政倫審出席後に取材に応じた安倍派の西田昌司氏(撮影/上田耕司)

 自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で14日、参議院政治倫理審査会(政倫審)が開かれ、安倍派の世耕弘成前参院幹事長と橋本聖子元五輪相、西田昌司氏が出席した。政倫審で西田氏は“身内”であるはずの安倍派幹部の証言に「納得できない」と批判。自身の疑惑釈明ともあいまって、発言は物議をかもした。なぜ今、幹部批判を展開したのか。政倫審に出席後の西田氏に、AERA dot.が単独インタビューした。

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 参院の「政倫審」は、裏金作りが判明した参院議員31人と在宅起訴された大野泰正参院議員(自民党を離党)の計32人が審査対象となったが、結局、出席したのは世耕氏、橋本氏、西田氏の3人だけ。

 約2400万円のキックバックが判明した山谷えり子氏や、政治刷新本部メンバーの“エッフェル姉さん”こと松川るい氏、822万円の不記載があった元アナウンサーの丸川珠代元五輪相ら28人の自民党参院議員は出席しなかった。

 朝日新聞(3月15日付)では、「複数の派閥幹部から、電話で『政倫審に出るな』と指示された」という安倍派議員の証言が掲載されたが、西田氏にも圧力はあったのだろうか。

「私に対しては『出るな』という圧力はありませんでした。とはいえ結果としてほとんどの同僚議員が出なかったので、そういう(圧力があったような)雰囲気は感じましたね。ただ、政倫審に出るか出ないかは、それぞれの議員の判断だと思っています。私はブログやYouTube、街頭演説でも身の潔白を主張し続けていますが、それでもあえて政倫審に出たのは、いくら自分で発信しても限界があると感じたからです。国会での答弁は議事録に残るし、テレビ中継もあるのだから、発言の重さが全然違います。また、派閥の幹部が説明責任を果たしていないことを、国民のみなさんに広く知ってもらうことにもなると考えました」

政倫審で野党議員からの質問に答え世耕弘成前参院幹事長

■世耕氏は「よくそんなことが言えるなと」

 14日の政倫審には、安倍派幹部“5人衆”の1人である世耕氏も出席した。だが、世耕氏は野党からの質問に「記憶にない」「わからない」「知らない」などと20回以上も繰り返し、世間からも大きな批判を浴びた。西田氏はこの答弁をどうみたのか。

「世耕さんは安倍派の参院議員の会『清風会』の会長でした。これまでは衆院に対して、参院が軽くあしらわれたら『いいかげんにしろ』と闘ってきた人でもあります。その人が政倫審では『私はただ安倍派参院議員への連絡をするだけの役目』『衆議院を含む清和会全体の運営に関与することはなかった』などと弁明する。さらに、『清風会』については『ただの親睦会です』とまで言っていました。つい最近まで自民党参議院の幹事長までやっていたのに、よくそんなことが言えるなと思います」

 一方で、西田氏は自身のキックバックについては「報道で知った」「われわれも巻き込まれた」などと答弁したことで、世間からは厳しい声も上がった。西田氏がこれまでキックバックに気づかなかったのはなぜなのか。

「まず、時系列から言うと、私の事務所の秘書が、約10年前に先代の事務局長から呼ばれ、政治資金パーティーの『還付金』を現金で渡されました。その際に『政治資金収支報告書には記載するな』と言われたのです。うちの秘書が『記載させてください』と主張すると、事務局長からは『少し考えさせてくれ』と言われたそうです。そして翌日、『やっぱり記載はダメ』と言われ、現金を渡されたと。他の人も皆受け取っているから、西田事務所も受け取ってくれということ。つまり、派閥から不記載を強要されたんです」

西田昌司氏(撮影/上田耕司)

■良心に恥じることは何もない

 この秘書は、一連のやりとりを西田氏に告げると、氏の性格上、「何やっているんだ!」と事務局長らに抗議するなどして、派閥内での立場が悪くなってしまうかもしれないと危惧したという。そこで秘書の一存で、毎年受け取った現金は、その翌年の派閥パーティーのノルマ充当分にまわすことに決めたという。

