第213回国会の開会式でおことばを述べたときの天皇陛下=2024年1月26日 代表撮影

 23日、天皇陛下が64歳のお誕生日を迎えられた。誕生日に先がけ記者会見を行うが、毎年必ずお話しされるのは、妻である雅子さま、愛娘の愛子さまのことだ。愛子さまはこの春、学習院大学を卒業するが、そんな節目の年に、愛子さまについて語られた言葉を振り返ると天皇陛下の深い愛情と大切にしてきたものが見えてくる。

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 天皇陛下の誕生日の記者会見は、お誕生日の2月23日の前に行われる。天皇、皇后両陛下の長女、愛子さまがお生まれになった2001(平成13)年12月1日の翌年のお誕生日には、命名に当たり、その思いを語られている。

 漢文学や国文学の専門の方々から複数の候補があがり「敬宮」「愛子」さまと命名された。

「敬と愛の二文字が入っているのも良いと思いました」と天皇陛下(当時、皇太子殿下)は記者会見で語り、命名への思いを明かされた。

「孟子の言葉にあるように,人を敬い,人からも敬われ,人を愛し,人からも愛される,そのように育ってほしいという私たちの願いが,この名前には込められております」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成14年より)

 その翌年2003(平成15)年の記者会見では、イクメンぶりも明かしている。

1歳の愛子さまを抱いた皇太子さま(当時)と雅子さま。那須御用邸へ向かうため、JR那須塩原駅に到着し、歓迎する人たちに応える=2002年5月8日 代表撮影

「私自身子供をお風呂に入れたり,散歩に連れて行ったり,あるいは,離乳食をあげることなどを通じて子供との一体感を強く感じます。

 国内でも広く母親の育児の負担の軽減についての議論がなされているようですけれども,父親もできるだけ育児に参加することは,母親の育児の負担を軽くすることのみならず,子供との触れ合いを深める上でもとても良いことだと思います」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成15年より)

 最近では男性の育児休暇の取得など子育ての環境は少しずつ変化していっているが、天皇陛下も母親の育児負担軽減を社会の課題と掲げられ、この頃から自ら実践されていた様子がうかがえる。

栃木県の沼原湿原を散策し、休憩。雅子さまに抱かれた愛子さまが、手を伸ばして皇太子さま(当時)の顔に触れる。皇太子さまが手にしているのは愛子さまを背負うためのベビーキャリー。ご一家の笑顔が弾ける=2002年8月16日 代表撮影

 また、「3、4メートル歩けるようになった」ばかりの愛子さまへの感動も明かされた。

「もうその日の夕方には,その3倍ぐらい歩くようになっておりまして,私自身も今お話したように,子供の成長が非常に速いということに改めて驚いております」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成15年より)

“その3倍”という表現に、驚きと深い感動が込められている。また、よちよち歩きの愛子さまをずっと見守る天皇陛下の深い愛情が伝わってくる。

「愛子の養育方針」として語ったのは平成17年だった。このとき、愛子さまは3歳。

「3歳という年齢は今後の成長過程でも大切な時期に差し掛かってきていると思います。愛子の名前のとおり,人を愛し,そして人からも愛される人間に育ってほしいと思います。それには,私たちが愛情を込めて育ててあげることが大切です。つい最近,ある詩に出会いました」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成17年より)

葉山御用邸近くの海岸・小磯の鼻を散策するご一家。葉山御用邸(後方)近くの海岸・小磯の鼻へ散策に出て、砂遊びの道具を手に、迎えた地元の人たちを見つめる愛子さまと、笑顔で手を振る皇太子さま(当時)と雅子さま=2003年4月13日 代表撮影

 天皇陛下がいう詩とは、ドロシー・ロー・ノルトというアメリカの家庭教育学者の作った「子ども」という詩で,スウェーデンの中学校の社会科の教科書に収録されているという。記者会見では「子ども」を朗読している。

『批判ばかりされた 子どもは

非難することを おぼえる

殴られて大きくなった 子どもは

力にたよることを おぼえる

笑いものにされた 子どもは

ものを言わずにいることを おぼえる

皮肉にさらされた 子どもは

鈍い良心の もちぬしとなる

しかし,激励をうけた 子どもは

自信を おぼえる

寛容にであった 子どもは

忍耐を おぼえる

賞賛をうけた 子どもは

評価することを おぼえる

フェアプレーを経験した 子どもは

公正を おぼえる

友情を知る 子どもは

親切を おぼえる

安心を経験した 子どもは

信頼を おぼえる

可愛がられ 抱きしめられた 子どもは

世界中の愛情を 感じとることを おぼえる』

 この詩を読み終え、「家族というコミュニティーの最小の単位の中にあって,このようなことを自然に学んでいけると良いと思っております」としたうえで、まだ3歳の愛子さまの「将来」について語られた。

