小学3年生から始まる「外国語活動」用の教材。3、4年生は年間35時間授業が行われる

 いま学校では、情報通信機器を活用したICT教育をはじめ、親世代が受けたことのないさまざまな学びが行われている。親世代と子世代の教育体験には大きなギャップがあり、親たちも情報のアップデートが必要だ。4月に発売された『知っておきたい超スマート社会を生き抜くための教育トレンド 親と子のギャップをうめる』(笠間書院)では、そうした教育体験ギャップにクローズアップ。ここでは、共著者の一人、ジャーナリストの宮本さおりさんが、小学校の英語必修化の実態について紹介する。

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「ALT(エーエルティ―)」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。新しいアイドルグループの名前のようにも見えますが、いえいえそうではありません。これは小学校でも導入の始まったある教科の指導助手の呼び名です。

「ALT」とは、アシスタント・ランゲージ・ティーチャーの略。外国語指導助手のことを指します。我々親世代の頃は学校で英語を教科として教わるのは中学生からでした。そして、外国語を母国語とするこの「ALT」の授業を数回は受けたことがあるという人もいるでしょう。4年前に英語が小学生から教科化されたことにより、「ALT」による授業も小学校からになりました。

 そして今では小学校での活用が中学、高校を抜いています。文部科学省が公表した「ALT」の小・中・高での活用具合の調査によると、授業時間の割合は小学校が最も高く、授業の40%以上の時間を「ALT」による指導をしているという学校が7割を超えています。

 英語が小学校で正式な教科として扱われるようになったのは2020年度からですが、これまで小学校で教えてきた教員たちは教員免許取得時に英語の指導法は学んでいません。そこで頼りにされたのが「ALT」でした。千葉県の自治体などではこの「ALT」に加えて日本人教員の指導力を強化するべく、教員の指導を担うティーチング・アドバイザー(TA)を各校に派遣するところもありました。

■成績つくのは小5から

 英語学習のスタートは小学3年生からとなりましたが、この時点ではまだ教科ではなく「外国語活動」となっています。小学4年生までは教科ではないため、成績もつきません。成績がつくのは高学年となる小学5年生から。ゲームや歌などで英語に親しむための取り組みの多かった3、4年生の時とは違い、高学年は読み書きの学びもスタートします。

 覚える単語数は3年生から6年生までの4年間でおおむね600語から700語。そして、中学ではこれらの単語はすでに学習済みとして扱われ、授業が進んでいきます。しかし、小学校英語の指導力にはまだばらつきがある状態です。漢字ほど丁寧な指導は行われないまま、中学へと送り出されるケースも見られます。都内の私立中学で教える英語教諭は「小学校での英語指導は質の確保がまだおぼつかないため、英語嫌いを増やしてしまうという懸念がある」と漏らします。

 実際、文部科学省が行っている全国学力・学習状況調査では、英語が好きかとの問いに「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」と答える中3の生徒が減り、「当てはまらない」「どちらかといえば当てはまらない」と回答した生徒が増えています。正式に英語が小学校で科目となった翌年の2021年度の調査では、この二つの答えを選んだ生徒が全体の31.5%となり、2013年度の同じ調査と比べて8ポイント近く増えていました。また、23年度の調査では、「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」が4.6ポイント減って、52.3%にとどまりました。

 海外の学校では、公教育において外国語活動を低学年から行うところもありますが、日本とは状況が違います。例えばアメリカ中西部にある公立の学校では、日本の幼稚園年長にあたる年齢から外国語の学びが入っていますが、これはその地域の特性もこれを後押ししているからだと言えます。この公立学校は世界的に有名な大学のキャンパスエリア内にあり、学校に通う子どもたちも海外からの留学生の家庭や、研究者の家族が多くいるため多国籍化しているからです。多国籍の子ども同士の関わりが教室の中でもあるため、教室で学ぶだけでなく、外国語に触れる機会が日々の生活の中にあるのです。日常的に外国語に触れる機会のある中で外国語を学ぶのと、教室の中だけでしか外国語に触れないという環境ではおのずと身につき具合も変わるでしょう。

■家庭のコミットも影響

 一方で、幼少期からの習い事ランキングを見ると、英語や英会話は毎年上位に入ります。自身も東京育ちだという30代の2歳児の保護者は「自分が小学生の頃、教室で先生が英語を習っている人と聞いた時に、手を挙げていないのは私を含めて数人しかいませんでした。自分はすでに遅れているような気になってしまったので、我が子には必ず英語だけは習わせたいと思った」と話します。

 公立小に導入されたとはいえ、英語力の強化は家庭のコミット具合によるところが大きいのが現状です。一度嫌いになった学びを好きにするのは容易なことではありません。公教育として導入したのですから、できれば、家庭の経済力による格差はなるべく減らしたいところ。英語を使う機会の少ない日本において、いかに英語嫌いを作らずに中学への学びにつなげていけるか、ここが問われるようになっています。

 しかし、中学の学びの先取りのような形で行われる高学年の英語の学びは、良いことばかりではありません。小学校の段階で英語がすでに「嫌い」となってしまう子もいるからです。英語を学ぶ意欲を引き出し、学力をどう結びつけていくかが今後の小学校における英語教育の課題と言えます。

(ジャーナリスト・宮本さおり)

※AERAオンライン限定記事