なぜか内閣支持率が上昇した岸田文雄首相

 内閣支持率に一喜一憂するのは永田町の常だが、支持率上昇で与党が困惑するという事態も珍しい。

 5月4日と5日に行われたJNN世論調査によると、岸田内閣の支持率は前回調査から7ポイント上昇し、29・8%になったという。

 この結果には自民党議員すら予想外だったようで、「TBS NEWS DIG」は6日、「そんなはずがない」「困るんだよ。どうするんだよ、(衆議院を)解散したら」と自民議員らがうろたえる様子を伝えた。

 岸田文雄首相は5月1日から6日間の日程でフランス、ブラジル、パラグアイを訪問していた。TBSは内閣支持率が「外遊後は上昇する傾向がある」と分析したが、度重なる増税や自民党の裏金問題など、内政で不満が蓄積する岸田内閣の評価が上がるのは意外な感もある。

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は「首相の外遊後に支持率が上昇するのは珍しいことではありません」と言う。

「私が民主党の事務局で働いてきた時、首相の露出度と政党支持率の相関を専門機関で調べてもらったことがあります。結果はシンプルで、『首相に関してポジティブなニュースが報じられると、支持率は上がる』というものでした。岸田さんの場合、昨年5月にG7広島サミットが開かれた時も支持率が上昇しました。今回の外遊はGW休みの間、3カ国での活動がさかんに報じられたので、有権者が好感を持ったのでしょう。ただし、外交での支持率上昇は長続きしません。おまけに岸田首相の場合、日本に帰れば裏金事件を筆頭にネガティブな報道が連続するのは明らかです。支持率は再び下落する可能性が高いと思います」

政治刷新車座対話で党員らの言葉にメモを取りながら耳を傾ける岸田文雄首相

■なぜ自民党は劣化したのか

 支持率が上昇したとはいえ、四捨五入しても30%。依然として低空飛行を続けていることは間違いない。さらに同じJNNの世論調査では、「次の衆院選で立憲民主党などによる政権交代」を望むという回答は6ポイント増えて48%に達した。伊藤氏はその背景をこう分析する。

「自民党の裏金事件ついて、岸田首相は衆院補選で3連敗するまで、国民の声に動揺する気配すらありませんでした。1988年にリクルート事件が起きた時、自民党はすぐに危機意識を持ち、迅速に動きました。特に後藤田正晴さんや伊東正義さんら大物政治家が党利党略を離れ、この国をどうするかという大局的な見地から政治改革を実現させたのです。あの時の議論は常に自民党がリードしていましたが、今の自民党は大物議員も新人議員も何も発言しません。どうして自民党はこれほど劣化したのか。やはり安倍一強の余波なのでしょう。岸田さんも安倍さんの人気を当て込み、それだけで選挙に勝ってきた。党の幹部クラスも政治家として成長する機会を失い、裏金事件のような大問題が起きても何をしたらいいのか分からないのだと思います」

 結局、自民党議員が関心を持っているのは、今年9月の総裁選前に「岸田首相が衆院を解散するかどうか」だけなのだろう。

「解散さえなければ、9月に新しい総裁を選べばいいと考えているのでしょう。総理総裁が変われば、多少は支持率が回復します。衆議院議員の任期は来年の10月までですが、とにかく総選挙は後回しにして、有権者の不満が沈静化するのを待つというのが自民党の本音だと思います。たとえ総選挙に追い込まれ、敗退したとしても、いざとなったら維新とでも連立を組んで政権を維持できると考えているはずです」(同・伊藤氏)

裏金問題で自民党を離党した谷川弥一衆院議員の会見

■有権者の怒りは持続する

 だが、このような“引き延ばし戦略”で自民党が危機を乗り切れるかどうかは未知数だ。場合によっては、次の衆院選で有権者が自民、公明、そして維新以外の候補者に票を投じる可能性もある。

「森友学園問題などを思い出してもらいたいのですが、これまで大きなスキャンダルが政権や自民党を揺るがしたとしても、『もっと他に国会で議論すべき重要な問題がある』という反論が必ず出てきました。ところが今回、こうした意見は目立っていません。なぜなら裏金事件は“政治とカネ”という、まさに国会で議論すべき重要な問題だからです。その分だけ有権者の怒りが持続する可能性があり、簡単には忘れられないでしょう」(同・伊藤氏)

 一時的に支持率が上がろうとも、岸田首相が追い詰められていることには変わりない。

(井荻稔)