万博会場の工事は順調に進んでいるように見えるが…

「数時間で池みたいになってしまい、びっくり。万博期間中に豪雨が降ったらどうなるんでしょうか」

 こう話すのは、万博会場建設の工事関係者Aさん。工事業者の駐車場付近で撮影したという写真を見せてくれたが、連日の雨で水がたまり、池のようになっていた。深いところでは、水深が10cm近くもあったという。

 開幕まで1年を切り、さまざまなイベントやPRが始まっている大阪・関西万博。だが、その工事現場では、悲惨な状況が続いている。

 AERA dot.では、これまでも会場予定地の地盤の悪さの問題をとりあげてきた。海外パビリオンの出展や、工事の遅れが危惧されているが、その原因の一つが地盤の悪さだというのだ。

 冒頭のAさんの写真や動画には、万博会場のあちこちで池のように水がたまった様子が映し出されている。

 Aさんが撮影したのは3月中旬から下旬にかけて。不安定な天気が続いた時期で、寒暖差も激しく、近畿地方では桜の開花も例年より遅かった。

 とはいえ、天気予報をさかのぼって確認しても、万博会場予定地の外では池のように水がたまるような雨量ではなかった。

「写真を見てもらえばわかりますが、長靴の作業員もいます。私も雨が降ると池かと思うほど水浸しになるので、車にはいつも長靴を積んでいます。それほど水はけが悪い地盤なんです。万博会場の北側、大手ゼネコンが請け負っている区域の駐車場はとりわけ水がたまりやすく、雨が降るとポンプを設置して、排水をしてなんとかやっている。それほど水はけが悪い地盤なので工事にも影響しています」(Aさん)

雨が降った後、池のようになった万博会場予定地の駐車場(Aさん提供)

■地下からメタンガスが漏れ出し爆発事故も

 大阪府の幹部によると、海外パビリオンの中には、建設が間に合わないため「撤退」や「見直し」をする国もありそうだという。この幹部が不安そうに話す。

「数カ国は撤退するようです。撤退した後の空き地は地面むき出しじゃかっこ悪いし、雨が降ればご指摘のような池か水たまりになる。芝生にするという案がありますが、ごみの埋立地でうまくいくのか」

 万博会場の夢洲(ゆめしま)は、もともとごみの埋め立て地だ。一般・産業廃棄物や建設残土、焼却灰などで埋め立てた上に5、6mほど砂や土をかぶせた場所が万博会場予定地となり、大屋根「リング」やパビリオン建設が進んでいる。

 3月19日、万博会場のトイレ内の溶接作業中、爆発事故が起きた。

 現場近くにいた作業員は、

「ドーンとすごい音がして、いったい何事かと騒ぎになった。実際に現場にいた作業員も必死で逃げていた」

 と振り返る。この事故でけが人はいなかったが、事故があった工区の工事は3日間ストップした。

 日本国際博覧会協会(万博協会)が発表した資料にはこう書かれている。

「土壌から発生した埋立ガスが、配管ピット内に入り滞留し、ガス濃度が高くなっていた」

 配管ピットとは工事エリアの床下に配管を通すための空間で、そこに溜まっていたガスが地上に漏れ出し、溶接工事の「火花が引火したことが、ガス爆発の直接的な原因と推測される」という。ガスは可燃性のメタンだという。

 そして、今後の対策としては、

「埋立ガス滞留のおそれがある箇所でのガス濃度測定を徹底」

「自然換気を常時実施する」

 などと書かれている。つまり、可燃性ガスの発生は止められないのだ。

 大阪市の幹部は、こう話す。

「埋め立てた廃棄物などから出たメタンガスが地中にたまるので、ガスを抜くために79本の管を入れていた。万博会場ではガスを100%抜け切ることができなかったのだろうか」

雨の後の万博会場予定地。水はけが悪く、なかなか水が引かないという(Aさん提供)

■能登半島地震クラスには耐えられない

 そして、地盤の脆弱さも大きな問題だ。これは、万博だけではなくその後に計画されているカジノを含む統合型リゾート・IRにも障害となりそうだ。

 万博協会は会場予定地のボーリング調査を実施しているが、その調査結果に驚くのは、海外パビリオンの建設にもかかわる設計事務所の幹部だ。

「この数字を見てください」

 そう言って幹部が示したのは、万博協会が2022年9月に万博会場予定地の中で実施したボーリング調査の結果を表わす「ボーリング柱状図」。地下の地盤の深さによって、地盤の強度を示すN値がどう変わるかが、グラフになっている。

「N値が話にならないほど低い。能登半島地震クラスがあれば、とても耐えることができません」

 そう言って、設計事務所幹部は顔をしかめる。

 図を見ると、N値は、深さ5m50cmあたりまでは、強度が高い20から30の数値を示しているが、それより深い地点は、調査した20m過ぎの深さまで、3から1と、ほとんど強度のない地盤が続いている。

 一般的なマンション建設の場合、鉄骨を地中に打ち込み「支持層」と呼ばれる固い地層に届くまで、10mから20mとされている。だが、この図面では20mまで深く打ち込んでも、支持層がないことがわかる。

 この地盤の脆弱さが、あるヨーロッパの国を怒らせたのだと、設計事務所幹部は言う。

 この国は、参加国が独自で建設する「タイプA」のパビリオンを予定していた。しかし、

「地盤が想像以上に弱くて、タイプAで強度を保って建設するのは開幕まで時間がなく難しいとゼネコンから指摘があった。しょうがないので、プレハブで建てて外装をデコレーションする方法でやるしかない。この国から視察にきた人は、『なぜこんな地盤が弱く、危ないところが会場なんだ』と怒っていました」(設計事務所幹部)

開幕まで1年を切り、大阪府の吉村知事はPRに力を入れるが…

 大阪府の吉村洋文知事は4月16日の記者会見で、

「タイプAのパビリオンは40前後になる」

 という見通しを明らかにした。昨年8月の時点で、タイプAは60カ国を予定していたが、タイプAから、万博協会が簡素な建物を建てて引き渡す「タイプX」や、協会の建物内に間借りして出品する「タイプC」への移行が進んでいるという。

 タイプAが減ることで、予定地に空き地ができることになる。これについて問われた吉村知事は、

「空き地にならないように芝生広場や休憩施設、物販施設として活用すればいい」

 と語った。吉村知事は、4月24日には、大阪府内の市長らを招き建設中の「大阪ヘルスケアパビリオン」を公開。「工事は順調」とアピールしていた。

 建築エコノミストの森山高至氏は、

「雨が降るだけで、池のようになるのですか? そんな地盤では海外パビリオン撤退の跡地を芝生にしても、根付かないので無理でしょう」

 と言い、こう警告する。

「このN値を見れば、夢洲が万博会場として不適格であるのは明白です。もともとごみ処理のための埋め立て地で、今回のようなガス爆発は当然、想定されていたはず。夢洲を万博のような国際的イベントの会場にすること自体が問題でした。万博開催中に地震があれば(建築物が傾いて沈む)不等沈下することも考えられます」

(AERA dot.編集部・今西憲之)

※当初の配信記事で「万博会場の夢洲(ゆめしま)は、もともと大阪湾フェニックス計画と呼ばれる大阪湾圏域から出るごみの埋め立て地だ。」という部分を、「万博会場の夢洲(ゆめしま)は、もともとごみの埋め立て地だ。」に修正しました。