 西田氏によると、ノルマは最初は40〜50万円程度だったが、それが100万円、190万円とだんだんと上がり、当初からノルマ達成に苦労していた。

 しかしコロナ禍の2021年、22年と、ノルマが下がったこともあり、2018年から22年までの5年間は還付金が増えた。その結果、政治資金収支報告書の不記載額は合計で411万円になった。つまり、ノルマの達成にきゅうきゅうとしていたものが、ノルマが少なくなったことにより還付金が増えてしまった、というのが経緯だという。

「収支報告書を修正をしなくてはならないことに対し、私は責任と同時にある種の悔しさを感じています。身に覚えのないところで還流が勝手になされ、二次災害に巻き込まれたようなものです。私自身、良心に恥じることは何もありません」

 裏金問題に関与した議員について、岸田文雄首相は国会会期末までに処分する考えを明らかにしたが、西田氏はこの秘書を処分したのだろうか。

「その秘書は、私が参院議員になる前から、オヤジ(元参院議員の西田吉宏氏)の代からの秘書なんです。裏金問題の件が起きて、秘書から真相を聞き、私の政治責任を痛感しました。私は当時『参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会』の委員長でしたが、ただちに委員長の辞任を党に申し出ました。秘書は『私はどうしたらいいですか』と言うから、『君はもう一度、運転手からやり直してくれ』と言って、運転手をしてもらっています」

西田昌司氏(撮影/上田耕司)

■「わからない」ではなく自分で調べるべき

 政倫審でのこれまでの証言を整理すると、22年4月、当時の派閥会長だった安倍晋三元首相に呼ばれて幹部らが集まり、「還付をやめる方針を決めた」(西村康稔前経産相)。その場にいたのは、安倍氏、西村氏、世耕氏、塩谷立元文科相、下村博文元政調会長の5人だったという。そして、安倍氏が銃撃事件で亡くなったのが同年7月。その1カ月後の8月には西村氏、塩谷氏、下村氏、世耕氏が集まり、「還付金がほしいという議員がいてそれをむげにはできず、結論は出なかった」(西村氏)という。一方で塩谷氏は、キックバック継続はやむを得ないとの方向で協議が終わったという趣旨の発言をしており、食い違いを見せていた。

 これらについて世耕氏は、西村氏と同じく「確定的なことは決まっていない」とし、還付金復活の経緯は「わからない」と答えた。さらに世耕氏は「検察に徹底捜査された結果、私については嫌疑なしと判断された」とも述べた。この発言について西田氏はこう批判する。

「もう検察の捜査は終わったから立件されない、オレは嫌疑なしなんだと言っている場合ではありません。検察の取り調べ中は、証拠隠滅の恐れもあるため、幹部たちが話し合うことは難しかったかもしれない。しかし、嫌疑なしと判断されたのなら、今後は幹部同士で『なぜ組織的な裏金づくりが長年にわたって続いてきたのか』『安倍元総理がやめろと言った後も誰が続けようと意思決定したのか』ということを解明することこそが政治責任でしょう。『知らない』『わからない』ばかり言うのではなく、自分たちで調べて、国民に説明することが必要なんです」

西田氏と安倍元首相とのツーショット写真

■安倍元首相への「裏切り行為」

 そして、最後に声を大にしてこう述べる。

「裏金問題で私が一番許せないのは安倍元総理に抜擢され要職を歴任してきた幹部たちが、安倍元総理の遺言を無視し、安倍元総理の名を汚していること。しかも、そのことを恥じていない。安倍元総理に対する完全な裏切り行為ですよ」

 下村博文元政調会長は18日、政倫審に出席し、その発言が注目されたが、還付金復活の経緯について「私は全く知らない」と答弁。肩すかしに終わった。この問題の闇はまだまだ深そうだ。

 (AERA dot.編集部・上田耕司)