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 試験や大事な会議など、集中力が必要な場面でトイレに行きたくなってしまうというのはよくあることだ。順天堂大学医学部教授・小林弘幸さんは「腸は『第二の脳』。腸内環境を整えることが、ひいては自律神経の乱れを整えることにもなる」と話す。小林さんの著書『自律神経の名医が教える集中力スイッチ』(アスコム刊)から、『腸』を整えて集中力を高める方法を紹介する。

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■緊張すると下痢しやすくなる理由は?

 じつは人間が感じるストレスは、脳から腸へと出されている命令を強くしてしまうため、その消化器運動にも大きな影響を与えるとされています。ストレスによって腸の収縮運動が激しくなると、普段よりも便が腸内を通過する速度が上がってしまい、便から充分に水分を吸収できずに下痢を引き起こしてしまう、というのが一連のメカニズムです。

 ストレスは自律神経のバランスを崩す大敵。しかし、自律神経によって腸の働きがコントロールされるのであれば、逆説的に腸内環境を整えることで自律神経の乱れも改善できるということです。自律神経のバランスを整えるうえで大切になるのが、朝の過ごし方。目覚めとともに交感神経は働き始めますが、「今日も一日がんばろう!」とやる気に満ちているのであれば、自律神経も良好な状態にあるといえるでしょう。

 一方で、起床して早々に憂鬱な気分になってしまう人は、充分な睡眠が得られていなかったり、副交感神経の働きが悪かったりする可能性があります。そんなときにおすすめしたいのが、コップ1杯の水を飲むことです。ちびちびと飲むのではなく、ぐいっと一気に飲み干してください。

 こうすることで胃に重さが加わり、その下にある大腸の上部が刺激されることによって、腸の働きを促すことができます。これを胃結腸反射といいますが、腸が伸縮するぜんどう運動を始めることによって、副交感神経の働きが高まるのです。

■腸には1日3食がベスト

 結論からいうと、自律神経のバランスを整えるためには一日に3回の食事がベストであり、ここに異論の余地はありません。たとえば、現代社会では運動不足が深刻な問題でもあるので、一日に必要な摂取カロリーをオーバーしてしまい、太ることを懸念して、食事の量ではなく食事の回数自体を減らしてしまう人がいます。

 しかし、食事には腸の働きを促す役割もありますので、先ほどの「コップ1杯の水」と同様に定期的に腸に刺激を与えることが、自律神経のバランスを整えることにも一役買っているのです。腸には「刺激を加えることによって動く」という、臓器としておもしろい性質があります。

 みなさんも、便秘のときにはお腹をマッサージして排便を促しますよね。要するに、一日の食事が1回であれば、腸には1回の刺激しか与えられず、同様に食事が2回であれば2回、3回であれば3回ということになります。一日の刺激が2回以下というのは少なすぎなので、腸をサボらせてしまっているともいえます。

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 逆に回数が多ければ多いほどいいというわけでもなく、つねに何かを食べ続けているようでは、腸も働きすぎでダウンしてしまいます。あくまでも適度な刺激と休息が必要なので、腸にとっては一日3回の食事が好ましいでしょう。

■食物繊維を食べて腸を整える

 脳と腸は密接な関係にあるため、自律神経が乱れると便秘や下痢といった症状になって現れますが、そういった体調にあるときは得てして気持ちが沈んでいたり、何事にもやる気が起きなかったり、メンタル面にも不調を抱えています。

 腸内環境が悪化すると、血流が乱れることによって「うっ滞」を引き起こします。これは腸の運動(ぜんどう運動)がしっかりと働かないために流れが悪くなり、いわゆる腸の動きが滞ってしまっている状態。うっ滞になると腸内で大腸菌やウェルシュ菌といった悪玉菌が増えてしまうので、腐敗物や毒素をたっぷり含んだ血液が全身へと送られてしまいます。

 メンタルが不調なときに便秘や肌荒れ、生理痛、アレルギーなどを引き起こすのもこのためです。一方で、便秘や下痢を治そうと腸内環境を整えると、日ごろから悩まされていたうつの症状まで改善したというケースが珍しくありません。

 私たちは食事によって栄養分を摂っていますが、それを吸収して血液を作る働きを担っているのが腸管です。腸が『第二の脳』ともいわれるように、腸内環境を整えることが、ひいては自律神経の乱れを整えることにもなるのです。

■日本人は食物繊維が不足しがち

 腸の働きを改善させ、腸内環境を良好な状態に保つためには、食物繊維の摂取が好ましいでしょう。食物繊維は人間の消化酵素では消化されにくい栄養素の総称であり、大まかには「不溶性食物繊維」と「水溶性食物繊維」のふたつに分類されます。

 不溶性食物繊維は、腸の中で水分や老廃物を吸収して膨らむため、便のかさが増し、ぜんどう運動を促す効果があります。ただし、便秘の場合は便が硬くなりすぎてしまうので、あまり摂りすぎないよう気をつけましょう。

 水溶性食物繊維は、水分を含むことでゲル状になり、水分量も増えることで便を柔らかく、排出しやすい状態にしてくれます。便秘のときには意識して摂取するとよいでしょう。

 そもそも日本人の場合は、一日の食物繊維の摂取量自体が不足しているといわれています。そのため、あまり不溶性や水溶性といったことにはこだわらず、ひとまず食物繊維が豊富な食品の摂取を心がけたほうがいいかもしれません。

『食物繊維が豊富なおもな食品』をイラストにしたので、参考にしてみてください。

食物繊維が豊富なおもな食品