラブゲームにまつわる“暗黙の了解”の起源について、日本卓球協会専務理事の宮﨑義仁氏は「自然発生的に起こった現象だと思う」と話す。

「10年ほど前、中国人選手を中心とした何人かが、10-0になったときにわざと相手に1点をあげるということをやりはじめたようです。もしかすると、気の緩みによって点をとられただけかもしれませんが、そういうプレーを見た誰かが、『ラブゲームを避けることがマナーなんだ』と勝手に言い出して、一部ではやってしまったのかなと」

早田ひなも真剣勝負を繰り広げた(画像はクロアチア戦)

■選手からは「試合がやりづらくなる」

 しかし、突然生まれた謎のマナーには、困惑も広がった。3〜4年ほど前、宮﨑氏は日本人の選手から相談を受けたという。

「そのころ、ネットニュースでラブゲームはダメだと大きく取り上げられたんです。すると、ある選手が僕のところに来て、『試合がやりづらくなるので、宮﨑さんから他の選手たちに、11-0で勝ってもいいんだとはっきり言ってもらえませんか?』と。私としては、そんなバカなことをわざわざ言う必要があるのか? と疑問でしたが、後日、『くだらないニュースは気にしないで、0本で勝てるときは勝ち切りなさい』と伝えました」

 相手に情けをかける気持ちは殊勝だが、あくまでもプロ同士の勝負の世界。10-0までこぎつけた後に、11点とられて負けるケースはないのか。

 宮﨑氏は「10-0からの逆転は見たことがない」としつつも、2021年の東京五輪で繰り広げられた、水谷隼&伊藤美誠ペアの大逆転劇を例に出す。

「ドイツと戦った混合ダブルスの準々決勝で、水谷と伊藤は2-9から逆転勝ちしました。いつ何が起こるか分からないのが、卓球。1点与えたら、そのあと10連チャン取られるかもしれない緊迫感と恐怖はみんな持っています」

水谷隼&伊藤美誠ペアは「2‐9」から逆転勝ちしたこともある

■トップ選手の世界ではほとんどない

 特に、実力が拮抗(きっこう)した強い選手同士であれば、なおさらだ。たとえば日本代表の選手が強豪の中国人選手と戦って、たまたま良い流れに乗れて10-0になったとしても、そこで1点差し出すことは「自殺するようなもの」(宮﨑氏)だという。

「少なくともトップ選手の世界では、ラブゲームを避けるプレーなんてほとんど見られないし、今後もないと思います。こんなバカらしい話題は、早くなくなったらいいのにと思います」

 宮﨑氏の、ほとほと愛想を尽かしたような顔が、真剣勝負の世界の厳しさを物語っていた。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)