チームメイトに祝福される(写真:アフロ)

 新天地ロサンゼルスでデビューを果たした大谷翔平が絶好調だ。銀行詐欺の疑いで訴追された水原一平・元通訳の違法賭博疑惑の影響など微塵も感じさせない。『米番記者が見た大谷翔平』(朝日新書)で米メディアの番記者による対談の進行役を務めた日本人ジャーナリストが、今季の大谷の活躍について共著者たちの見解を聞いた。浮かび上がったのは、これまで以上にチームメイトやメディアに心を開く大谷の姿だった。

■ 打撃でも世界一

 2024年の大谷は、打者として自身過去最高の開幕スタートを切った。

 米時間5月6日終了時点での打撃成績は、以下の通りだ。

打率.370(メジャーリーグ1位)

出塁率.434(2位)

長打率.705(1位)

OPS1.139(1位)

本塁打11(1位)

安打54(1位)

 打撃力の分かりやすい指標として、メジャーのファンや専門家が用いるのが、出塁率と長打率を足し合わせたOPSである。そのOPSで大谷は23年にメジャー1位。今季も現時点で1位。唯一無二の二刀流で「世界最高の野球選手」と称されるようになった大谷だが、打者としてだけ見ても世界一なのだ。

 「数字を見れば彼が野球界で最高の打者だということが分かる」とスポーツ専門メディア『ジ・アスレチック』でエンゼルスとドジャースを担当するサム・ブラム記者は言う。

 MVPを初受賞した21年から大谷を取材してきたサムは、今季の活躍にも驚きはないという。

 「(水原の)スキャンダルを乗り越えるのに少し時間がかかるとは思ったけど、それも杞憂だった。彼の活躍を近くで見てきたから、何があっても自分のやるべきことに集中できる精神的な強さがあるのを知っている。どこかでちょっとしたスランプには陥るだろうけど、それもすぐに克服すると思う」

 ドジャースの地元紙ロサンゼルス・タイムズでスポーツコラムニストを務めるディラン・ヘルナンデスも、大谷の活躍に驚きはないが、これまでよりスロースタートでもおかしくないと思っていたそうだ。

 「ナショナルリーグに移って、対戦したことのない投手が多い分、最初は手こずるんじゃないかと思っていた」と日本人の母を持つディランは流暢な日本語で語る。

 ムーキー・ベッツとフレディー・フリーマンという二人の強打者に挟まれていることも大谷に有利に働いているとサムもディランも分析する。相手投手は大谷を歩かせるわけにはいかず、ストライクゾーンに球を投げて勝負せざるを得ないからだ。

 「ドジャースが大谷と超大型契約を結んだことを心配していたファンは、ホッとしているだろうね」とサム。

■ 「意外に普通」

 フィールドでもクラブハウスでも、常に側にいた通訳の水原がいなくなったことで、大谷が以前よりもチームに溶け込んだとディランは言う。

すっかりチームに溶け込んだ(写真:アフロ)

 テオスカー・ヘルナンデス外野手など、最初から大谷に積極的に絡みに行ったチームメイトもいるが、中には「近づきにくかった」とディランに打ち明けるドジャースの選手もいたという。

 「自分のことはきっちりやるけど、あまり周りに関わりたくないんじゃないか、自己中心的なのではないか」という印象を持っていたそうだ。

 しかし、通訳がウィル・アイアトンに代わってから、大谷はチームメイトやコーチと直接、英語でやりとりする機会が増えた。

 「ウィルは、いつもすぐ隣にいるわけじゃなくて、ちょっと距離を置いている」とディランは言う。「そうなってから、何人かの選手が、大谷は『意外に普通なんだな』って僕に言ってきた。大谷は性格がいいから、話しかければ、嫌な奴という印象は与えないけど、以前は近付きにくかったんだろうね。大谷にとっても、今のクラブハウスは居心地がいいんじゃないかな。それはやっぱりプラスでしょ」

 エンゼルス時代に比べると、メディアと接する回数も時間も増えた、とディランは言う。

 「もっとオープンになったような気がする。野球以外のことも、ちょっと話すようになった。結婚してパートナーができて、ちょっと変わったのか?それとも水原通訳の事件があって変わったのか?」

■ 揺るぎない自信

 水原事件を通して、大谷の揺るぎない自信を感じたとディランは語る。

 大谷がスキャンダルについて声明を発表した3日後、ディランはロッカールームで大谷に、「水原がどうやって口座にアクセスしたのか」「なぜ誰も気付かなかったのか」を直接、日本語で質問しにいった。他の記者が遠慮しがちな状況でも、読者が気になっていることであれば取材するのがディランのスタイルだ。

 「普通の選手だったら嫌がる。ネガティブな話になると相手が緊張するのが伝わってくる。僕にアプローチされたら嫌なことを聞かれるんじゃないかと身構える選手もいる。でも大谷は、ただ『答えられない』と普通に答えた。フレンドリーだった」

 「水原事件で、多くの人が大谷に疑いを抱いていた。日本の報道陣は書いたり言ったりはしなかったけど、みんな『おかしい』とは思っていた。そういう中で、僕だったら『自分は何もやっていない!』と怒るだろうけど、大谷は平常心でいられた。自分がどういう人間かに自信があるんだろうね。『この場で説明しなくても、いつかは明らかになることだし』って。大谷がフィールド上ですごいのは分かっていたけど、人間としてもしっかりしている。アメリカに来た時に、日本でやってきたことに自信があると言っていたけど、人としても自信があるんだと思う」

 大谷の活躍もあり、ドジャースは24勝13敗でナ・リーグ西地区を独走している。ファン待望のワールドシリーズ優勝も、より現実味を帯びてきた。

今季初の1試合2発 2024年5月5日(写真:アフロ)

 全米のファンやメディアが一斉に野球に注目するのは、ポストシーズンに限られる。そこで活躍すれば、大谷の存在や人間性もより広く知られるようになるだろう。ドジャース移籍後、新たな一面を見せるようになった大谷が、シーズン後にアメリカでどのように評価されるのか。今から楽しみだ。