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 子育て支援、少子化対策として、東京都と大阪府では、私立高校を含む授業料の無償化を進めています。無償化はどんな制度なのでしょうか。また、「高校の授業料がかからないなら」と、中学から私立の一貫校に進学する選択肢を考えるご家庭もあるかもしれませんが、金銭的なハードルはどのくらい下がったのでしょうか? 自身も子ども3人を育てたファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんに聞きました。

――東京都と大阪府が公立・私立高校の授業料の無償化に動きだしました。どのような制度なのでしょうか。

 無償化の話の前に、まず国の制度として、高校の授業料の助成には「高等学校等就学支援金」があります。これは文部科学省によって2010年4月からはじまった制度で、高校に通う子どもの授業料を国が助成するというものです。

文部科学省資料から。支給上限額は全日制の私立高校の場合。世帯の年収目安は両親・高校生・中学生の4人家族で両親のうち1人が働いている場合。家族構成別に年収目安は異なる

 共働きかどうか、また、子どもの人数や年齢によって対象となる年収額は異なります。一つの目安としては、両親のうち1人が働いていて高校生と中学生の子どもが1人ずついる場合、年収910万円未満の世帯に年11万8800円が支給されます。これは公立高校の授業料の年額に相当します。

 高校生が2人いる家庭の場合、11万8800円の助成を受けられるのは、両親のうち1人が働いている世帯の場合は年収約950万円未満、共働きの世帯は年収約1070万円未満となります。

 私立高校に入学した場合はどうでしょうか。両親のうち1人が働いていて高校生と中学生の子どもが1人ずつの場合は、年収590万円未満の世帯が年39万6000円の助成を受けられます。年収590万円以上の世帯は私立高校加算の対象となりません。

 これは国の制度なので、日本全国どこの高校に入っても同じです。この仕組みの上に、各都道府県が独自の助成を行っています。

 では、東京都についてみてみましょう。都立高校の場合、国のこの制度によって年収910万円未満の世帯は、すでに無償化されていました。24年度からは都の助成金で、910万円以上の世帯も無償化されることになりました。 

東京都教育委員会ウェブサイトから

 私立高校の場合はどうでしょうか。これまで、年収910万円未満の世帯は、国の高等学校等就学支援金と都の助成金をあわせて、東京都の私立高校の平均授業料である年47万円ほどが助成されていました。

 24年度以降は、この助成を年収910万円以上の世帯も受けられるようになり、金額も48万円ほどにアップしました(図3参照)。これは都民を対象としたものなので、都内から都外の私立高校へ通う際も対象となります。

東京都私学財団のウェブサイトから作成。年収目安は、保護者1人に給与所得がある夫婦と子ども2人のケース。年収は目安で、区市町村民税課税標準額に基づいた審査がある

 大阪府でも、公立高校と私立高校の授業料の無償化を目指しています。24年度は高校3年生から段階的にはじめ、26年度には全学年で無償化するとしています。大阪府が指定する府外の私立高校の場合も授業料無償化の対象です。 

――東京都では、全ての授業料を家庭が負担しなくてもよくなったのでしょうか。

 授業料が助成額を超える学校では、各家庭が負担しなければなりません。また、“授業料”の無償化ですから、入学金などは支援されません。例えば、東京都の私立高校の平均は、「入学金」25万4131円、「施設費」3万4956円、「その他」の19万2598円ですが、これらは自費です(図4参照)。「その他」は学校教材費や実習の材料費、修学旅行の積立金、後援会費などが含まれていて、毎年度、支払わなければなりません。

東京都ウェブサイトから。金額は延べ学校数(コース等により学費が異なる場合はそれぞれ1校として計算)の平均額。各費目の平均額の算出は、小数点第1位を四捨五入しているため、合計額が総額と一致しない場合がある。

 一方、東京都では、私立中学の授業料についても補助があります。これまでは年収910万円未満の世帯に対し、年間10万円を上限に補助していましたが、24年度以降、この所得制限もなくしました。

――金銭的には中学から私立に進学しやすくなり、受検して私立の中高一貫校に行くハードルが下がったと考えていいでしょうか。

 はい。しかし、「公立中学→私立高校」より、「私立中学→私立高校」のほうが金銭的にはもちろん負担が大きいです。東京都内の私立中学校の授業料は50万3774円、ほかにも入学金などがかかります(図5参照)。やはり私立中学については別世界だと思います。10万円の助成金があっても、どうしても授業料は高くなります。

東京都ウェブサイトから。金額は延べ学校数(コース等により学費が異なる場合はそれぞれ1校として計算)の平均額。各費目の平均額の算出は、小数点第1位を四捨五入しているため、合計額が総額と一致しない場合がある。

 たとえば、世帯年収500万円で子ども1人の場合であれば、公立中学校に行くなら、子どもに買うものを迷ったり困ったりすることはないでしょう。ですが、私立中学だとそうはいきません。

 私が相談を受けたなかで、こんなケースがありました。私立の中高一貫校に通っている中学生の子どもが、ある時、親御さんに「2万円貸して、あとで返すから」と言ってきたそうです。理由を尋ねたら、「友達と買い物に行くのだけど、万札をもっていかないと次から誘ってもらえなくなる。見せ金だからあとで返すから」ということだったそう。学費や入学金など学校に払うお金以外にも、負担が増える面もあるでしょう。

――今、首都圏では子どもの中学受験率が上昇しています。

 そうですね。私立の中高一貫校だけでなく、国公立の中高一貫校もありますし。以前、年収400万円ほどの方から、「子どもをどうしても入れたい私立中学があるが、金銭面では厳しい。教育ローンを組んででも入れたい」という相談がありました。年間の学費を調べたら、その方の年収の3分の1ほどでした。貯金は約300万円。当時は今のような助成金もありませんでしたが、どうしても行かせたいと言うのです。そうなると、プランニングの問題ではなく、生き方や信念の問題になってきます。お金の面では難しいけれど、それでもその学校に入れたい。その思いを貫きたいのだったら奥さんに少し働いてもらう、学費に特化した家計だという覚悟を持って、そのほかの楽しみを諦めてと伝えました。

 私立高校の授業料が無償化になったから中学から私立に、と考える前に、私立中学に入れられる年収や貯蓄があるか、あるいはそこまでの収入がなくても覚悟があるのか、まずは考えてみる必要があるでしょう。

(構成/永野原梨香)