「愛子が公務を始めるというのではなく,私たちがやっている姿を見せることも大切と考えます。3歳になりましたので,いろいろな意味で社会性を身に付けていくことも大切と思っています。

 言葉もかなり自由に出ますので,日常生活でのあいさつや,これはもう前からしておりますが,食事のときの「いただきます」,「ごちそうさま」など,また,何かしてもらったときの「ありがとう」という言葉などは大切と思っています」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成17年より)

 詩「子ども」を引用しながら天皇陛下が語る愛子さまへの思いは、改めて私たちにも大切なことを示してくれている。

 天皇陛下、そして雅子さまからの愛情を注がれて育った愛子さまだが、天皇陛下の記者会見で語られる様子ではなかなかのアクティブな女の子だ。

「5年生から始めたバスケットボールクラブでは,初めての対外試合で他校を訪れ,他校の皆さんと試合を行ったり,初等科での試合の場合には,試合後は交流も行ったり,非常によい経験になっているように思います。

 また,この冬休みには,親元を離れて,初めてお友達とスキー合宿に参加するなど,お友達との活動の場も増えてきました。今回のスキーは愛子にとっては,3年近く前の春休み以来の久しぶりのスキーとなりましたが,たくさん練習し,少し上達したようで,本人にとっても,自信が付いたことと思います」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成25年)

皇太子(当時)ご夫妻と卒業式に向かう、愛子さまと皇太子ご夫妻=2017年3月22日、東京都新宿区 代表撮影

 バスケにスキーの他、学習院女子中等科2年生の愛子さまは水泳も上達された。

「沼津の臨海学校では,約3kmの遠泳を泳ぎ切るなど,水泳は目覚ましく上達したようです」(皇太子殿下お誕生日に際し/平成28年)

 この頃から、天皇陛下の愛子さまへの接し方の変化が、記者会見の言葉から垣間見えてくる。

「健やかに成長していくよう,雅子と共に見守っていきたいと思います」(平成25年)から、「将来については,愛子も高校生になり,自分の将来についても思いを巡らす時期になっていると思いますので,雅子も私も,愛子本人の希望をよく聴き,相談に乗っていきたいと思っています」(平成30年)というように、見守るから本人の希望に寄り添うものに移行する。

 進路を考える時期に差し掛かり、天皇陛下は「本人の希望を聴き」「相談に乗っていきたい」という言葉を繰り返されている。この気持ちは雅子さまももちろん一緒だ。改めて仲が良いといわれる天皇ご一家の様子が目に浮かぶ、愛子さまを見守る、思いのある言葉だ。

 学習院大学への進学が決まった以降、天皇陛下の愛子さまへの言葉の中には、「感謝と思いやりの気持ちを大切にしながら」(令和2年)というフレーズが必ず入ってくる。

「感謝と思いやりの気持ちを持って,一つ一つの務めを大切に果たしていってもらいたいと思います」(天皇陛下お誕生日に際し/令和3年より)

 そして、愛子さまが成年皇族の記者会見を行った翌年には天皇陛下はこう語られた。

「愛子が記者会見でも述べたように、自身のこれまでの経験は周りの多くの方の支えや協力があったからであり、これまで様々な形で支えていただいた皆さんに感謝する気持ちを持ってくれていることを、私たちとしてもうれしく思いました」(天皇陛下お誕生日に際し/令和5年)

天皇、皇后両陛下の長女愛子さまは、成年皇族として初めての記者会見に臨んだ=2022年3月17日午後、皇居・御所「大広間」 代表撮影

 愛子さまが立派に果たされた成年皇族としての初めての記者会見は、天皇陛下が願い続けてきたことに、愛子さまも応えた瞬間だったのだろう。

 愛子さまが生まれた2001年から皇室番組の放送作家を務めるつげのり子氏は、お誕生日の記者会見で天皇陛下が愛子さまに向けて述べられた言葉について感慨深げにこう話す。

「そもそも敬宮愛子さまのお名前には天皇皇后両陛下の思いが本当に込められていますよね。

 毎年、お誕生日には愛子さまの成長ぶりをお話しされていますが、印象深いのは平成17年に愛子さまの養育方針について一遍の詩を引用されたときです。

 その詩の中に〈可愛がられ 抱きしめられた 子どもは 世界中の愛情を 感じとることを おぼえる〉という一節があります。その言葉は陛下にとって、子育てにおける大きな指針になられたのではないかと思います。

 だからこそ、愛子さまが誰に対しても愛する心を持ち、また愛される人になって、感謝と思いやりの気持ちを持つように成長を見守ってこられたのだと思います。

“感謝と思いやりの気持ちを持って”という言葉は、令和になってから毎年語られています。詩を引用された当時から、その一節を念頭に置かれて愛子さまに接してこられたのだと思います」

 記憶に新しい愛子さまの昼食会デビューの素晴らしい姿は、天皇陛下と雅子さまの愛情の結晶だったように思えた。(AERA dot.編集部・太田裕子)